「幸福の代償 妻と別れたい男の殺人契約!? 」 (1994年)

(ゲスト)
井狩真矢…寺尾聰、 山賀十和子…若林志穂、 井狩真由美…桐生ユウ子、 山賀慎平…真夏竜、 野添優子…矢野いづみ

オープニング。夜明さんがひったくり外国人を取り押さえる。取り押さえる動作があいかわらず流れるようで美しい。お巡りさんによる「夜明警部補ですか?」のイベントをこなした後、タクシーに戻ったら井狩真矢が後部座席に乗車していた。寺尾さんの表情と流れる音楽が相まって、なんだか生霊のような、怖めのスタート。

本作から、大同交通登場。ただし、無線番号は、1644。

お馴染みの姿まであと一歩。


川治温泉へタクシーで行ってほしいという真矢。夜明さんの宿泊代も持つ、というとてもおいしい話。タクシーの中で真矢の身の上話。5年間、静岡刑務所で服役して、出所した後、 妻の顔を見るのが億劫で自宅に帰らず ホテル住まい。今日も、自宅前まで行ったけど、中には入れず、引き返したところで、夜明さんの捕り物を見、タクシーに乗り込んだとのこと。この場面、タクシーの中でタバコを吸うシーンがある。昔は、タクシーの中に灰皿ついていたもんなぁと懐かしい。

行きのタクシーで、夜明さんの身の上話も。「捜査のために何回か会った女と私の関係を悪く言う人間がいまして。雑誌にも書かれました」。真矢の関心は、夜明さんの退職よりも離婚について。スキャンダルのせいで離婚した、という話に対し、「簡単なんですね」と呟く。真矢が妻との関係に思い悩んでいるのを察した夜明さんは「帰ってあげなさいよ」と言ってあげるけど、真矢からは「私は、人を殺したんです、殺人犯なんです」と重い告白。

川治温泉到着後、自宅に電話をする夜明さん。なぜか東山が出る。非番で夜明さん宅へ遊びに来たらしい。あゆみちゃんは、東山のために晩御飯を作ってあげている最中。「秀作くん、オムライスでいい?」「ケチャップ多めね」。そんな漏れ聞こえる声に夜明さん「おい、東山。お前、娘になんかしたら、ぶっ殺すぞ」と、本当に殺しそうな顔で釘をさす。あゆみちゃんのことが心配でたまらない様子。この時期のあゆみちゃんはどんどんきれいになっていく感じだったから、無理もない。

でも、その電話で、元奥さんの再婚話を聞いた時の夜明さん。

一転して捨てられた子犬のような切ない表情。


川治温泉で、真矢が起こした事件のことを聞く夜明さん。5年前、週刊誌の編集長だった真矢が、取材先の仙台市で山賀慎平とトラブルになり、手にしていた銅の仏像で殴ったら、山賀が死亡してしまった、ということのよう。5年の実刑判決が下った後、山賀の娘から投げつけられた「お父さんを殺してたった5年の刑ですか!」という言葉が今でも夢に出てくる、と言う真矢。

夜明さんに、こんな男とは別れた方がいいと妻に言ってほしい、と頼み自宅に電話をする真矢。そのころ、真由美は殺されていて、電話には誰も出ない。でも、見ず知らずの相手に「旦那さんと別れた方がいい」と言うって罰ゲームだよなぁ。そんなことできるの、みのもんたくらいだよ。

翌朝、夜明さんに何も告げずに一人で東京へ帰った真矢。ホテル従業員に託された伝言では、弁護士から真由美が亡くなったという電話があったとのこと。自分が起こした事件を忘れないために持っているというパチンコ玉とハンカチが残されていた。

東京へ戻った真矢に東山と国代が聴き込み。国代初登場。
真矢が川治温泉へ行くのに使ったタクシーが夜明さんのタクシーと知って「あら~、まただよ」とつぶやく東山。これまた初の「まただよ」。

稔侍さん成分が薄目のコバケンさん。


真矢のアリバイの裏取りに夜明さんを訪ねる東山たち。真矢は真由美殺しの有力容疑者。 真矢はずっと真由美と離婚したがっていたらしい。
国代は東大卒で、この頃はまだ、東山とそりが合わないエリートキャラ付け。真矢のアリバイを証言する夜明さんに「偽証はしていませんね」なんて言ったものだから、東山の怒りを買う。「こるぁ、うどの大木。神谷警部ならともかく、夜明さんは絶対、嘘つくようなことはない人なんだよ。あの神谷なら、自分の出世のためなら平気でコレだろう」 (神谷さん登場) 「神谷警部です」「神谷警部です。もう、その手に乗るか!神谷なんか怖かねぇよ。神谷がなんだ」「カミヤがないか、カミヤ。あゆみちゃんに、折り紙折る紙、頼まれまして、折り紙の紙を」。今回は神谷=(折り紙の)紙。これまた苦しすぎる。

