「  二つの顔を持つ乗客 」 (2001年)

(ゲスト)
水嶋怜子…藤真利子、 水嶋初江…正司歌江、 水嶋正幸…近童弐吉、 沢井誠…春田純一、 田之倉隆三…中山仁、 田之倉和代…江口ナオ、 藤田克彦…神田利則、山内祥一郎…成瀬正孝、 青井里美…伊藤美紀

オープニング。タクシーで急患を運ぶときは、あらゆる面で細心の注意が必要。
深見さんと蓉子さんの詐欺夫婦、枕をお腹にいれて妊婦を装い、病院到着時のどさくさに紛れてタクシー代をちょろまかそうとするが、枕の穴から出たそば殻が大量にタクシーに残ったことで夜明さんに気づかれ、御用。
道中の車内でのやり取りが面白かった。「生まれる、生まれる」と叫ぶ蓉子さんに、よせよ、タクシーの中で生まれたら子供が不憫だろ!と返す深見さん。二人でヒー、ヒー、フーとラマーズ法を実践。でも、それ、生まれちゃうやつじゃないの?
臨場した警察官との「夜明警部補ではありませんか」、「被害届、適当に書いといて」のやり取りの後、おばあちゃんが停車中のタクシーに乗っているのを発見。客ゲットと思いきや、徘徊中のおばあさんで、そっちに警察官が対応している隙に、深見さんたちは逃げようとするし、とカオスな状況に。「商売になんねぇよ」と夜明さんが愚痴るのも無理ない。

今回、いつものテーマソングが復活。やっぱりこれでないと。

稼ぎが少ないことを愚痴っている夜明さんに迎車の指示。横浜までのお客さんと聞いて「一万円コース、ラッキー」と喜び勇んで向かった先は、怜子がママを務めるクラブ「砂の城」。客(成瀬さん演じる山内)が体調を崩したので、タクシーで横浜までお願いしたい、との依頼だったのだけど、一緒に乗り込んだ怜子が、山内の容体を心配にして、横浜ではなく麻布で降りることに。「横浜・・・じゃなくて、麻布・・・ですよね」と落胆する夜明さんに、「ごめんなさいね」という謝る怜子。

青井里美と同棲していた「松井秀喜」が鈍器で殴られて死亡。「松井秀喜」は偽名。里美は1年くらい前に大阪で知り合って付き合うようになり、半年前、一緒に東京に出てきたが、本名は知らないままだった、という。身元の手がかりは、「松井」が言っていた「遠州の人間はやらまいか」という言葉。

大同交通では介護タクシーの導入を検討しており、すでに運用を始めている浜松タクシーに夜明さんが研修に行くことに。
命じられた当初は嫌々だった夜明さんも、いざ出発してみると、「うなぎ食って、温泉に入って、あと何食うかなぁ」と結構ノリノリに。

研修で、介護タクシーに設置されているいろいろな装置を見学する夜明さん。さらに、「一度試着してみて下さい」と、大人用紙おむつを渡される。これが後のカオスの元に。

浜松タクシーの運転手で、介護ヘルパーの資格を持ち、夜明さんを案内してくれる沢井。女手一つで育ててくれたお母さんが脳溢血で倒れて、寝たきりになり亡くなった、という経験があるから、介護は他人ごとではない、という思いで、親身になってやっている。ブラックが定番の春田さんが珍しくホワイト。

沢井のタクシーの無線に、徘徊老人の保護要請の連絡。中田島砂丘を、初江が、犬のぬいぐるみを引きずりながら歩いているところを保護。 初江は怜子の姑。 怜子も駆け付け初江が保護されたことに安どした様子を見せる。夜明さんは、怜子が、”横浜までラッキー→麻布かよ”の客だと気づくが、怜子が初対面であるかのように振舞うので、空気を読んで、それに合わせる。

初江は、4年前に転んで足を骨折したことがきっかけで認知症を発症。怜子は、初江を施設に預け、ウィークデーは東京で働いているが、週末になると浜松へ帰って初江を家に引き取り、世話をしている、との沢井の説明。沢井は怜子が水商売をしていることを知らない。さっき怜子が夜明さんと初対面のようにふるまったのは、水商売をしていることを知られたくないから。
そんなところへ、現れる東山と国代。4日前に殺された「松井秀喜」は、怜子の夫で、初江の息子である水嶋正幸であることが判明。怜子が遺体を引き取りに行くことになる。

夜明さんの指示に従って、ホテルで待っている東山と国代。「オレンジ色がやってくるでしょう」という東山の言葉に合わせるように、窓の外に現れる夜明タクシー。「はい、来ましたぁ」。車から降り、窓ガラスの外に立って、ダラララララと両手でドラムのように窓ガラスを叩いた上でこっちに来い、と手招きする夜明さん。

