「 黒いひまわりの女 」 (1998年)

(ゲスト)
折原江里子…佐藤友美、 関沢康夫…春田純一、 小島信江…黒沢あすか、 佐竹茂…長戸勝彦、 折原恒三…石山律雄、 古賀…斉藤暁、  刑事…田中要次

オープニング。忘れ物について。

深見さんがタクシーの車内に携帯電話を忘れる。車内に忘れられた携帯電話が鳴ったので夜明さんが出ると、発信者は深見さんの奥さんの蓉子さん。夜明さんが、お台場でご主人を降ろした、と話したため、深見さんの浮気がばれる。それを怒った深見さんがタクシーを蹴飛ばし、夜明さんが取り押さえて警察に連絡。

「夜明警部補ではありませんか」のやり取りがあるけど、それにもひるまず文句を言い続ける深見さん。そこへ、蓉子さんが降臨して修羅場開始。でも、大根で頭パコーンだし、蓉子さんのメイクがいかにも家を飛び出してきたおばちゃんだしで、すごく和む。

本作から係長が小倉一郎さんに交代。ガミガミ言うけど気が弱そうで、イヤミが緩和されるので、二朗の次に好き。

小倉さん、最近、夜明さんの売上が悪いことをチクリ。「休憩ばかり取って、ちんたら働いてるんじゃないの?」という一言が夜明さんの反骨心に火をつける。タコメーター(「黒いひまわり」の異名あり)で、朝の9時から次の日の朝まで休む暇なく働いていることを証明。「それでも売り上げが伸びないのは、アラ?ナニ?日本が不景気なのは俺のせいだっていうの?!」。そうきたかwww

帰宅すると、あゆみちゃんが朝ごはんを料理中。まじまじとあゆみちゃんを見た夜明さんの一言、「お前、透けてない?」。ブランド物で高い服らしいのに、台無しw
あゆみちゃんが買ってきてくれたひまわりを見て、思い出話。夜明さんは子どもの頃、蒲田に住んでいたらしい。その路地裏にひまわりが咲いていた、あの頃に戻ってみたいという気がする、とセンチメンタルな夜明さんに、"結婚するまで養育費を払い続けてほしいとお母さんが言っていた"と現実の冷や水を容赦なく浴びせるあゆみちゃん。き、きびしいな。

昼食休憩中の夜明さん、刃物で襲われていた江里子を助ける(犯人は逃走)。江里子は夜明さんが蒲田に住んでいた時の幼馴染。夜明さんを「日出夫ちゃん」と呼んだのは、歴代ゲストの中でもこの人だけかな。

江里子はアパレルメーカーであるマックススプレンダーの社長。会社の社長室で身の上話。結婚相手が社長でその死後、後を継いだとのこと。夜明さんも身の上話。
社長室を出て、仕事に戻ろうとしたら、あゆみちゃんと遭遇。あゆみちゃんはマックススプレンダーでバイト。
「驚いたのはこっちよ。どうしてお父さん、ここにいるのよ」「お前なんでここにいるの?」「バイト」「俺、お客さんタクシーに乗っけて」「なんで建物の中にいるのよ」「俺、社長、知り合いだもん」「冗談やめてよ」
あゆみちゃん、夜明さんと別れ際(お互い手を振り合う父娘がかわいい)、会社の前で「ぶっ殺してやる」と呟く妙な男を目撃。

夜明宅にて、相変わらず、夜明さんと江里子が幼馴染、ということを信じてくれないあゆみちゃん。「あんなきれいな人と幼馴染だなんて、よく言えるわよ」「信じてくんないんなら信じてもらわなくていいよ、いってらっしゃいよ」。
すね気味な夜明さんがかわいらしいところへ、江里子が夜明宅を訪問。この回の夜明宅、ソファーがあったり床がフローリングだったりで、いつもの家と少し違うように見える。

