臨床心理士 吉田 晴美

 30年代後半のⅠさんは、仕事中に突然、呼吸ができなくなりました。息を吸おうとすればするほど苦しくなる。医者から「パニック障害です。会社を休んでゆっくり休養してください」と言われましたが、上司と相談して薬を飲みながら仕事を続けました。
 が、やはり症状はひどくなります。車の運転ができなくなり、電車通勤に変えたものの、電車内でパニック発作が発症。通勤すらできなくなりました。結局、しばらく休職し、妻と一緒にカウンセリングを受けることにしました。
 Ⅰさん一家は、夫婦と1男1女の4人家族。とちらも、子どもを一人ずつ連れての再婚でした。実はその頃、休む間もないほど仕事が忙しいかったこと、それに、思春期を迎えた子どもたちの反抗期が重なり、これまでにないストレスがかかっていたのです。
 妻と子どもたちが仲良く話しているところに、Ⅰさんが帰宅すると、子どもたちが自分の部屋にサッと引き揚げてしまうことも、しばじは。妻からは、子どもたちに冷たいとか、厳しすぎるといった指摘を受け、どう声をかければいいのかも分からず、家にいても孤独感を強くしていました。
 まじめで、物事を緻密に考えることが得意Ⅰさん。自分の状況についても、ついつい考えすぎてしまい。ますます苦しくなりました。
 カウンセリングでは、一人で頑張ろうとせず、周囲の助けを借りて解決するように提案されました。試しに妻に付き添ってもらい、電車に乗りました。不思議なことに、妻と一緒だと不安感が生じません。解決の糸口が見つかったように思えました。安心材料が一つ見つかったことで、自信も湧いてきました。その後、仕事や生活の中で、心に余裕を持たせる工夫などもするように――。
 Ⅰさんは今、会社のテレックスタイムを利用して、妻と時間を合わせ、ラッシュを避けて通勤しています。子どもたちとの関係はというと、妻とセラピストの両方から「思春期の子どもが父親を敬遠するのは、むしろ正常なこと」と説明され、一応は受け入れたようです。薬は続けていますが、症状は今のところ悪化していません。