分かりにくいけど、 ダラララララ

子供がやったら怒られるやつ

「早く乗れよ」「俺、仕事が終わって、東京に帰るところだから。ついでだから」と甘い言葉で誘い出す。そして、結果がこれ。

前に夜明さん、東山、国代の3人。後ろに怜子1人という無理な態勢。

警察に怒られるやつ。
そして、当然のように、ピッ、ピッっと上がっていくメーター。

タクシーの押し売り。ひどい。

狭苦しい車内で「松井秀喜」=水島正幸にたどり着いた経緯を説明する東山。遠州=静岡出身というところから、静岡県警に問い合わせたところ、捜索願が出されていた正幸にたどり着いた、とのこと。

怜子が遺体を正幸と確認。
正幸はもともと浜松市内で小料理屋をやっていたが、手を広げすぎ、借金で首が回らなくなったため、東京へ逃亡した。借金の時効が完成する5年逃げ切ったら戻ってくる、と言って出ていったが、出ていてから全く連絡がなく、不安になったので逃亡から1年後に捜索願を出した、という怜子の説明。

正幸殺しの第一の容疑者は、里美に言い寄っていた藤田克彦。ストーカーチックな行動と、犯行の前に、仕事を休んでいたことから、最有力な容疑者に。

捜査中の東山と国代のもとへ、田之倉隆三が訪れる。水嶋正幸が殺された、と報道で知って訪ねて来た、妻の和代を探してほしいという依頼。田之倉によれば、正幸は、東京へ、和代と一緒に逃亡したらしい。
正幸は、怜子という妻がありながら、和代と一緒に逃げ、その後、和代を捨て、里美に乗り換えた、ということになる。「水嶋っていうのはいったいどういう男なんですかね。女房がいるのに次から次へと女を作って」という東山の言葉が、すごくごもっとも。

怜子の店「砂の城」を訪れて、意味ありげな視線を怜子に送る田之倉。

夜明さん宅を訪れる神谷さんたち一行。神谷さんはタクシー代をお支払い。支払った分、元を取らないと言わんばかりに事件の相談をする。
和代が正幸と逃亡する際、2000万円を持ち出した。そのこともあり、和代と正幸の関係は地元では噂になっていたから怜子が知らなかったはずはない、そんな不誠実な正幸を怜子が黙って待ち続けたというのは不自然、怜子が怪しい、と言う神谷さんに対し、証拠がないのに決め打ちするのは物事を柔軟に考えられない証拠、老化現象だ、と非難する夜明さん。

そんなところへ、合コン帰りでほろ酔い気味のあゆみちゃんがやってくる。「お前遊ばすために大学院やってんじゃないぞ」「親の話を聞け」と怒る夜明さんに、「固いこと言わないの」「私は、残り少ない青春時代を精一杯生きてるの。今は親のことなんか考えたくないの」とわたままに反発する。これは悪いあゆみちゃん。
でも、バン、と扉を閉めて夜明さんの寝室?に入ったところで、夜明さんが研修でもらった大人用紙おむつを発見。「ごめんなさい、私、知らなかった。お父さんが、こんなことになってたなんて」「お父さん、ごめんなさい」と泣きながら謝るところがかわいい。これは良いあゆみちゃん。

「紙おむつ!」という東山と国代のユニゾンの後の、夜明さんの必死の否定と、皆さんの気まずそうな慰めが面白い。

神谷さん:私も時々ちびるときあるけど、そこまでは・・・(ちびるんだw)
東山・国代:恥ずかしくないです、恥ずかしくないです
あゆみちゃんが泣き崩れて、カオスの最高潮に



夜明さんに怜子から迎車の指名。浜松へ帰るのにタクシーを使いたいとのこと。事件の筋とは関係ないけど、正幸の葬儀に初江は参列させなかったことについて、「知らなくていい悲しみも、あると思うんです」という怜子の言葉にちょっと考えさせられた。
怜子の店は、名前が「砂の城」、店で提供した粗品が砂時計、店に貼ってある写真が砂丘の写真、と、怜子の地元(浜松、中田島砂丘)に対する強い思い入れがちりばめられている。

里美に対するストーカー行為を理由に藤田が逮捕される。
東山たちが、これで正幸殺しも解決か、と思ったところへ、神谷さんから「浜名湖で田之倉和代が自殺したらしい」という連絡。

