女性に対する暴力をなくす運動

「性暴力を、なくそう」

 

11月が児童虐待防止月間であることは前回のブログに書きましたが、それに加えて11月12日から25日までの2週間は、内閣府男女共同参画局などで構成する男女共同参画推進本部が「女性に対する暴力をなくす運動」を実施しています。

今年は、女性に対する暴力のうちでも特に「性暴力を、なくそう」がテーマになっています。

 

 

2020(令和2)年に男女共同参画局が実施した「男女間の暴力に関する調査」によると、「無理やりに性交等をされた被害体験」のある女性は、回答した人の7.2%、14人に1人にもなり、30代女性に限れば10.6%と10人に1人が被害にあったと答えています。

 

加害者のうち「まったく知らない人」は11.2%で、大多数は交際相手(元を含む)、配偶者(同)、学校や職場の関係者といった「被害者の知っている人」からのものです。

 

2022年版「男女共同参画白書」より

(図中の%は母数に無回答を含めているため、

文中の数字と若干異なっています)

 

さらに、この調査は20歳以上の人を対象としていますが、被害体験には子どものころの体験も含んでいます。女性の被害者全体では、加害者として「実親」1.6%、「きょうだい」1.6%、「養親・継親、親の交際相手」0.8%があげられており、18歳未満で被害体験があったという人に限ると、加害者が「父母など監護者(監督・保護する人)」だったという女性は、回答者の9.4%とほぼ1割です。

 

また、被害にあった女性のうち、回答者の39.1%、ほぼ4割が被害を誰にも相談できずにいます。

 

被害の影響ですが、「被害による生活上の変化があった」女性は72.7%にものぼり、内容(複数回答)としては「被害を受けた時の感覚がよみがえる」(24.0%)、「自分に自信がなくなった」(17.6%)、「人づきあいがうまくいかなくなった」(16.0%)などのほか、「死にたくなった」(12.0%)、「誰のことも信じられなくなった」(9.6%)と、性暴力が被害者の多くに深刻な影響を与えていることがうかがわれます。

 

なお、ここでは女性の被害体験だけをピックアップしましたが、女性に比べると少ないとはいえ、男性においても回答者の1%が被害体験ありと答えていますので、男性の性暴力被害についても、また機会をあらためて取り上げたいと思います。

 

女性への暴力の根絶を訴えるパープルリボン

 

ところで、ご存知の方も多いと思いますが、実父から性虐待を受けた被害の当事者で、後に実名でそれを公表し、性暴力被害に苦しむ女性への援助や性暴力を防ぐための運動に取り組んでいる山本潤さんについて簡単に紹介しておこうと思います。

 

 

山本さんは著書『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』で、13歳の春ごろ、寝ている布団に父親が入ってきて体を触られたことから始まる、7年間にも及ぶ性的虐待について語っています。

 

 

「私が初めて経験した性的な関係は、父との間で起こった一方的で支配的で抵抗できない強制的なものだった。」

 

実の父が胸やお尻を触わってくる——彼女は自分がいったい何をされているのか理解できなかったと言います。「変な感じ」や「嫌な感じ」はするけれど、それをどう理解し言葉で表現すればいいのか、またそのことを誰かに言っていいのかどうかも分からない。母親に「お父さんが布団に入ってくるから寝られない」と訴えたのが彼女にとっては最大限の「No!」の意思表示でした。母親は父親にきつく注意をしてくれましたが、しかし「寝られない」を文字通りに受け取っただけだったので、ほとぼりが冷めるとまた父親は布団に入ってくるようになります。

 

父親からの性虐待は、彼女が成人するころに父親が居酒屋の経営に失敗して家を出、姿を消すことでようやく終わります。

 

身体的暴力や性器の挿入まではありませんでしたが、その体験は彼女の中に深い傷を残します。

先の調査結果にあったように、自分は大切に扱われるだけの価値ある人間ではないという自己肯定感の欠落、誰にも分かってもらえないという無力感、自分を下の位置に置いてしまって対等な人間関係が結べない人づきあいの難しさなどに、父親から解放された後も山本さんは苦しめられることになります。

特に性的な関係では、父親から性虐待を受けたことで、親密な人間関係に入ることへの恐れが強く、一時期はあえてその場限りのいわゆる「ワンナイト」の性関係を繰り返したりもしたそうです。「関係のない関係の方が安全と感じられた」——のちにカウンセラーとの対話を通して山本さんは、当時の一夜限りの性関係をそのように理解できたそうです。

 

山本さんが「私」を取り戻す上で大きな力になったのは、ある男性との出会いでした。しかし、「男性といて安心という経験」がなかった彼女は、結婚後も「何かされるのではないか」という脅えを消し去ることができなかったと言います。

けれどもパートナーの男性は、「暴力も支配もない対等なコミュニケーション」で、彼女が抱いていたのとは「全く違う男性像」を示してくれ、そういう経験を積み重ねることで、山本さんの中に安全感や安心感が育ち、彼を心の底から信じることができるようになったそうです。

 

かつては「一方的で強制的で暴力的なモノ」だったセックスを、次のように感じられるようになったと彼女は書いています。

 

「よいもの

安心できるもの

気持ちいいもの

楽しいもの

喜びに満ちたもの

お互いにいつでも「やめて」「今日はここまで」と言えるもの

安全なもの

大切な贈り物のようなもの

お互いの同意があるもの

相手と共にするもの

心も身体も満たされる行動

性欲が満たされ安らぎを感じられるもの

 

そう感じられた初めての夜に、我知らず私は泣いた。それは喜びの涙だった。」

 

相手のプライベート・ゾーンに深く入り込む性行為は、尊重や同意なしには相手を深く傷つける暴力的で侵襲的なものになります。

人と人とを親密性の絆で結びつけ、人間の生きる力の源であり人生の喜びにもなるはずの性が、人を傷つけ貶める暴力的なものにならないよう、「性暴力を、なくそう」という声をさらに大きくあげていきたいと思います。

 

看護師・保健師になった山本潤さんは今、性暴力被害者支援看護師(SANE:Sexual Assault Nurse Examiner)として活動し、「性被害当事者が生きやすい社会へ」を掲げた一般社団法人「Spring」の代表理事も務めています。

 

 

参照資料

・山本潤『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』(朝日新聞出版、2017)

 

・山本潤「「誰も助けてくれない」「自分は価値がない人間だ」13歳から父親の性被害にあっていた女性の“悲痛な告白”」(文春オンライン、2021.5.22)

・山本潤「「犬に嚙まれたと思って忘れなさい」性暴力被害を受けた女性が感じ続けた“どうしようもない現実”とは」(同)

 

11月19日、パープルリボン色にライトアップされた太陽の塔を見に行ってきました🤗

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