「  殺意のハンドル 」 (2000年)

 

(ゲスト)

南条秋子…国生さゆり、 伊坂夏美…有沢妃呂子、 伊坂忠彦…松重豊、 南条昭一…木村元、 南条敏江…服部妙子、 立花登…モロ師岡、 平井康明…渕野直幸、 沼田泰三…原田大二郎、 窪寺…高橋克実、  警察官…海砂利水魚

 

 

オープニング。タクシードライバーには、様々な事情を抱えた人がいる。夜明さん、防犯灯をつけて走るタクシーを発見。前に回り込んで停止させ、中から深見さんを引っ張り出すが、深見さんは強盗でも暴漢でもなく、運転手である蓉子さんの夫。夫婦喧嘩の末、防犯灯をつけて走る、という過剰防衛に出たらしい。冒頭のナレーションとコントのつながりがよくわからず、しかも薄味だけど、臨場した警察官はなぜか海砂利水魚(現くりぃむしちゅー)の二人。伝説の刑事、夜明さんに握手を求めるミーハーな役どころ。

 

握手していただいてもいいですか

 

 

なぜか、本作から数回、いつものテーマソングが流れない。

 

夜明さんが勤務する営業所に初めて、女性ドライバーが誕生する。紹介したい、という小倉さんに、「そんな、ばばあに会ったってしょうがないじゃない。適当に言っといて」と口が悪い夜明さん。でも、入ってきたのが国生さゆりだったので、ドギマギする純情派。

 

秋子は、12年前、夜明さんが神谷さんと一緒に担当していた事件で張り込みをした際、協力してもらった家、南条家の娘さんだった。

南条家は両親と娘2人の4人家族。父 昭一は美術品を扱う貿易会社の社長で、家の中には高そうな絵が何枚も飾られている裕福な家だった。それなのに秋子はなぜタクシードライバーになっているのか、と疑問を口にする神谷さんに、「タクシードライバーっていうのは、みんな、いろんな事情を抱えてんの。それ、聞かないのが、同業者の仁義」と答える夜明さん。夜明さんの事情はみんなに聞かれまくっているけど、あれは同業者じゃないからセーフなんだろうか。

 

慣れていないため要領が悪く、売上も伸びない秋子に軽い説教をする小倉さん。それを見かけた夜明さん「ねぇ、そういう言い方ないんじゃない。この人、食べる時間も惜しんで働いてるんだよ。じゃ、なに、食べるな、休憩するな、そういうこと言ってるわけ?」とグイグイ小倉さんに迫る。「ちょっと、迫ってこないでよぉ」と、若干オネエ言葉になる小倉さんがかわいい。

 

何かと気ににかけてくれる夜明さんに感謝の気持ちをこめて、お弁当持参で夜明宅を訪問する秋子。お約束の、あゆみちゃんとの鉢合わせで、気まずい空気が漂う。

秋子が帰った後、”ひとの相談に乗る前に娘の相談に乗ってほしいものだわ”と就職に関するお悩み相談開始。でもその内容が、”来年、大学4年生だから就職を決めなきゃいけないけど、不景気で、たぶん無理だろうから、大学を卒業したらアメリカのビューティアカデミーの専門校に留学して資格を取りたい。費用は400万円くらいかかるけど、ヘルプしてくれるわよね”とぶっとんだもの。いくらなんでも迷走しすぎだよ、あゆみちゃん。

 

立花登が殺害される。立花は、秋子の両親を交通事故で死なせた加害者だった。ということで、秋子の下へ聴き込みに来た東山たち。ちょうどその時、夜明さんが秋子に洗車の方法を教えてあげてるときで、夜明さんの、結構自然に東山たちに水をかけるホース芸が面白い。

 

秋子の身の上話を聞く夜明さん。秋子の父 昭一は、もともと千葉で造り酒屋をしていたが、美術品が好きだったので、東京へ出てきて美術商を始めた。秋子も美術が好きだったので、昭一の会社に入社し、最初はうまくいっていたが、バブルがはじけたせいで経営難に陥った。それでも何とか会社を存続させ、借金返済の目途もたったという頃、立花が起こした交通事故に遭い、昭一は妻とともに死亡。会社は従業員だった伊坂が妹の夏美と結婚して継ぎ、いろいろあって、秋子は会社を辞めたが、就職難でタクシードライバーになった、とのこと。

 

夏美のところへも聴き込みに行く東山たち。昔は仲の良い姉妹だったのに、今はいがみ合っている様子。夏美の夫、伊坂を演じるのは松重さん。なぜか社長室に人を殺せそうなナイフセットを常備。

 

堅気ですよね?