江里子から、ファッションショーと展示会のため大分に行くのに、夜明さんのタクシーを使いたいという申し出。子どもの頃は、私の言うこと何でも聞いてくれた、おままごとしているときに将来は結婚しようと約束しあった、ということを娘の前で暴露されるのは結構恥ずかしいけど、夜明さんはまんざらでもない様子。だけど、そのときのあゆみちゃんの顔w



詰め寄り顔


大分までの道中、夜明さんが運転するタクシーの車内で秘書の信江と副社長の関沢へ携帯電話をかける江里子。その直後、関沢の遺体が発見される。青酸化合物による毒殺。所轄の刑事の中に田中要次さん発見。

夜明さん一行は神戸からフェリーに乗船。最近、妙に昔のことを懐かしく思う、例えば、蒲田に住んでた頃、貧乏だったけど、あんな幸せだった時代はないんじゃないか、取り戻したくても取り戻せない、そういう人生の忘れ物、っていうものがあるんじゃないか、と言う夜明さん。

それに対し、江里子は、「人生の忘れ物、私にはないわ。私は昔のすべてに戻りたくない。苦労して、ようやく今にたどり着いたんだもの」と話す。そんな江里子が、最後に戻りたいと望むのが日出夫ちゃんと過ごした子供の頃、というのが悲しいな。

大分に着いて、服を買って、カジュアルないでたちでタクシーを運転する夜明さん。江里子が選んだ服に対する夜明さん評「なんか、ビートたけしみたいじゃないですか?」

 


「元気が出るテレビ」の頃のたけし感満載。


別府のホテルで関沢死亡のニュースを知る江里子。マスコミが殺到しているにも関わらず、江里子は、ファッションショーと展示会を予定どおり開催。ファッションショーは湯布院の「花の庄」で行われるんだけど、能舞台がある旅館とかすごいな。

ホテルで東山・国代と遭遇する夜明さん。江里子を東京から乗せてきたと聞いて「めまいしてきた」とぼやく東山。卓袱料理で釣って、捜査情報を聞き出そうとする夜明さんだけど、東山のガードは固い(国代は甘目)。「国代、お前なに民間人にベラベラしゃべってんだ。鮎離して、そうそうそう鮎離して、はいそう」
でも、神谷さんのお許しが出て、捜査情報を開示するとともに、料理を堪能する東山。現在の容疑者は信江。関沢は以前、信江と付き合っていた。捨てられた恨みから結婚式の前日に関沢を殺したのではないか、という見立て。ここまで聞き出して、料理の代金は神谷に領収書回しとくから、とぶん投げる夜明さん。ひどい。

関沢の死亡推定時刻は、午前9時から午前11時の間。信江は9時には会社に出社していたことからアリバイ成立。ただし、クーラーが使われていた可能性があり、その場合、死亡推定時刻が午前7時まで繰り上がるのだが、関沢が午前10時に電話に出ていたことが携帯電話会社の記録からも確認できたことから死亡推定時刻を繰り上げることが困難な状況。

このアリバイのカギとなる電話は、江里子が夜明さんのタクシーの中からかけたものであることから、夜明さんは信江のアリバイをいっそう確信。

信江への聴き込みに、江里子も同席。信江を疑っていることが滲み出る質問に江里子が抗議。
「この人たち、お知り合いなの日出夫ちゃん」「日出夫ちゃん?!」「日出夫ちゃんからも言ってよ。信江さんは昨日、会社にいたのよ。私が電話したんだから。信江さんはそんな人殺しできるような人じゃないわ、日出夫ちゃん」
東山と国代の「日出夫ちゃん?!」のハモリが息ぴったりで、いいコンビ。

夜明さんから東山たちへ、数日前に江里子も襲われた、という情報提供と、個人への恨みではなく、会社に対する恨みではないか、という示唆。

あゆみちゃんから神谷さんへ、会社の前で怪しい男を目撃した、という情報提供。と同時に、夜明さんが江里子に対し、頭が上がらない様子なのを「娘として情けない」と愚痴る。あゆみちゃんに穏やかに接する神谷さんがいいなぁ。

なんでこんなところで?!というところで喧嘩をする信江と佐竹。観光名所めぐりなのかな。逆にすがすがしい。

明礬温泉かな?


