久しぶりに私の投資哲学シリーズ、今回は私の投資における考え方にとても大きな影響与えた「マネーボール」という本を紹介したいと思います。というか投資に関してだけではなく、私の中ではあらゆる物事に対する見方において多大な影響を受けた本です。

 まずこのマネーボールというのがどういう本なのか簡単に説明すると、内容的にはメジャーリーグのアスレチックスという貧乏球団のGMが、お金が無いにもかかわらず独自の戦略で強豪チームを作り上げていくという実話を描いたノンフィクションです。今から20年ほど前に米国で出版され、後に映画化されるほどのベストセラーになりました。

 と言うと野球の本かと思われそうですが、本書の内容は単に野球に留まりません。というのも取り上げられている球団(アスレチックス)は戦力に乏しく、強豪チームと同じ戦略を立てていては勝てません。そこで主人公である球団GMは従来の常識的なアプローチではなく、統計的手法などを用いた画期的な戦略で球団の改革を試みます。つまり野球が題材となってはいますが、実際は「統計学や数学」が本書のメインテーマなのです。

 本の中では「盗塁は何%の成功確率があれば得点期待値が高まるのか」「ホームラン1本とシングルヒット3本はどちらの方が価値があるのか」「最強の打者を4番に据える打順は正しいのか」といったそれまで突き詰めて考えられてこなかったあれこれについて統計学を基にアプローチが試みられていくのですが、そこで導き出されていく答えは従来の常識を覆すものばかりでとても新鮮です。例えば打順に関して言うと従来は4番に最強打者を据えるのが普通でしたが、統計学を基にして最適な打順を計算したところ最強打者は4番ではなく2番前後においた方が得点期待値は最も高くなるというような結果が示されます。実際この考え方はその後間もなくメジャーリーグを席巻し、現在はメジャーで最強打者の1人と言われる大谷選手も主に2番を打っています。統計学からの客観的アプローチによって従来の常識が覆された一例です。

 本書ではこのような例がいくつも出てきます。やっぱり野球の話かと思われたかもしれません。ただ、確かに題材こそ野球なのですが、ここで書かれている内容は野球という枠を超えて様々な物事に当てはまるものです。つまり「世の中には誤って信じられている物事や常識が山のように存在する。それらの嘘を暴くのは『数字』である。人間の意見には偏見があるが、数字には偏見が無い」というのが本書の主張なのです。

 そんなマネーボールの中で、私的に特に印象深かった場面を3つほど紹介したいと思います。

 まず1つ目は打率3割バッターと2割7分バッターの違いについて書かれている部分です。野球に詳しくない方はピンと来ないかもしれないですが、打率3割というのはオールスター級の数字なのに対して2割7分というのは悪くはないにしてもそこまで取り立てて褒められるほどの数字とは言えません。3割バッターは押しも押されぬ一流選手なのに対して2割7分バッターはまあまあなレベル…言ってしまえば「普通」と評価される選手と言えます。
 ですが本書では、「一流」の3割バッターと「普通」の2割7分バッターの違いはこのように書かれています
「3割バッターと2割7分バッターの違いは、2週間にヒット1本の違いでしかない。この2選手の実力差を数字無しで見分けるなど絶対に不可能」


 2つ目、とある試合で激しい点の取り合いになり、終盤でチームが勝利目前までいくものの9回裏に大逆転サヨナラ負けを喫してしまう場面。チームの敗戦を見届けながらGMはこう言います。
「メジャーリーグは年間162試合で、優勝するためには統計的に95勝が必要だ。95勝は、言い換えれば67敗を意味する。今日の負けは、単に67敗の内の1つだっただけに過ぎない」


 3つ目、チームは当初の目標通り年間95勝をあげてプレーオフへと進むのですが、その1回戦(5戦勝負、先に3勝した方が勝利)で2勝3敗となり残念ながら敗退してしまいます。その時のGMの一言。
「仕方がない。私のやり方(統計的手法)はプレーオフには通用しない。野球という不確実なスポーツにおいて、5戦勝負という短期決戦でどちらが勝ち上がるかなど、単なる運だ」


 これらの考え方は一見すると投げやりにも映りますが、しかし紛れもない真実であり、何より野球だけでなく世の中のあらゆる場面において当てはまる事なのではないかと思います。もちろん株式投資においてもそうで、「きちんと数字を比較しないと銘柄の優劣など分かる訳がない」「全ての銘柄で百発百中で利益を出すなど不可能、トータルで利益をあげれば良い」「短期的な株価変動など運にすぎない」といった所でしょうか。これらは全て私がとても重視している考え方であり、まさに私の投資哲学そのものと言えます。

 本書の主張を要約すると、「思い込みではなく常に数字という客観的事実を基に、大局的視点をもって判断せよ」という事になるでしょうか。これは株式投資において本当に重要な事で、ぱっと見で凄く魅力的に見える銘柄でも数字というフィルターを通すと見え方が変わってくるという事は多々あります。また短期的な事象に惑わされては銘柄の本質を見誤ります。

 という訳でマネーボールという本の紹介でした。
 皆様もぜひとも「客観的事実」と「大局的視点」を意識した投資を心がけて頂ければと、私としては思う次第です。