「 死にたがる乗客 」 (2000年)

(ゲスト)
秋山恵美子…秋本奈緒美、 秋山周平…石丸謙二郎、 古賀高男…中西良太、 金子哲也…遠藤憲一、 栗原豊子…内田春菊、 杉本梨花…平沢草、 飯塚里美…田村友里


オープニング。就職面接について。深見さん、蓉子さん、二人の息子、の3人で夜明さんのタクシーに乗車。過保護な両親が息子の就職面接を心配してついていっているという図。マザコンと親バカな3人の会話がとても面白い。「今日は息子にとって、一生を決める大切な日なんです。ヒデオ、頑張るんだ!」「ママがついてるわよ、頑張るの。フレー、フレー、ヒデ君。 フレー、フレー、ヒデ君。運転手さんもご一緒に!あっ、運転手さんも、ヒ・デ・クン。 フレー、フレー、ヒデ君」。夜明さんも思わずニコニコ。この回のオープニング、好きだ。

ユーロ食品でのあゆみちゃんの就職面接。母親と同居とのことだが父親は?と質問され、「両親は8年前に離婚しました」と答えると、何となく変な空気に。さらに、総務部長の秋山は、あゆみちゃんがマスコミ研究会に入っていると知ってなぜか不機嫌になり、「君の受け答えを聞いていると、熱意が感じられないんだよ。マスコミ関係を受けたものの、うまくいかない。この際、ほかの業種も受けてみようかしら、当社への志望動機はそんなところじゃないのかねぇ」と嫌味全開。あー、さすが、嫌味でねちっこい男を演じたら一級品の石丸さん、ものすごく憎たらしい(褒めています)。

古賀(悪良太)が刺殺される。

その翌日、秋山と梨花が夜明さんのタクシーに乗り込み、山中湖へ。旅行と言うが二人の間に会話がなく、静かすぎたことが、夜明さんの印象に残る。山中湖へ到着すると、秋山が、仕事で人に会うので2時間ほどしたら迎えに来てほしい、暇つぶしに彼女を河口湖にでも案内してほしい、と言ってタクシーを降りる。しかし、残された梨花のリクエストは青木ヶ原の樹海での散歩。「命は親から頂いた大切なもの/一人で悩まずまず相談して下さい」という看板が樹海感満載で怖い。
約束通りの時間に戻って秋山をピックアップし、ペンションに送って夜明さんの仕事は終了。

翌日、眠りから覚めた夜明さんの枕元にぼーっと座っているあゆみちゃん。「私、もうだめだわ」「今日はデパートの面接だったんだけど、どこ受けても通る気がしないの」と悲観的。でも、悲観的になれるのは希望があるからで、それは逆に幸せなことなのかもしれない、と彼女の将来のことを思い、そんなことを考えた。

そんなヘビーな寝起きの夜明さんに訪問者。あゆみちゃんの就職がうまくいかないことを怒った元妻の襲来かと思ったら、訪問者は刑事だった。秋山と梨花が山中湖で服毒死したのでその捜査をしている、心中か否かを判断するためタクシーに乗っていた時の様子を聞きたい、とのこと。夜明さんが、”車内では無口だった、青木ヶ原を散歩していた”という話をしたところ、刑事たちの心証は心中へ。
ただ、就職面接で嫌味を言われたあゆみちゃんは「私にはとても自殺するような人には見えなかったけどなぁ」との感想を漏らす。

古賀の遺体が発見される。発見者は金子。古賀はジャーナリストで金子は雑誌の編集者。原稿を取りに来て、遺体を発見したとのこと。金子演じるエンケンさんは、3年ぶり3度目のタクドラ出演。初期のタクドラによく出ていたんだなぁ。今回は、なぜか訛りが強いキャラ。