神谷さん、今作から眼鏡着用。エリート小道具の定番ともいえる眼鏡だけど、神谷さんの場合は眼鏡を着用した後の方が、キャラが砕けてエリート臭がなくなったように思う。あゆみちゃんのこともお互いによく知っているような関係になっているし(前回では「あゆみちゃん、でしたっけ?」とか言ってよく知らない風だったのに)。あゆみちゃんのことを「きれいになった」という神谷さんに、相好を崩して愛想もよくなる夜明さんは、あゆみちゃんのこと大好きすぎる。

あゆみちゃんが作ってくれたオムライスを2人で食べ、捜査状況について話をする神谷さんと夜明さん。なんだかんだ言っても、仲がいい。真由美は鈍器(銅の仏像)で殴られた後、絞殺された。盗られたのはリビングルームに置いてあった300万円のみということから、内部の事情に詳しい者の犯行ではないか、という推測。本当は夜明さんの意見を聞きたいのに、素直に教えて下さいとはまだ言えない神谷さん。

あゆみちゃんは、お母さんの再婚相手が好きではないので、これからはお父さんと暮らす、と夜明さん宅で寝泊まりしている。本当は、夜明さんに、お母さんに再婚を止めるように言ってほしいんだけど、夜明さんは意地を張ってそれを言わない。「いっつも意地を張って泣くんだから。刑事辞める時だって意地を張って、結局これじゃない」。嫌いあって別れたわけではなく、お互いの意地とかタイミングとかで別れてしまった夜明さん夫婦と、心が冷め切っているのに別れられない井狩夫婦の対比。

パチンコ玉とハンカチを届けに来たという名目で真矢に会いに行く夜明さん。妻を殺されたばかりなのに、真矢は機嫌よさそうに口笛を吹いていた。ヴェルディのアイーダ「勝ちて帰れ」。

一度は素直に教えて、と言えなかった神谷さんだけど、料亭で一席設けて(ただし自腹ではない)、夜明さんを接待しながら、意見を聞く。夜明さんの見解:犯人は女。さらに国代の言葉から、真矢が殺した山賀の家族による復讐では?という線が浮上。捜査のため、夜明さん、東山、国代の3人で仙台へ。夜明さんロングを強引にゲット。

山賀は粗暴な男で、家族にとっては疫病神のような存在だった。死んだ後の方が、家族は幸せになった、ということが判明。しかも、山賀は奥さんの再婚相手で、娘2人は奥さんの連れ子。愛情はなかった様子。真由美殺しに関して、山賀の遺族が復讐したという線は消える。この捜査の途中で、かき氷を3人で食べるシーン、別の味を一口食べたがる夜明さんがかわいい。

山賀の末娘の十和子が真由美殺しの容疑者に浮上。井狩家に近いところにある音楽大学に通っていること、真矢の口笛がクラシック音楽だった、という2点から。アリバイはない上、井狩の名前を耳にしても何の反応も示さなかったところに、逆に作為的なものを感じる夜明さん。

仙台往復のタクシー代、27万円。神谷さん激怒。「こんな大名みたいな捜査しやがって!自腹切れ!」。大名みたいな捜査って、うまいようなうまくないような微妙な例え。でも、雰囲気は伝わる。

神谷さんの夜明さん宅訪問再び。今度は素直に教えを乞う。夜明さんの見解は、交換殺人。真矢には真由美を、十和子には山賀を殺害する動機がある。二人がどこで出会って、どのような関係だったのか、ということが捜査の課題に。神谷さんが帰った後、あゆみちゃんの寝顔を見ながら「別れたくないのに妻に捨てられんのと、別れたいのに自由にならないのと、世の中うまくいかないもんだな」とつぶやく夜明さんが哀しい。

内省的になってる夜明さん。タクシーから見かけた、男とくっついて歩いている女性を奥さんと見間違えて動揺したことで、さらに落ち込む。「俺が、警察辞めてタクシー乗ってんのに未だに刑事ごっこみたいなことやってるのは、失った家庭、家族の幸せ、そんなものを認めたくないって潜在意識の表れだって今日分かった。俺ホントは、失ったもんのデカさに胸がつぶれそうで、寂しくて泣きそうで。だから、それ忘れるために未だに刑事やったりしている。」それが分かったから、もう、捜査には協力しない、と東山に告げる。自嘲気味にちょっと笑ってるのがますます哀しいなぁ。女性とのこと誤解されて警察辞めて離婚したこと、後期では面白お約束の道具になっていたけど、初期では結構な重みを持っていんだよなぁ。

神谷さんからの電話にも「もう刑事ごっこはしない」とあゆみちゃんを通じて回答。でも、あゆみちゃんに「お母さんだって、お父さんは立派な刑事だって言ってたよ。社会正義を守るために働いてるって。タクシードライバーだって本物の刑事に頼りにされてるんだもん。えらいよ」という言葉でたちまち復活。早いな。というか、あゆみちゃんのことを好きすぎるな。