二人で由布院観光したあと、夜明駅を訪れる夜明さんと江里子。

 


夜明駅を訪れるのにふさわしい回だったと思う


夜明駅で改めて江里子の身の上話。中学の時、父を亡くし、間もなく母も亡くなった。結婚して1年もしないうちに夫を事故で亡くした。結局、自分は家族とは縁がない、頼れるのは自分だけ、だからずっと気を張って生きてきた、と語る。そして、「日出夫ちゃんと再会して、一緒に大分に来て、夜明駅なんて駅があって。運命かもしれないわね。私と結婚しない?」

湯布院で宿をとる二人。同じ部屋に二人でいる緊張感に耐えかねて、温泉に入る夜明さんだけど、江里子のプロポーズは嬉しそうな様子。そんなふやけ気味な夜明さんの前に、東山・国代・あゆみちゃんが登場。あゆみちゃんは神谷さんが派遣。関沢を殺した犯人が江里子を襲う可能性があるので、そのときにあゆみちゃんに面通しをしてもらうため。
「お父さんの部屋どこなの?」と言うあゆみちゃんに「えっ・・・部屋、まだ、取ってない」とくつろぎの浴衣にタオル鉢巻き姿で答える夜明さん。それは「部屋ないのに、脱いだの?」という東山にもつっこまれるは。

「私たち、湯布院モールに泊まっているから、後で来てよ」とオコなあゆみちゃんに続けて、「湯布院モールだから、来てよ」と続ける東山。「バカ」と声に出さずに言いながら苦笑する夜明さんだけど、この苦笑とそのあとの場面のつながりが悪いから、東山のセリフはアドリブなのかな。

江里子との時間を邪魔されたいらだちを神谷さんにぶつける夜明さんだけど、部屋に敷かれた布団を見ると、逃げてしまう。こういうところも寅さんっぽいなぁ。

あゆみちゃんによる事情聴取。何もしていない、眠い、湯あたりした、と取調べを回避する夜明さん。敷布団を敷かず、掛布団だけで畳に寝転んだのを見て、「ちょっと、敷布団しかなきゃダメでしょう」と叱るあゆみちゃんの口調が娘感満載で好き。


信江が毒殺され、別府の海辺で発見される。

マックススプレンダーの元従業員で、横領したためにクビになった佐竹が容疑者に浮上。佐竹は信江と付き合っていたが、クビになったために別れ、その後、信江は関沢と付き合うようになった。関沢、信江、江里子に恨みを抱いていると考えられたため。
東山たちが江里子に事情を聴いているところへ神谷さんも登場。江里子に、関沢は近々会社を辞めるつもりではなかったか、と尋ねるが、江里子は否定。江里子の「日出夫ちゃん」呼びには神谷さんも「ひでお・・・ちゃん?」。

江里子が関沢と口論していたこと、粗暴な佐竹が毒殺という方法を採ることに違和感があることから、神谷さんが気になるのは江里子。
夜明さんが語る江里子との関係。江里子は町工場の娘さん。気が強いところがあったけど、心根は優しかった。江里子が蒲田から出て行ったのは、工場が倒産し、夜逃げをしたため。夜明さんとのお別れは、かくれんぼで隠れたまま去る、というもの。夜明さんは「彼女なりの気遣いだったんだろう、かくれんぼをしたまま、俺に黙って」と言う。愁嘆場にならないように、そっと消えるように去った、ということなのかな。そんな彼女がこんな事件にかかわっているはずはない、と主張。



夜明日出夫(6歳)


ショーの最終日。佐竹が江里子をナイフで襲撃。近くにいた夜明さんに取り押さえられる。取り調べでは、佐竹は、関沢と信江の殺害を否定。

解剖の結果、信江の遺体から海水性ではなく淡水生のプランクトン(2サス頻出アイテム)が検出されたことにより、信江の殺害現場は別府ではなく湯布院と推定されたこと、関沢と江里子の口論の理由が新しいブランドの権利を巡ってのものと判明したこと、から、神谷さんの疑いは改めて江里子へ。
夜明さんは怒鳴って否定するんだけど、夜明さん自身にも疑う心が奥底にあって、それを覆い隠すためなのかなぁと思った。

