「おはよう!」

朝、母の部屋に行き、
カーテンを開ける
「もう、朝?」と
眠そうな眼をこすりながら
つぶやく母を見ると
ほっとする

食が細くなった
脚が益々 細くなった
昨日は簡単に出来た動作の
ひとつひとつが 
難しかったり
出来なくなったり
コーヒーカップを持つ手も
震えている

歳を取るということ

幼き頃は
昨日出来なかったことが
今日は出来るようになったと
そのひとつひとつが
喜びだったり
幸せだったりするものだけれど

歳を取ると
昨日出来たことが
今日は突然出来なくなったり
昨日あれだけ食べれたのに
今日はその半分しか
口に運ばなくなったり

生きていること そのものが
苦しみとなり
辛い日々と化す

歳を取るということは
こういうことなのかな?
出来ることが
日に日に少なくなっていく
食べれるものが
だんだん少なくなってくる

あんなに大好きだったお刺身も
あんなに大好きだったステーキも
二言目には
「いらない」「食べたくない」と
まるで
食べることが苦しみのように見える

玄関の戸を開けたら
芳しい甘い香りを楽しませてくれた
金木犀の木のように

裏庭の梅の木の
淡いピンクの八重桜の木のように
いつしか枯れてしまうのかな

この家に生きてきた人の生命の灯が
ひとつ また ひとつと
消えてゆく その歴史を

長い 長い年月
じっと見守ってきてくれた
樹木の生命の灯が
消えてゆくその瞬間が
そう遠い先ではないことを感じながら

心地よい朝日の輝きの中で
うっすらと
母が 目覚める