捜査意欲が復活した夜明さん。あゆみちゃんを連れて、十和子にゆさぶりをかける。ハンカチ収集を始めたきっかけを問われ、動揺する十和子。最後に夜明さんがあゆみちゃんの頭をペチってするけど、あれは何の意味だろうか。グッジョブって意味なのかな。それにしては結構な勢いだったけども。「ハンカチ集めの後輩」という十和子の言葉に、ハンカチ集めってそんなにメジャーな趣味なの?とググってみたら、mixiにコミュニティーがある程度にはメジャーらしい。そうか、そういうものなんだ。

あゆみちゃん17歳の誕生日ケーキを持って夜明さん宅を訪問する神谷さん。夜明さんにお願いがあるためのご機嫌取り。真矢と十和子を逢わせて、自供を引き出してほしい、ということらしい。「すいませんねぇ、私があなたに辞表を書かせた急先鋒だった」と神谷さんが言ってて、びっくりした。そうだったんだ。

真矢と十和子の関係、5年前、盛岡行きの新幹線で泣いている十和子が目撃されていたことから、おなじ列車に乗り合わせた真矢が慰めたことがきっかけではないかという推理。なぜ十和子が泣いていたのか、ということについてあゆみちゃんが、十和子は義理の父親である山賀にいたずらされていたのではないか、と発言。夜明さんの元妻の現在の恋人が、馴れ馴れしく肩などを触ってくることからの連想。それがあゆみちゃんが母の再婚相手を嫌う理由。「辞表なんて出さなきゃよかった。辞表を出して、自分のスキャンダルを認めたようになって、妻と別れる羽目になって。どうしてもデカと離れられないんなら、なんでウチ、バラバラにしたんだろ」という反省は、あゆみちゃんのことも踏まえてのことかな。

夜明さんの仕掛けで仙台へ導かれる真矢と十和子。仙台駅で待ち構えていた夜明さんのタクシーで、十和子の実家の前を通り過ぎる。山賀を殺したことで幸せになった家族の様子を見て、「私がしたことは無駄じゃなかった」と十和子が呟くときに流れる曲がナウシカっぽいなぁと調べてみたら、「Fantasia(For Nausicaa)」だった。なんでこの曲使ったんだろうか。場面に合ってはいたけど、音楽の方に気が行ってしまう。

ダムの上で告白タイム。義父のことを悩む十和子に対する同情が愛情に変わった真矢と、自殺まで考えた自分を救ってくれた真矢を愛するようになった十和子。お互いのための交換殺人。ダムへ飛び降り心中しようとする二人を止める夜明さんの言葉がものすごく二人を突き放しているし、スマートじゃなくてどぎついんだけど、一生懸命止めていることも分かって、印象に残る。
「かまいません。私、刑事じゃないし、あんたたち逮捕することできない。けど、死ぬんだったら私のいないところでやってくれ。二人が死んだら、私警察に呼ばれて、事情聴取受けて、新聞に載って、テレビに顔写真流れて、世間の噂にさらされて、会社に居づらくなります。私、運転免許しか、能のない人間ですから」「頼みます、3秒でいいです。目をつぶっていてください」「冗談じゃない、私、絶対、目、閉じたりしない。私の目の前で死なないでくれ。二人で、ホテルでもとって抱き合って、それでも死にたきゃ死ね!」

ホテルに二人を送る夜明さん。「優しい人ですね、夜明さん。私たちを、残酷な交換殺人犯だという目で見ないで、純粋に、愛情の証明のために人を殺したと思ってくれてる」「とんでもない。私はどんな人間でもきちんと裁判を受けなきゃいけないと思っているだけです。あんたたち悪党なんだ。愛情の証明のために人を殺すなんて、正直に汗水流して働いている人たちに通る理屈じゃない。悪人は悪人らしく、きれいごとで決着付けようなんて思わないで、世間の非難の冷たさに骨の髄まで痛めつけられて、泣きながら生きていくことです。二人なら、一人で寂しくないんだから、二人なら平気じゃない」。

夜明さんが留守の間に、夜明さん宅を夜明さん元妻が訪れ、あゆみちゃんに泣きながら帰ってきてくれと頼んだ、とのことで、ほだされたあゆみちゃんはお母さんのもとに帰ることに。元妻が持ってきた稲荷ずしを一人で食べながら「なんで俺、一人なんだろ。けど、夜明さんよ、別れたくても別れてくれない女より、別れたってこうやって稲荷ずし作ってくれる女の方が、よっぽど、幸せなんじゃないの。一人だって」。ちょっと寂しいな。

エンディングは、あゆみちゃんとアクセサリー屋さんでショッピングした後、マジックキャッチ的な何かで遊びながらエンド。


妻と別れたい真矢と本当は別れたくなかったのに別れてしまった夜明さん。最後、犯罪者になったけど二人でいられた真矢と、一人ぼっちの夜明さん。この対比のせいか、夜明さんが内省的になって落ち込んだりするけど、その時間があまりに短くて、こちらの心にあまり響かないのが難。本筋を追いかけるのと、夜明さんのキャラクターを掘り下げるのと、どっちも中途半端な気がした。せっかく夜明さんのキャラを掘り下げるチャンスだったのに残念。