江里子への疑いを抑えきれなくなった夜明さん、神谷さんに補充捜査を指示。その結果を持って、江里子と二人で耶馬渓での告白タイムへ。ここで、夜明さんの希望を容れて二人きりにしてあげる神谷さんは優しい。

関沢殺しは、江里子が実行犯、信江が共犯。携帯電話の件は、関沢の自宅と会社が同じ基地局から携帯電波を受信していることを利用したトリック。

江里子が関沢を殺したのは、江里子の夫の事故死に関する真相をばらされたくなければ新しいブランドの権利を寄越せ、と脅されたから。江里子の夫は事故死ではなく、江里子ともみ合い頭を打って死亡した。関沢は、事件発生当時、江里子から真相を告白されるが、嘘のアリバイ供述をして江里子をかばった。しかし、独立を機に江里子を裏切る。絶賛脅迫中の相手がワインをもってお祝いに来たら必ず毒入り、というのは2サスの基本2忠実な毒殺。

信江殺しは、江里子が実行犯。信江を湖から引き上げるときに服が濡れた、その服についた水に含まれるプランクトンが、信江の遺体から検出されたプランクトンと一致したことが証拠に。

江里子の父の工場が倒産したのは友人に裏切られ、連帯保証の借金をかぶらされたから。江里子の両親は、本当は一家心中で亡くなり、江里子は一人だけ奇跡的に助かった。世の中には騙す人間と騙される人間がいる。江里子の夫も、関沢も、信江も、江里子を裏切った。裏切られることに耐えられなかった、両親のようにはなりたくなかった、と話す江里子。

「あなたの今までの人生がつらかったのは分かります。でも・・・」「人は変わるわ。人生が人を変えてしまうの」「そんなことない。そんなこと、ない!あなた、私にとってひまわりみたいな人だった。人間、変わらない。人生のどこかで無くしたもの、失ったものがあれば、いつだってそれ、取り戻すことができる。やり直してください。あの日のこと、大切に思っている私のために。あなたのこと、信じてる、私のために」
このやり取り、夜明さんの、というか、渡瀬さんのピュアな部分が全面的に出てて、すごく好き。



そんなことない。そんなこと、ない!


子供の頃に戻りたい、昔から日出夫ちゃんのことが好きだった、と言う江里子に「かくれんぼしませんか。僕が鬼です」と言って鳥居に顔を伏せ、数を数え始める夜明さん。子供の頃に戻りたい、と言った江里子の願いをかなえると同時に、子供の頃と同じように、さよならは言わず、別れることができるように。
数を数え終わって、脱力したようにしゃがみ込み、江里子がいた場所を見つめても、そこには江里子がさしていた日傘が残されているだけ。このしゃがみ込み方が、ストーンと力なく、背中の哀愁がものすごくて、夜明さんの哀しみがストレートに伝わってくる。

 



背中と視線の哀愁が半端ない


エンディング。残念だったね、江里子さんいい人だったし、再婚できたかもしれないのに、と言う優しいあゆみちゃんだけど、バイトは長続きせず。しかも、洋服を買ったローンは頭金しか払っておらず、「ローンなんていくらでも組めるわよ。いざとなったら、お父さん、ヘルプしてね」と発言。将来がとても心配になる、というか、将来の片鱗がチラリ。



夜明さんが再婚にもっとも近づいた回。タクドラでは、親のようにはなりたくない、が殺人動機になることが多いけど、今回もその一つ。話の筋に違和感はなく、レギュラー陣のやり取りも好調。なにより、告白タイムの切なさが大好き。エンディングテーマのイントロがその場面にとてもよく合っている。


エンディングテーマ。TRF 「JOY」