「時間は3分です。用意始め!」

 先月、市民のための夏季大学講座を担当した。筆者の講座のテーマ「心のエクササイズ」。内容は、構成的グループエンカウンター(以下、エンカウンター)といい、受講生がグループで話し合ったり、課題に取り組む体験学習である。話し声、笑い声、時に拍手も起きたりと、にぎやかな授業となった。

 エンカウンターとは、「出会い」という意味だ。心理学では、互いに見知らぬ他者と対面し、見知らぬ自分を発見することなどを目的とするプログラムの名称でもある。

 今回の講座でいえば、まず上述のようなエンカウンターの趣旨を簡単に説明した後、「全員起立してください」とうながす。いきなり教室で起立する?いったい何をするの?受講者は、不安気に起立する。そして知らない人同士で2人組をつくってもらう。

 「聞き合う」エクサザイズの開始だ。それぞれの組で、ジャンケンをする。大人には、ジャンケンなど久しぶりに違いない。しかも、場所は大学の教室内。はしゃぐような雰囲気が一気に広がった。なかなか勝負がつかず、笑いが起きる場面も、そして、勝った人は相手について知りたいことを質問する。時間は3分。答えたくない場合は、パスもOKとしておく。

 役割を交代した後、今度は内面的なことも含めて、もっといろいろ聞くよう指示し、同じことを繰り返す。いつの間にか、教室の空気は和らいでいた。

 それが終わると、シェアリング(分かち合い)を行い、進行役の筆者がコメントを加えた。さらにその後、4人組みをつくるなど、いくつかの形式でさまざまなエクササイズを展開した。

 授業後には、「新しい友達ができた」「連絡先の交換をした」などの感想が寄せられた。後日、お礼のはがきを送ってくれた受講生も・・・。

 エンカウンターはこの10年来、学校教育に急速に広まってきた。それは、児童・生徒の間に「ふれあい」が欠如していることの裏返しであろう。

 この連載でも触れたように、他者との「ふれあい」なくして、自分らしさを実感することはできない――今回の授業を通じて、そのことをあらためて確認した。

創価大学教育学部教授 吉川 成司