 

 

夜明宅で神谷さん一行と捜査会議。立花の死亡推定時刻、秋子が運転していたタクシーは新宿・調布間を走行していたことが会社の記録で裏付けられているが、タクシードライバーとしての経験から何かカラクリがないか、アドバイスが欲しい、ということらしい。

神谷さんが秋子を疑うことや、秋子と夏美が不仲のようだという話をしたりすることにイライラを爆発させる夜明さん。でも「だいたい、お前ら短絡なんだよ短絡!交通事故と今度の事件、結び付けるなんて。お前ねぇ、そんな推理の力じゃねぇ、せいぜい警部どまりだよ。家族がかわいそうに」とまで言っちゃうのはどうだろう。

当然のことながら、反発する神谷さん。夏美が経営しているネイルサロンであゆみちゃんがアルバイトしており、留学資金をお父さんが出してくれないからアルバイトして稼ぐしかない、と愚痴っていた、ということをばらす。「留学資金ぐらい、出しましょうよ」という神谷さんだけど、400万は結構な負担だよなぁ。「いい加減にしろよ」の天丼芸は面白かった。

 

神谷さんたちへの怒りも冷めやらない様子でタクシーを運転する夜明さん。「何が留学だよ。娘をひとり、アメリカへなんて。向こうには、ジェフ君とかガブリエル君とか、いっぱいいんだぞ。ダメ!ダメ!留学なんて絶対ダメ!」と一人で吠える。

ジェフ君=松田聖子の元恋人、ガブリエル君=有森裕子の元夫、というのは、一定世代以上じゃないと分からないネタ。時事ネタは風化するってこういうことなんだなぁ。

 

立花の携帯の通話記録から、立花が、以前勤めていた西都建設に何度も電話をしていたこと、国会議員の沼田にも一度電話をしていたことが判明。沼田によれば、地元千葉で西都建設が産業廃棄物処理工場建設の計画を進めているが、自分は反対を表明した。それ以来、推進派から嫌がらせの電話を受けている。はっきりとは分からないが、立花は西都建設の元従業員なので、嫌がらせをしてきた電話の中の一つではないか、とのこと。沼田役の原田大二郎、暑苦しい演技がうさんくさい国会議員の役によく合っていた。

 

秋子が客に「だったらもういいよ、ほかのタクシーに乗るから!」と怒られている場面を目撃する夜明さん。

 

伊坂死亡。 伊坂の遺体のネクタイの裏につけ爪が残されていたため、ネイルサロンを経営している夏美に容疑の目が向く。捜査に当たる所轄の刑事さんが高橋克実さん。このころはまだ坊主ではない。

 

漂うショムニ感

 

 

秋子を怒っていた客が、成田まで行ってほしいと頼んだのに乗車拒否されたと近代化センターへクレームを入れる。秋子によれば、その客はとても急いでいて、希望時刻までに到着する自信がなかったので、謝ってお断りしたらしい。近代化センターっていう言葉、耳慣れないので調べてみたら、結構、公的な機関だった(近代化センター)。

小倉さんの説教の途中で、秋子に、伊坂が殺された、との連絡が入る。

 

秋子とともに夏美のネイルサロンへ行く夜明さん。あゆみちゃんと遭遇。秋子と夏美の激しい姉妹喧嘩。伊坂はもともと秋子と付き合っていたが、秋子を裏切って夏美と付き合い、結婚したらしい。しかし、夜明さん父娘の目をまったく気にしない罵りあいは、むしろ清々しい。

 

夜明さんに夏美との関係について告白する秋子。秋子が通っていた高校への受験に失敗して以降、夏美は僻みっぽくなり、姉妹の仲が悪くなった。伊坂を奪われて、姉妹の溝は取り返しがつかないくらい深くなったが、当の伊坂が姉妹に近づいてきたのは、結局、父の会社を乗っ取ることだった、そのことに夏美は気づいていない。「姉妹だったからかもしれません。妹の不幸は姉の勝利、姉の悲しみは妹の喜び」。この言葉はすごく印象的。

 

夜明宅での捜査会議再び。今度はホワイトボードまで持参w

 

民間人の家で何をしているのかw

 

 

神谷さんたちは、立花、伊坂のいずれにも恨みを持っている秋子が最有力の容疑者と考え、伊坂の殺害現場に落ちていたつけ爪も夏美に恨みを持っている秋子が夏美に容疑を向けるための偽装したと推理。

しかし、伊坂殺害時、秋子がタクシーに乗務していたことは複数の客観的証拠で裏付けられている。そのからくりを見抜いてほしい、と神谷さんは頼むけど、秋子を信じる夜明さんは乗り気でない。が、捜査へのタクシー利用という神谷さんの餌にはパクっと食いつく。「警察に車、いくらだってあるしな。赤信号進んでいいやつだってあるんだから」という東山のぼやきが可笑しい。

 

南条家の元家政婦さんと乳母さんへの聴き込みで伊坂のクズっぷりを確認。会社を乗っ取っただけではなく、千葉にある南条家先祖伝来の土地まで売り払った。昭一は、会社が苦しくなっても手放さなかった大事な土地なのに、近々道路が通るという情報を仕入れ、莫大なお金になるということで売り払ったらしい。

乳母さんは、千葉にいるときは仲の良い姉妹だった、東京での環境が二人を変えた、千葉にいればいがみ合うこともなかったのに、というけど、秋子と夏美の今までの様子からは、そうだよねぇと素直に思えないのがつらい。千葉にいても、なんだかんだと夏美は秋子に嫉妬し、ひがんでいたとしか思えない。

