夏休みのボツ短編「幸せの記憶」

 只今絶賛行き止まり中「カケラアツメ」

 

 更新しました\(^^)/


 いやはや、カケラに関しては、進みませんね、すみません。

 


 幸せの記憶も読んで感想いただけると幸いです。


 あ、もちろんカケラもお願いしますよ←


 キャラ絵が出来ちゃったりしてるんで、気が向いたら載せます。


 下手ですけどね。



 それではでは

 

 感想、おまちしております(キリッ





僕が目を覚ますと、延々と同じことを言っているようにしか聞こえない経が、僕の右耳から左耳に流れていく。

そこは、昨日通夜をした葬儀屋だった。僕はいつの間にかここに来ていたようだ。いつまでも寝ている僕を、神様か仏様のどちらかがここに連れてきたのかもしれない。約束は守ってやるから、早く行って来い、と。

僕は部屋を歩き回って、たくさんの人の顔を見る。そこには初めて見る顔もあった。多分親戚の人なのだろうが、会ったことが無いのだと思う。そんな人は何人もいた。できれば生きていた時に話をしておきたかったな、と思う。そうして歩いていると、クラスメイトや、他の学校やクラスの友人たちが、かたまって座っている所に来た。僕は皆の手に軽く触れていく。それは、握手をしたい僕の精一杯の行動だった。

手を触って歩いていくと、一緒に屋上に上った友人たちが集まって座っていた。僕は彼らの手に触れながら、「僕のことを忘れないで生きていってくれ」と言う。当然、彼らはそれには気付いていないが、僕はそれで十分だ。彼らは気付かなくても、僕は彼らに伝えた。自己満足だが、それは事実だ。

僕は彼らから離れると、祖母の傍に行った。そして、軽く手を握る。祖母は前を向いたまま微笑を浮かべて、コクリとうなずいた。

そして、僕は両親のもとに歩み寄る。言いたいことは山ほどある。けれど、それを言い出したらきりがない。だから、一番言いたいことだけを伝わらないけれど言っておきたい。

「ありがとう」

 僕はそれだけを言い、涙を流す両親に背を向ける。それは、僕にとっても悲しいことだが、仕方ない。振り返ってはいけない。振り返ったら、僕は未練たらたらのお化けの仲間入りだ。

 僕は、棺桶の中の自分を見に行く。自分の顔も、この目に焼き付けておきたい。もう少ししたら、焼かれて骨だけになってしまうのだから。

 僕が棺桶の中の自分から離れるために振り返ると、目の前には僕の葬儀のために集まった、たくさんの人間がいた。すると、それを見た僕の目から、急に涙が出てきた。自分がこんなにもたくさんの人間に想われていたと思っていなかったのだ。中には、親戚だから、クラスメイトだからと嫌々来ている人もいるかもしれない。しかし、僕のために泣いてくれている人もいる。

 彼らが僕に流す涙があるのなら、僕が彼らに流す涙があってもおかしくないはずだ。

そう、僕は今になって気付いたのだ。自分の周りに、どれだけの人間がいて、どれだけの人間に想われているのかを。今まで、僕は空気のような存在だと思っていた。友達もある程度はいたが、別に目立つ方というわけではない、いたって平凡な人間だった。もし、死んでしまっても、そこまで気に留められないのでは無いかとまで思っていた。けれど、それは違っていたのだ。僕の周りには、知らないうちにたくさんの人間がいたのだ。こんな僕のことを想ってくれる人間が、こんなにもいたのだ。

僕には、もう未練は無い。

こんなにもたくさんの人間に想われていることに気付けたのだから、もう、この世に留まってお化けになる心配はいらない。


僕に最後まで付き合ってくれた友人たちに、ありがとう。

こんな僕に優しく接してくれたクラスメイトに、ありがとう。

昔から僕に優しくしてくれた祖母に、ありがとう。

僕に生を与えてくれた両親に、ありがとう。

みんなみんな、ありがとう。


僕は届かない声を振り絞って、そう言った。

すると、急に大きな眠気が僕を襲った。これは、きっと成仏の前触れなのだ。直感的にそう思い、僕はゆっくりと目を閉じていく。

ふわっとした浮遊感と共に、春の陽気のような暖かい光が僕を包む。心地よくなった僕は、深い眠りについた。




一人の老人が

「これは心理テストです。もしも、もう一度生まれ変われるのなら、あなたは何に生まれ変わりたいですか?」と僕に言った。

それに僕は迷わず

「もう一度、僕に生まれたいです」と答えた。

僕の答えに彼は、優しく笑った。そして、こう言った。


「あなたは、幸せ者です」と。












僕はいつの間にか眠ってしまっていた。幽霊も眠るのか、と自分に驚きながらも和室に向かうと、そこに僕の死体は無かった。多分、葬儀屋が引き取って行ったのだろう。そして、父も母も家にはいなかった。色々と、僕の葬式で忙しいのだろう。