秋山の妻 恵美子から夜明さんに迎車の指名。夫と同じルートで山中湖へ行ってほしいという要望。恵美子としては、夫が自殺する理由に心当たりがなく、心中と決めつける警察、及び、警察の心証を決めた夜明さんの証言に不満がある。しかし、秋山の足跡をたどり、他の関係者の話を聞き、秋山が死亡した現場の湖を見たことで、徐々に秋山は自殺、ということを受け入れる。
そんな恵美子に、夜明さんが逆に、心中と考えると不自然な点を矢継ぎ早に話す。頭がついていかない様子の恵美子に「すいません、つい、昔の癖が出て」と言う夜明さん。それが呼び水になって、「どうして刑事をお辞めになったのですか」からのいつもの身の上話。
コモ湖に例えられた湖がコモ湖に似ているかどうかは分からないけど、夕日が落ちて金色に輝く姿は美しかった。

「人が亡くなった湖だというのに、こんなにきれいな夕日が見れるんですね」


古賀は梨花の元恋人だったことが判明。古賀の死と梨花の心中の関連性を調べるため、梨花と秋山の行動を知りたい、と言う東山に、山中湖に行きたいの?と夜明さんはニコニコ。しかし、東山が知りたいのは梨花が散歩をした樹海の場所のみ。ロングゲットならず。
夜明さんの情報に基づき捜索したところ、古賀殺しの凶器と思われるナイフが発見される。これにより、秋山が古賀を殺し、梨花に樹海に凶器を捨てさせたが、逃げ切れないと観念して二人で心中した、という警察側のストーリーが完結。

恵美子は川越で「コモ」というイタリアンレストランのシェフをしている。恵美子から夕食に招待された夜明さん、あゆみちゃんとともに来店。しばらく父娘二人による飯テロが続く。おいしそう。
そんなところへ、突然、グルメ雑誌の取材と言って男性二人が来店。恵美子は「取材はお断りしていると言ったはずです」と強く拒絶。

梨花が勤めていたクラブに金子が来店。梨花の同僚で秋山と梨花の遺体の第一発見者である里美に「二人は本当に心中だったのかな」と意味深な発言。

就職活動がうまくいかないあゆみちゃん。川越の恵美子の店を訪ね、食事。「このお店に来て、恵美子さんのパスタを食べていると、私、なんだか励まされるんです」とのこと。そんな健気なあゆみちゃんをかわいく思ったのか、恵美子からあゆみちゃんに食事のお誘い。
食事中、恵美子の身の上話。5歳で父が亡くなり、母と二人で貧しい生活だった。ある日、母が小田原にある小さな食堂に連れて行ってくれた。そこで食べたスパゲティが美味しくて、泣いてしまった。それがシェフを目指すようになった、忘れられない思い出、という話。

その日の夜、金子死亡。周囲に車止めが欠けた形のコンクリート片が落ちていたことから、それで撲殺されたと推定される。
その報道をラジオで聞いた夜明さん、新聞でも確かめようとしたが、扱いが小さくて詳細が分からない。出勤してきた小倉さんが持っていてた新聞も見てみたが、茨城の地方版だったので、同じ新聞社なのに記事が載っていなかった。「係長、そういや、マイホーム買ったんですよね。青森でしたっけ?」「茨城ですよ!毎朝5時起きでねぇ」という会話が面白い。小倉さんには毒が強めの夜明さん、小倉さんの風貌と相俟って、いいコンビになっていると思う。

古賀だけではなく金子も殺されたことから、古賀が秋山をゆすっていたネタは不倫という私的なことではなく、もっと大きな、秋山だけではなくその妻である恵美子にも影響が及ぶようなネタだったのではないか、という推理に基づき、恵美子に疑いを向ける神谷さん。金子死亡時の恵美子のアリバイの裏を取るために夜明さん宅を訪ねるが、金子の死亡推定時刻、恵美子はあゆみちゃんと代官山のレストランにいたため、アリバイ成立。

梨花、里美、秋山、古賀、金子の関係は、梨花は古賀とつきあっていたが秋山に乗り換えた、里美は秋山に惚れていた、金子は里美に惚れていた、という、三角とか四角がいくつかできる複雑な愛憎関係。

川越にお客さんを送ったついでに恵美子のお店に寄り、就職活動で落ち込んでいたあゆみちゃんを励ましてくれてありがとう、とお礼を言う夜明さん。これに対し、「あゆみちゃんにおっしゃってください。もう会えないかもしれないけど、あゆみちゃんの就職、希望が叶うことを、私、祈ってますって」という恵美子の返答。修業時代の友人に誘われて、1週間後、イタリアに発つ予定、とのこと。