 

回想場面から区切りなく夏美が殺されて面食らう。秋子も拳銃で襲撃される。

 

夏美の殺害現場、秋子襲撃現場で平井(立花の知り合いで、暴力団組員)らしい男が目撃される。平井が指名手配され、東山が確保。珍しく東山の発砲場面がある。平井は夏美殺害、秋子襲撃を認めるが、立花、伊坂の殺害は否認。でも、伊坂の遺体に残されていたつけ爪は平井のものだった。

 

夜明さんが秋子のことを気にする理由を尋ねるあゆみちゃん。「お父さん、昔、あの家族みて羨ましいと思った。まじめなお父さん、優しいお母さん、仲のいい子供たち。それに比べて、俺、仕事ばっかで、家族に迷惑ばかりかけていたからな。そんな幸せな家族を、たった一つの交通事故が壊してしまった。それでも秋子さん、立て直そうと懸命に頑張ってる。夏美さんとだって、仲直りしたかったはずなんだ。そんな秋子さん見てると、ほっとけないんだ」。ここは、なるほどなぁと思った。南条家は夜明さんの理想の家族だった。それを壊したくないという気持ちもあんだろうな。

 

 

謎アングルの捜査会議再び

 

 

2年前の交通事故は事故ではなく殺人。沼田の息子が放火をしていた現場を南条夫妻を目撃した。南条夫妻が沼田に息子を自首させるように勧めたら、逆に殺されたというパターン。沼田は伊坂に、伊坂は立花に実行を依頼。

秋子と夏美がこの真相に気づき、立花と伊坂を殺した、と沼田は考えた。殺される前に先手を打って、平井に夏美と秋子を殺害するよう依頼した。

 

秋子がナイフを持って沼田に突進するのを阻止する夜明さん。秋子は夜明さんに阻止されて、何もできなくなり逃走。秋子が去った後、騒ぎ出す沼田を夜明さんが裏拳打ち。これはかっこよかった。

 

千葉の南条家の墓の前で自殺を図る秋子。駆け付けた夜明さん、容赦なく秋子を突き飛ばして阻止。そこからの告白タイム。

すべての始まりは、秋子のタクシーに立花が乗車したこと。車内で立花が伊坂に、南条夫妻殺害の報酬が安すぎると抗議の電話(それにしても、運転手さんが聞いてるんだから、そんなべらべらしゃべるなよ、と思う)。ここで、秋子は立花が故意に両親を殺したこと、伊坂がそれを依頼したことに気づく。立花からさらに詳しい話を聞き出した後、立花ともみあいになり、殺害(殺すつもりはなかったって言ってるけど、パイプで滅多打ち)。

伊坂を殺したのは夏美と秋子の共犯。伊坂に裏切られていたことを知った夏美が衝動的にナイフで刺し、それを見た秋子が夏美からナイフを奪ってとどめを刺す(この時の国生さんのナイフさばきがすごく堂に入っていてさすがだった)。

 

秋子のアリバイ工作のため、伊坂の遺体は最初、秋子のタクシーのトランクに乗せていたが、その後、夏美の車に移し替え、夏美が多摩川に遺棄。

この遺体の受け渡しのとき、秋子が「私のせいだわ。私がばかだった。ごめんね、夏美」と言い、夏美が「お姉ちゃん」と言って抱き合って泣く場面はよかった。いがみ合っていた姉妹が、極限の状態で、強がる余裕もなく昔に戻ったように抱き合って泣いていた。姉は妹を守りたかったんだろうし、妹は姉に頼りたかったんだろうな。「人を殺すときしか、仲直りできない姉妹なんて」という夜明さんの言葉がつらい。

 

だから、そのあとの夜明さんの説教と秋子の「確かに、私たちは血を分けた姉妹です。でもその前に、私は一人の女なんです。一人の女なんです」という言葉は、なんだかなぁと思った。秋子と夏美の関係について、最終的にどこに着地させたいのか、ぼやけてしまったのが残念。

 

エンディング。あゆみちゃんと歩きながら、家族について語る夜明さん。「家族って言うのは難しいよなぁ。生きている間はいがみ合って、死んで初めてありがたみが分かる」。それはそうかもなぁと思うけど、あゆみちゃんにはあまり届かないみたい。留学を反対する両親について「心配するっていうのは子供を信用してないってことなの」というのはときどき出てくるあゆみちゃんの論理だけど、絶対違うと思うんだよなぁ。

 

 

二人きりの姉妹の複雑な関係、愛憎、というテーマは面白く、印象的な言葉もそこここに散らばってはいたけど、事件の筋にまとまりがなかったことと(つけ爪は結局誰がなんのために伊坂のネクタイに付けたのか?秋子たちと平井の間には接点、ないはずだし)、ラストの秋子の言葉が結局この姉妹をどう描きたいのか分からないものにしてしまっていたのが残念。

 

 

エンディングテーマ。TRF 「JOY」