今、静かなブームとなって見直されている、江戸時代の庶民の生活。中でも「江戸しぐさ」と呼ばれる、すがすがしい振る舞いには思いやりの精神があふれ、あらためて注目されています。今回は、江戸しぐさと礼儀の心について、装道(そうどう)・礼法の講師で「江戸しぐさ語りべの会」会員の滝川道子さんに話を聞きました。
相手を尊重して行う〝思草(しぐさ)〟
 ――「江戸しぐさ」を取り入れた礼法を教えているそうですね。
 はい。さまざまな講習やボランティアの中で、江戸しぐさを学んでいます。
 江戸しぐさの根本は、人のことを思いやって行動するという姿勢です。「江戸しぐさ語りべの会」主宰の越川禮子さんは、〝しぐさ〟は〝思草〟(思いやりの行動)だと語っています。
 百万人もの人々がひしめき合って住んでいた、江戸での都市生活で、どうすればみんながスムーズに共生していけるか。そうした〝助け合いの精神〟から生まれた知恵の数々が、江戸のしぐさなのです。
 ――代表的なものを教えてください。
 よく知られているのは「傘かしげ」「こぶし越浮かせ」ですね。雨や雪の日に往来で人とすれ違う時、滴でぬれないように互いに傘を外側へ傾げるのが「傘かしげ」。「こぶし越浮かせ」は、車内(昔は渡し舟の内)で後から人が乗ってきたら、乗客は自然と腰をこぶし一つ分浮かせ席を詰める行為です。「詰めて」と言われて動くのでは野暮(やぼ)とされたそうです。
 ――私たちがよく口にする「指切りげんまん、うそついたら針千本飲ます!」にも由来があると・・・。
 子どもに約束を守ることの大切さ、うそをつく罪の重さを教えた江戸期からの遊びですね。「げんまん」は〝げんこ1万個〟の意味だそうです。また「死んだらごめん」という言葉を添えることもあって、〝死なない限りは約束を守るよ〟という意味合いになります。
 江戸しぐさに一貫しているのは、相手を尊重する心です。江戸では「聞き上手」の人が尊ばれ、異国・異文化とのお付き合いを大切にし、人それぞれの違いを尊重して受け入れる「尊異論」をわきまえていました。
 「男しぐさ」「女しぐさ」というのも、性差を尊重し〝らしさ〟を発揮することです。
 町の寄り合いがあると、男性はあがりかまちから離れた玄関の外側(戸口側)に履物を並べ、内側(会場前)は女性のために空けておきました。これは、玄関で女性が〝またぐ〟行為をせずに済むようにとの配慮だったのです。心優しい紳士的な男しぐさですね。

つづく・・・