ユーロ食品と総会屋との癒着が発覚。秋山は総会屋との接触に関する会社側の窓口で、古賀は総会屋の手下だった。これにより、一連の事件が、ユーロ食品の総会屋問題でつながっている、という線が浮上。

夜明さんから恵美子がイタリアへ発つと聞いて「恵美子さんってほんとすごいよねぇ」と感心するあゆみちゃん。あゆみちゃんの卒論のテーマは”マスメディア論及び人間考察と情報処理”。よく分からないけど、具体的には恵美子の半生を題材にしたルポのようなものを書きたいらしい。
恵美子に入れ込むあゆみちゃんに、夜明さん、「シェフになりたいなんて、言わないよね?調理師の資格とりたいから、料理学校に通いたい、とかさ」。よっぽど前回のビューティーアカデミーがトラウマになっている模様w
「こういう言い方するとおかしいけど、お父さん、できるだけ早く、お前に就職してもらいたいんだよね。いやいや、その、養育費はお前が学生の間ってのが、約束なんだから」と、お父さんの本音が漏れてしまった夜明さんに、あゆみちゃん、ムッとして、「シェフになりたくて恵美子さんと会ってたんじゃありません。あの人見てると、励まされるから…。ひどい」「いやいやいや、ごめんごめんごめん。いや、そういう意味じゃなくて、あゆみに、できるだけ早く、一人前の女性として自立してほしいとそう思ってるわけだよ。お金のことじゃないよ。お金のことじゃないよ。ほんとだよ」。大事なことなので二度言ったけど、言葉を重ねれば重ねるほど、嘘くさくなる夜明さんがつらい。

タクシーでの仮眠から目覚めたら、後部座席にいきなりおっさん三人が座っているのは心臓に悪い。

寝起きドッキリ

総会屋の件でもめて秋山が古賀を殺し、手下を殺された総会屋が秋山を心中に見せかけて殺害、知りすぎた金子も殺害、という筋で捜査は進んでいるが、神谷さんは、殺害の手口がやくざらしくない、と違和感を持っている。恵美子に対する疑いを察した夜明さんは、これを否定。ここの場面、いつもの子供の喧嘩ではなく、目と目で通じ合っていたのが、なんだかかっこよかった。

恵美子が自宅で何者かに後頭部を鈍器で殴打され、昏倒。救急車で病院に運ばれる。駆け付けた夜明さんに、黒い目出し帽をかぶった大柄な男に殴られた、1時間くらい気を失っていたらしい、気づいたら病院だった、と話す恵美子。
東山に電話をして捜査状況を確認する夜明さんに、「できすぎているとは思いませんか」と言う神谷さん。「神谷、お前、まだ恵美子さん疑ってんの?彼女はご主人を亡くし、自分も暴漢に襲われた被害者だよ。お前、知らないかもしれないけど、彼女は貧しさをバネに、自分の夢を掴んだ立派な料理人だよ。人間的にも素敵な人だよ。あんな人を疑うなんて、お前とはもう、絶交!」。絶交ってw さっきかっこいいと思ったのに、台無しな子供のけんか。

恵美子の思い出を辿るために、小田原の洋食屋さんを訪れたあゆみちゃん。そこで、17年前に、恵美子の母が、別れ話が拗れた男性に殺害され、その男性も自殺した、という事件があったことを聞く。
「恵美子さんにこんな過去があったなんて。こんなこと知るために、行ったんじゃないのに」と嘆くあゆみちゃんに、「あゆみ、お前、人間書きたいって言ったよね。だったら事実は、しっかり受け止めなきゃ。それが取材ってもんだろ」と諭す夜明さん、かっこいい。

絶交しているけど知らせた方がいいと思って、と神谷さんに恵美子の過去を教える夜明さんと、絶交しているけど小田原での捜査に夜明さんのタクシーを使え、と指示する神谷さん。神谷さんがそう言っていた、と聞いて、静かに笑いながら東山たちに後部座席に乗れと指さす夜明さん。どちらも意地っ張りだけど、かわいいかっこいい。