浜松までの途中休憩で、怜子が夜明さんに「どうして刑事をお辞めになったんですか」と尋ねるいつもの会話。さらに、怜子の初江に対する献身に関する会話。「実の親じゃない、他人だからできるのかもしれません。介護って、そういうものでしょ」という怜子の言葉を、夜明さんは否定した上で「あなたは家族を大切にする人なんです」と言う。この夜明さんの言葉、怜子を励まそうとしてのものだけど、犯行動機を言い当てたものであり、後の「見透かされた気分になった」という怜子の言葉は、なるほどなぁ、皮肉だなぁと思った。

浜名湖に一同集合。浜名湖に浮かんでいるボートに、田之倉和代の遺書と血痕のついたペンダントが残されていたことから和代は自殺したものと考えられたが、遺体はあがらない。

神谷さんの命令で怜子の周辺を捜査する東山たち。車で来ている、と抵抗する東山たちを無理やりタクシーに乗せて、捜査に同行する夜明さん。タクシーの押し売り、今回も絶好調。
周辺への聴き込みから、初江は息子の正幸よりも嫁の怜子の方をかわいがっていたこと、和代の正幸への入れ込みようが半端じゃなかったこと、が分かる。

和代の遺体はあがらないが、鑑定の結果、ペンダントに付着していた結婚は正幸のものと判明。
さらに、警視庁に匿名の探偵から手紙が届く。その内容は、田之倉から依頼を受けて正幸と和代の所在を突き止め報告をした直後に正幸が殺された、というもの。これにより、正幸、和代いずれの殺人についても、田之倉が最有力容疑者に。

浜松に来たので、研修で世話になった浜松タクシーへお土産を持って挨拶に行く夜明さん。しかし、体調を崩し、浜松タクシー自慢の介護タクシーでホテルへ搬送される。
ホテルでの、夜明さんとの会話の中で、正幸と田之倉に対する嫌悪をあらわにする沢井。正幸は怜子を不幸にしたから、田之倉は金もうけのために何人もの人間を不幸にしてきたから、というのがその理由。

夜になり、ホテルで寝ている夜明さんの下へあゆみちゃんと東山・国代がやってくる。浜松タクシーに聴き込みに行ったとき沢井から夜明さんのことを聞いて、あゆみちゃんに連絡をしたとのこと。みんな優しいなぁ。
と思ったら、夜明さんの部屋になぜか並べてあった豪華料理を目の前に対した東山たち、寝ている夜明さんをそっちのけで(一応、食べていいですよね、と声はかけるけど)食事開始。みんなひどいなぁ。

その夜、田之倉がナイフで刺されて死亡。品川埠頭で遺体が発見される。

翌朝、夜明さんが泊まっているホテルへ、怜子がお弁当持参で見舞いにきて、あゆみちゃんと遭遇。怜子をぴったりマークし、監視の目を送って、「お父さんこそ、静岡に何しにきたのよ」と不機嫌になるあゆみちゃん。だけど、夜明さんとの別れ際には「お父さん、いつも言っているけど、好きな人ができたら結婚していいのよ。病気になった時、一人じゃ寂しいでしょ」と言ってあげるくらいには大人になった。
さらに、具合が悪くなったらすぐ電話して、と夜明さんに自分の携帯電話を貸してあげる。やさしい。

弁当の容器を返しに怜子を訪ねた夜明さん。怜子は初江と一緒にアルバムを見ていた。水嶋家が以前飼っていたが4年前によそへ譲った紀州犬タローの写真や、正幸と怜子がバイクにまたがっている写真など、さりげなくヒントタイム。さらに、初江の手首に拘束したような跡がチラリ。これもヒントタイム。

怜子の母は怜子が生まれて間もなく死亡、父も怜子が6歳の時に死亡。怜子の父の死因は砂丘での凍死。ここの夜明さんと怜子の会話の一部がかみ合っていない。なんでスルーしたのかな。

田之倉殺しに関しても怜子に疑いの目を向ける神谷さん。しかし、夜明さんへのお見舞いで浜松にいたことが立証されること、犯行時刻が深夜零時ころであることから東京から浜松へ移動する手段としてはタクシーしかないところ、それらしいタクシーはないことから、怜子のアリバイ成立。

怜子のアリバイを崩すため、殺害現場である品川埠頭周辺で聴き込みを行う東山たち。怜子の目撃情報はなかったが、沢井が乗っている介護タクシーの目撃情報が出る。
沢井が乗っていたタクシーのタコグラフを入手して、夜明さんに会いに行く東山たち。タクシーを止めて居眠り中の夜明さん、起こされたので3割増しな、というのはちょっといくら何でも理不尽すぎて引く。
東山たちの依頼は、田之倉殺しの犯人が行ったと思われる移動をしたら、沢井のタクシーのタコグラフと一致するか、という実験。結果は、一致。沢井の母は、田之倉の地上げで心労が重なり病死した。そのため、沢井は田之倉を恨んでおり、動機もある。

