岩手大学名誉教授 大沢 博

アルツハイマーの原因は――

 私はかつて、「痴呆(当時の用語)老人には若い時から甘い物が好きだった人が多いことが調査で判明」(篠原恒樹、雑誌「壮快」1986年)という記事に目を引かれた。篠原氏から「アルツハイマー病患者の血糖とインスリン分泌」に関する外国の論文を知らせてもらい、この問題への関心を深め始めたのだ。

 認知症と血糖の関係を調べたところ、例えば、『痴呆の百科』(平凡社)には「繰り返す低血糖発作や、慢性持続性の低血糖により、人格変化、記憶障害、精神病様症状を呈し、ついには痴呆状態となる」と記されている。

 また、神経科学の専門家・黒田洋一郎氏の著書『ボケの原因を探る』(岩波新書)には、患者の脳に見られた特徴的な変化があげられている。黒田氏によれば、「脳のなかを流れる血液の量、酸素の消費量、ブドウ糖の消費量が、大脳皮質の側頭葉、頭頂葉などで正常の人よりも低くなっている」というのである。

 1992年には、雑誌「ビーコモン」が「若年性痴呆の恐怖」という特集記事を組んだ。その中に、患者の食生活の例が報告されていた。

 まず、男性Mさん(60歳)の場合。(雑誌発売当時の)3年前から、家族と口をきかなくなり、その後、「アルツハイマー」との診断を受けた。食生活面では、会社の生き帰りに、バター飴をいっぱい買い込んでいた。

 ほかに、駅前のパン屋のあんドーナツをよく買ってきた。しかも、帰宅後にシャワーで汗を流し、それを食べると、また買いに行く。それを一日の6、7回繰り返していたという。

 女性Sさん(61歳)は1年前から言葉を話せなくなった。その9年前には、アルツハイマーと診断されていた。極端に甘いかしょっぱいか――という味付けになり、程よい味のおかずを作ることができなくなった。

 以前はほとんど口にしなかったチョコレートをたくさん買ってきて、一人で食べるようになった。それ以降、不衛生な行動が現れ始めたという。

 二人の例から考えるに、砂糖過剰摂取→インスリン過剰分泌→糖欠乏による脳細胞の壊死(えし)というプロセスが浮かび上がってくる。