小田原での捜査で、恵美子の同級生から、17年前のマスコミの報道がひどかったとの情報を得る。恵美子の母が男をたぶらかしていたんじゃないか、とか、恵美子も関係しているんじゃないか、とか、あることないこと書かれたらしい。夜明さんは、恵美子のマスコミ嫌い(店への取材に対しても激しく拒絶していた)はこのときの経験に根ざすもののようだ、と推測。

恵美子の部屋から総会屋の下っ端やくざ川上の指紋が発見される。恵美子を襲ったのは川上、一連の殺しもやはり総会屋がらみだった、ということで事件解決の雰囲気。

夜明さんの目の前で、夜明さんの同僚が交通事故に遭う。救急車で病院に運ばれたが、幸い、脳震盪のみで済んだ。だが、事故の瞬間はもちろん、なぜ事故現場付近を走行していたかも記憶がないという。
それを聞き、恵美子が頭を殴打され気を失ったのに、犯人の特徴を記憶していたことに違和感を覚える夜明さん。さらに、公園で見た地方版の新聞から、恵美子の証言にあった矛盾に気づく。このあたり、事件の真相に気づくカギとしてそれほど無理がなくて、いい。

記憶しているはずがないことを記憶していたこと、東京の新聞には載っているが川越の新聞には載っているはずのない記事を読んだと言ったこと、金子殺害のアリバイトリック、それらに関する夜明さんの推理を「すべて夜明さんの推測ではないか」と論難する恵美子。これに対し、「あゆみ、あなたの生き方に感動していました。家族の死を乗り越えて、夢を現実のものにした、あなたの前向きな生き方に。しかし、今のあなた、前向きに生きているとは私には思えない。あなた、イタリアのコモ湖で死ぬつもりですか。あなた、その湖が心の原点だとおっしゃった。そこで死ぬのもいいのかもしれない。けど、それでいったい何になるんです。死んだお母さんが喜ぶと思いますか」と静かに説得する夜明さん。コモ湖で死ぬつもりか、それもいいかもしれない、とドライなことをいう夜明さんが好きだ。

恵美子の告白タイム。17年前の事件のときの、マスコミによる興味本位、無責任な噂と人権無視の報道。「母は被害者なのに。母は二度殺されました。窪井に殺され、そして、マスコミに殺されたんです」という言葉が印象的。
そんなマスゴミの一人が古賀。母が殺される前に恵美子もレイプされていた、と報道。町の噂になり、恵美子も小田原には居づらくなって、上京。その後は秋山と結婚して、念願の店も持てて、と順調だったが、梨花を奪われたと逆恨みをした古賀が秋山を恐喝。古賀は、恵美子のことも逆恨みしており、秋山は古賀に恵美子を差し出すことで自分を守った。悪良太はしばしばお目にかかるけど、ここまでゲスいのは初めてかも。極悪良太。
恵美子が古賀を殺害。古賀に恐喝され、付きまとわれていた秋山と梨花に、祝杯と称して毒ワインを振る舞い殺害。秋山と梨花の心中に疑問を持ち、恐喝してきた金子も恵美子が殺害。今回、ヒロインが凶悪な感じがするのだけど、それは、それほど悪いとは思えない梨花を殺してしまったからかな。

エンディング。夜明さんが刑事時代、いいブンヤさんから聞いた言葉。「情報っていうのはその字のとおり、情けがなきゃいけない」。この言葉にも触発されたのか、あゆみちゃんは大学院に行ってマスコミの勉強をしたい、とお願い。受験料3万5000円、学費120万円、と聞いて目が若干虚ろになる夜明さんがかわいそうだが、前回(ビューティーアカデミーでアメリカに留学)のことがあるからか、ずいぶんまともな選択肢のように思えてならない。あゆみちゃんは策士だな。

事件の筋と容疑者が次々に入れ替わるが、それが無理なく進行していると思えるので、事件自体、面白かった。極悪すぎる良太と嫌味すぎる石丸さんを見ることができるのも嬉しい。なによりオープニングが、トップ3に入るくらい好き。ヒロインがそれほど悪くない人間を殺してしまった点が若干もやもやするけど、全体的には好きな回。

エンディングテーマ。ZARD 「promised you」