この家に独りになってしまった僕は、昨日の晩と同じように窓から外に出た。(さっき、僕にも漫画によく出てくる幽霊のように壁をすり抜けられたりするのかと思い、玄関のドアにぶつかってみたが、それは出来なかった。)そして、学校に向かう。今日は平日のはずだ。当然、皆に僕の姿は見えないだろうが、僕は皆の姿を見ることができる。だから、いつこの世を離れてもいいように仲間の姿を見ておくのだ。

昨日とは違い、のんびり歩いたため、学校まで十五分ほどかかった。学校に着いた時、時計が指していたのは七時五十五分。今の僕は関係ないが、遅刻では無い。そして、この時間は七割方の生徒が教室にいる。そんな教室に僕はゆっくりと向かう。そこに辿り着くまでに、何人かの生徒とすれ違ったが全く存在に気付かれなかった。

教室に入ると、そこはいつもの教室とは思えないほど重苦しい空気だった。皆が黙り込んで、僕の席の周りに集まっている。その集団には一緒に屋上に上った友人たちもいた。

「俺も死ぬよ。カズだけ死ぬなんて、不公平だよ」

「馬鹿。お前が死ぬなら俺も死ぬ。同じことをしたんだからな」

「お前らはいいんだよ! 誘った俺が死ねばいいんだ」

「いや、俺らもその誘いに乗ったんだから、同罪だよ」

 四人が言いあいを始める。それは、友情なのかもしれないが、僕には全然嬉しくない。彼らが死んでも、僕は何も嬉しくないのだ。

「馬鹿じゃないの?」

 四人の言いあいを止めるかのように、女子生徒の静かな声が教室に響いた。その女子生徒とは、僕らとも仲の良かった女子だった。

「ねぇ、カズの為に、あんたたちが死んで、カズが何の得をするの? あんたたちは罪滅ぼしのつもりなのかもしれないけれど、そんなのあいつには無意味よ。だって……」

 彼女は、まるで僕の言葉を代弁するかのように言った。そして彼女は、ぽろぽろと涙を流しだす。そんな彼女を見た僕の友人四人は、慌てて彼女に駆け寄る。

「だって、カズは、あんたたちが死んだら悲しむに決まっているんだもの!」

 彼女は声を震わせながら言った。彼女は見事なほどに、僕の声を皆に伝えた。それは、四人にも伝わったらしく、「俺たちは、あいつの分まで生きる」と言った。それは、僕が期待していた答えだ。それでいいのだ。それこそが僕が望む、彼らの未来の選択肢の模範解答だ。

 僕はその言葉を聞いて安心した。彼らが、もし罪の意識を感じて死んでしまったらどうしようかと、心の奥底で思っていたからだ。

 それから、教室には先生が入ってきて、今日の僕の通夜に来るように言った。僕は、何か不思議な気分だった。自分はここにいるのに、今日は自分の通夜だと言われるのは、クラスぐるみでいじめられているような気分だった。もっとも、そんなことはされたことがないのだけれど。

 それからしばらく学校にいて、教室内をぐるぐる回ったが、誰にも気づかれないということに寂しさが込み上げてきたため、僕は学校を後にし、近所を散歩することにした。

 幽霊になってしまえば、前を通るだけで吠える近所の犬も怖くない。僕は近所のおばさんたちの井戸端会議に耳を傾ける。予想はしていたが、その話の内容は僕のことだった。自分のことを聞いても面白くないので、僕は河原に向かった。

 ここは、僕が幼いころよく遊んだ場所の一つだ。何をして遊んでいたのかはあまり思い出せないが、休日は父とよく遊びに来たことは覚えている。僕は思い出の河原の草むらに寝そべる。青空が僕の目の前に広がった。白い雲が、ゆっくりと流れていく。のんびりと流れている雲を眺めていると、急に睡魔に襲われた。そして、いつのまにか僕は、眠ってしまった。


 目を覚ますと、目の前には綺麗な夕焼け空が広がっていた。橙色の光が川に映って、見事な景色だ。

 景色を眺めていると、通夜のことを思い出し、僕は急いで家に向かう。家に着くと、そこには田舎から来た祖母を車に乗せる母がいた。慌てて僕も祖母と一緒に車に乗り込み、後部座席に座る祖母の隣に座ると、車が発進した。

 車が走り出してすぐに、祖母が口を開いた。

「カズちゃんの方が、おばあちゃんより先にいっちゃうなんてねぇ」「えぇ……」

「まさか、孫の葬式に行くなんて、思いもしなかったよ」

「私だって、息子の葬式になんて行くつもりありませんでしたよ」

 母の頬を涙が一筋流れた。祖母はそれに気付いたようで、ハンカチを母に無言で渡した。

「ばあちゃん、長生きしてくれよ」と、僕は聞こえないと承知で祖母に言った。すると祖母が、目を見開き、僕の方を見る。聞こえたのだろうか、と思っていると、また前を向いて母と話をし始めた。

 そうしていると、葬儀屋に着いた。祖母と母が車から降りるのにくっついて僕も車から降りた。そこには、喪服姿の親戚や制服姿のクラスメイトたちがたくさんいた。そんな彼らに僕は声をかけたいのだが、かけられないのが現実だ。