沢井を取り調べたところ、田之倉殺しを自供。

しかし、まだ怜子への疑いを捨てきれない神谷さんと、怜子をかばう夜明さん。
その会話の流れで、親の介護の話に。夜「年は取りたくねぇなぁ。親の世話するのもつらい、子の世話になるのもつらい、と」、神「人間は、親への愛情よりも子への愛情の方が強いのかもしれません」、夜「親に冷たく、子に甘く、かぁ」。本作は、本筋よりも脇道の会話で考えさせられるセリフがある。

また道端で居眠りしている夜明さん、携帯電話の着信音で起こされる。あゆみちゃんが貸してくれた携帯電話が鳴っていたもので、出たところ、若い男から合コンの誘い。

たちまち人殺しの目になる夜明さん。

するわけないだろ、殺すぞコラ!


そんな物騒なセリフの直後、犬を連れた女性がタクシーに乗り込んでくるが、メーターを倒した直後、犬が暴れだす。原因は、夜明さんのタクシーが禁煙車ではないから。犬は匂いに敏感、ということがヒントタイム。

夜明さんの推理:
田之倉殺しの怜子のアリバイは、怜子が浜松・東京間をバイクで往復すれば崩れる。水嶋家にあったバイクの、車検の時の走行距離と現時点の走行距離を比較すると、浜松・東京の往復距離と一致した。初江の手首に拘束したような跡があったのは怜子が浜松を離れる間、初江が一人になってしまうから。
タローを手放したのは犬小屋の下に和代の遺体を埋めるため。和代は正幸と失踪したのではなく、5年前に死亡していた。

「あなたの代わりに自供した沢井さんの気持ち考えたら、証拠が出る前に、あなた罪を認めるべきだ」という夜明さんの説得に応じて告白タイム。
怜子の父は、当時地面師だった田之倉に騙され、借金を背負わされて、自殺。家族をなくし、家族に強い憧れを抱きながら成長した怜子は、26歳の時、恋人に裏切られ、自殺しようとしたところを初江に助けられる。怜子はそのまま初江が経営する居酒屋で働き、正幸と出会って結婚。家族を取り戻した、という喜びの大きさが、正幸が象徴する家族への執着を生み、殺害へとつながってしまうのは皮肉。

和代の死亡は、正幸が失踪したことを知って水嶋家へ押しかけてきた和代を、初江が突き飛ばしたところ、打ち所が悪く死亡してしまったもの。
「今度は私がお母さんを守る」と、怜子は遺体はタローの犬小屋の下に埋め、隠ぺい。ペンダントはこの時に入手。このことを忘れたい気持ちが強かったから、初江は認知症になったのかもなぁ。

逃亡から5年経ち、正幸からの連絡に喜び勇んで駆け付けた怜子に告げられたのは、「東京でやり直したい」という身勝手な言葉。おまけに、浜松の家を売ってくれ、「おふくろはホーム、俺は東京、家なんかあっても仕方がないからなぁ」という言葉が怜子の逆鱗に触れ、発作的に撲殺。それにしても、正幸は徹頭徹尾クズい。

田之倉は、怜子が和代を殺したと考え、怜子を脅迫。怜子は、昔の憎しみもあって、田之倉を殺害。

夜明さんの説教は今回はあまり響かなかったけど、自首前に怜子が初江に会いに行ったとき、初江が怜子の手を握って「怜子さん、いつも、いろいろ、ありがとう」と言ったのには、少しウルッと来た。

エンディング。「お父さんが寝たきりになったら、私が面倒を見てあげるからね」と健気なことを言うあゆみちゃんに、「俺、ポックリ逝くって決めてんだもん」「あゆみは、自分のことだけ考えてりゃいいんだよ」と返す夜明さん。だけど、本日の予定、合コン3件、と聞いて、「お前、自分のことだけ考えすぎ」と前言撤回。さらに、かかってきた携帯電話に出て、「お前んところなんか行かねえよ、行くわけねえだろ、バカ、くそったれ」で、携帯電話を放り投げてエンド。

早くに家族を失ってしまったことから、新しく「家族」を手に入れたと思った喜びが、犯行の根底にあるのは皮肉で悲しくて興味深かったけど、正幸があまりにもクズいので、正幸に執着する怜子にあまり感情移入できないのが残念。ラストの初江は、べただけど、怜子の家族への思いが報われたような感じがして、よかった。介護を巡るセリフとか、小ネタとかも面白かったので、嫌いではない。でも、正幸がなぁ・・・。

エンディングテーマ。ZARD 「promised you」