親の意向に反する進路希望
若者のキモチ

教育・心理カウンセラー 玉永 公子

 Bさんは、両親が音楽教師だったこともあり、高校を卒業するまでは、音楽教師になろうと決めていた。しかし、大学1年のとき、傷ついた動物を保護するボランティア活動に参加して以来、動物にかかわる仕事につきたい、と進路を考え直すようになった。
 両親は、教師以外の道には大反対だった。親の意向をそのまま受け入れてしまえば、自分の本心を偽ることになるのではないか、とBさんの悩みは深刻になっていった。
 心理学者のエリクソンは少年期の課題として、自我同一性の達成をあげている。同一性の達成とは「これが本当の私だ」といった感覚のこと。その一方で、同一性拡散とは「自分が何であるか、わからない」状態であるという。
 また、マーシャ(心理学者)はこの自我同一性を、「悩んだり葛藤したりすることなく、同一性を達成した状態(早期完了群)」や「悩んだり葛藤した後に、同一性を達成した状態」などに分けて調査し、考察した。
 それによると、「早期完了群」の特徴として、「失敗すると自分を尊ぶ感情が大きく低下することや、権威に盲目的に追従する傾向が強いこと、柔軟性にかけ、堅さがあること」がよく見受けられる、と。逆に、悩んだ後の同一性達成群は、「地に足がついている」などとしている。
 大学入学までのBさんは、音楽教師を目指す自分の何の疑いもなく、「早期完了」の状態であった。が、10代の終わりごろから、そのことに疑問がわいてきた。そこで、動物にかかわることのできる職種や、比較心理学(動物心理学)を学べる大学への編入の可能性を探ったのである。
 両親の意向に反するのはつらいことだけれど、自分の求める道は何としても貫きたい――Bさんは、そう苦悩する中にあって、マーシャの〝心理学的知見〟を学んだ。その結果、自分の葛藤を客観的に見つめることができるようになったり、両親と対話を続けることも可能となった。自分が自分であるための〝生き方〟を今、賢明に模索しているのだ。
 Bさんがどの道を選択するにせよ、青年期に悩みや葛藤を経験することには大きな意味がある。