漆原 智良(児童文学作家)

想像の世界を膨らませる

 ★幼児からの奇抜な質問
 「まっ白な雲のふとんの上で、カミナリの坊やが、ピョンピョンと楽しそうに、跳びはねてあそんでいました」
 先生の「読み聞かせ」が終わった時、突然男の子から質問が飛びました。
 「先生、雲の上にカミナリさま、ほんとうにいるの?」
 すると先生は首をかしげていいました。
 「いるんだねぇ。ゴロゴロっと音を出すときがあるものねえ」
 「そうか」
 園児は納得したようにうなずきました。園児はそれまで、作中の人物・カミナリになりきって作品にとけ込んでいたのでしょう。
 先生は、お話の世界を広げてあげるために「いるんだねぇ」と、ほほ笑んだのです。もし、このとき「本当はカミナリなんていないのよ。これはお話の世界なの」と否定したり、「カミナリは空中の放電によって起こる現象なのよ」などと、理解できない言葉で説明したら、「幼児の体内を駆け巡っていた想像の世界」は一瞬にして崩れ去ってしまいます。
 ★読み手の生き方を問われる作業
 子どもは、読後、矢継ぎ早に質問してくるものです。
 「海の中に新幹線走っている?」「雲の上に行きたいなあ、火星人いるのかな?」
 子どもたちの脳裏には、言葉の積み重ねによってイメージ化された想像の世界が豊かに広がっているのです。もし、そんなとき、「海の中に新幹線なんか走っているわけないでしょう。お母さん、海の中に入ったら、1分で苦しくなっちゃうわ」「この町の消防車のハシゴは10階までよ、雲の上なんて無理な話。火星人なんて、いまだに見つかっていないのよ」と、現実的な返答をしたのでは、子どもたちが耳にした物語の世界は膨らんでいきません。「子どもと一緒に物語を共有して遊ぶ」には、子どもの思いを引き寄せ、「海の中の新幹線、私も乗ってみたいなあ」「火星人が保育園に遊びに来るといいね」と、共感した言葉で包み込んであげることが大事なのです。
つまり、「読み聞かせ」は読み手の生き方を問われる作業でもあるのです。
 想像力は、「言葉にかかわって生きる」人間の営みの中で、もっとも根源的な力の一つでもあります。
 子どもは、想像を膨らませることによって自分と他者とのとか関係をつなぎ、自分の生きる世界を豊かにしていくものです。
 それは同時に、勇気と活力を生み出す根幹ともなっていることを忘れてはなりません。