 あちこちをウロウロとして、色々な人や物を見ていると、通夜が始まった。花に囲まれた僕の写真は、いつ撮られたものなのかは分からないが、自分でも驚くほど幸せそうな笑みを浮かべていた。

 少しすると、聞いているこっちもうんざりしてくるような長い経があげられた。生前は、死者にだけわかる言葉か何かなのかと思っていたが、残念ながら僕にはこの言葉の意味がよく分からない。ということは、死者へのメッセージなどではないのかもしれない。

 永遠に続くのではないかと心配になる経を茫然と聞いていると、いつのまにか通夜は終わっていて、通夜をした部屋には誰もいなくなっていた。僕は自分の棺桶の前に立つ。棺桶の中に入れられた自分をただ見つめる自分。それは、とても不思議な感覚だった。

「カズちゃん、大きくなったんだねぇ」

 僕の肩が急に背後から聞こえた声に、ビクッと動いた。誰もいなかったはずなのに、と僕はゆっくりと振り返る。そこには、祖母が目を細めて立っていた。その目は、棺桶の中の僕を見ているはずなのだが、棺桶の前に立ちすくんでいる僕を見ている気がした。

「おばあちゃん、もっと早くカズちゃんに会いに行くべきだったね」

 祖母は悲しそうな表情を浮かべる。そんな祖母に、今、「会いに来てくれているんだからいいよ」と言った。祖母に届かないことは分かっているが、言っておきたかったのだ。

「うふふ。カズちゃんは、本当に優しいねえ」

 祖母のその言葉に、僕は確信した。祖母には僕の声が届いている。理由はよく分からないけれど、車の時といい、今といい、僕の言葉に反応している。

「お義母さん! こんな所にいたんですか」

 僕が茫然としていると、母が祖母に近づいてきた。そんな母に祖母は「カズちゃんと、話したんだよ。あの子は、やっぱり優しい子だよ」と言ったが、母はそんな祖母の話を流すように聞いた。やはり、信じていないのだろう。その母の対応は、自分の存在を否定されたような気がして痛むはずの無い胸が痛んだ気がしたが、母の反応が一般的なのだと自分に言い聞かせた。

 その日の晩、僕は葬儀屋から抜け出し、夜道を散歩した。夜の散歩なんて初めてだ。僕は、夜道に少しウキウキしながら暗い住宅街を歩いた。空では無数の星たちが、孤独な僕を嘲笑うように瞬いている。そのうち、僕もあの星たちの仲間入りをするのだろうか、などと考えていると、いつのまにか夕方の河原に来ていた。どのくらい歩いたのかは分からない。けれど、僕の目の前にあるのは、思い出の河原だった。

 昼間と同じように、草むらに寝そべる。さっきの住宅街からは見えなかった、丸い黄金色の月が夜空に浮かんでいた。それを見ていると、子供のころ両親とした月見を思い出した。

あれは、僕が幼稚園の頃の話だ。月見の絵本を見て、自分もやりたいと両親にねだって、この河原でやってもらったのだ。家の庭や、ベランダからは月が見えなかったため、父がこの河原に団子を持って行って、月見をしようと言いだしたのだ。そして、三人でこの河原に来て月を見て、僕がはしゃいで団子をほとんど落としてして泣きじゃくってしまった。それで、そんな僕を見た父が慌てて近くのコンビニでみたらし団子を買ってきて、僕は絵本と違うと文句を言いながら食べたのだ。

今思えば、父さんには悪いことをしたなと思う。また、謝ろうかなと一瞬思ったが、謝れないことを思い出し、僕は悲しくなる。

こうやって色々と思いだしていると、この世への未練がどんどんと強くなっていった。したいことがどんどん出てくる。火で焼かれる自分を見る前に早く成仏したいと思っていた僕の中に、小さな迷いが生まれた。その小さな迷いはどんどん大きくなり、僕のこの世への未練も膨らんでいく。そんな僕に、心の中のもう一人の僕がこう囁いた。

「僕がこの世で何ができる?」

その自分自身からの言葉に、僕の中の迷いのいくつかが、シャボン玉が割れてしまうように消えた。

僕がこの世にいて、何が変わるのか。何も出来ない、何も言えない僕が、この世に留まるということは、ただのこの世に未練があるお化けになるということなのだろう。「うらめしや~」と言って出てくる奴らと僕は同じになるということなのだ。そんなのは嫌だ。今の僕には、何も恨めしいことは無いのだが、ここに留まり続けることでそんな感情が生まれないとも言い切れない。いつまでもここにいては、友人たちを恨む気持ちが生まれてしまうかもしれない。祟ってしまうかもしれない。だから、僕は早くあの世にいかなければならない。自分や他の人を守るためにも。

けれど、もう一回だけ、もう一回だけ皆の顔をこの瞳に焼き付けたい。神様か仏様か分からないけれど、大切な仲間の顔を、もう一度見てからでもいいだろう? 神様や仏様だから、そのくらいの自由、許してくれるよな?

僕はゆっくりと目を閉じた。