今回は珍しくアメリカ大統領選挙の話題でいきたいと思います。実は私、アメリカ大統領選挙というものが大好きで、世界最大のお祭りの1つだと思っています。学生時代に米国育ちの知り合いがいたのですが、その人はアメリカでは選挙の度に支持者たちの小パーティーみたいなものがいくつも開かれて、だから子どもの頃は選挙が楽しくて仕方なかったというような事を言っていました。アメリカでは日本と違って選挙や政治が身近なものなんだなと、とても印象的だったのを覚えています。ただ、実はアメリカの投票率は日本よりも低いですが…

 そのアメリカ大統領選挙は現在予備選挙(各党の大統領候補者を決める選挙)が進んでいますが、民主党の候補者は言うまでもなく現職大統領のバイデンで決まりです。そして注目の共和党候補はトランプが連戦連勝で指名を確実にしました。トランプの場合はいくつもの訴訟を抱えておりその結果次第ではもしかしたら本選挙に立候補する権利が剝奪される可能性もありますが、現実的にその可能性はかなり低く、11月に行われる本選挙はバイデンvsトランプという図式になることが事実上確定しました。4年前の再戦です。

 トランプが共和党の候補となるのは事前の世論調査から確実視されていました。ですが実は今から1年ぐらい前にはデサンティスという人物がトランプを猛烈に追い上げていた時期があり、もしかしたらこのデサンティスがトランプを破って共和党候補になるのではないかという雰囲気もありました。この頃の世論調査では「もし本選挙がバイデンvsデサンティスになったらデサンティスが勝つ」というような結果がいくつも出ている程でした。しかしデサンティスの勢いは長続きせず、むしろトランプが勢いを加速させて最終的には大差で共和党候補となりました。

 なぜトランプはデサンティスに傾きかけた流れを再び取り戻すことができたのか。その大きな要因となったのが訴訟です。トランプは大統領時代の機密文書持ち出しや選挙結果への不正介入などの疑惑で4件か5件ぐらい起訴されているのですが、信じられない事に彼は起訴される度に支持率を高めました。つまりトランプは、何件起訴されようが「フェイクだ!」「陰謀だ!」「捏造だ!」と一蹴し、むしろ政権を攻撃する材料にします。それに対して支持者は「トランプの言う通り、これはバイデン政権のトランプに対する不当な政治弾圧だ!」となって支持熱がどんどん高まっていったのです。その是非は私には分かりませんが、少なくとも疑惑が持ち上がる度に「記憶がございません」で逃げる日本のヘタレ政治家たちとは大違いです。

 いずれにしても、バイデンへの挑戦者はトランプに決まりました。しかも圧倒的な大差で予備選挙を勝ち上がったものだから、これはもう本選挙でもトランプが勝って大統領に返り咲くというような雰囲気で語られるようになっています。少し前は「もしトラ(もしかしたらトランプが大統領に返り咲く)」と言われていたのが、最近では「ほぼトラ」と言われるようになってきました。

 しかし、本当に来年のアメリカ大統領はトランプでほぼ決まりなのでしょうか?
 私は、話はそんなに簡単ではないと思っています。

 確かにトランプは予備選挙を圧勝しました。しかしそれはあくまで共和党員の選挙であって全アメリカ人による選挙ではありません。実際、全米でのバイデンとトランプの支持率は拮抗しておりその差はバイデン48:トランプ52ぐらいでしかありません。また、バイデン政権にとってトランプはいわゆる「最強の挑戦者」ではありません。というのもトランプは熱烈な支持者が多くいる一方で、反トランプという人間もそれと同じぐらい大量にいるのです。共和党員は基本的にトランプ支持者ばかりですが、逆に共和党員以外は反トランプばかりです。なので共和党員による選挙ではトランプが圧勝するのは必然でしたが、全アメリカ人での選挙となるとトランプよりもそれこそデサンティスの方が中道票獲得を見込める分、バイデンにとっては強敵だった可能性は高いです。

 また、これまではトランプが自分のホーム(共和党の予備選挙)で大勝を重ねるのが続けざまに報じられるという言わば『トランプのターン』でしたが、予備選挙が事実上終わった今、トランプが自己アピールできる機会は少なくなり、今後はバイデンのターンになります。バイデンは現職大統領なので、経済対策や外交などの政策によっていつでも自己アピールする事ができます。それこそまさに、大統領選挙は現職が強いとされる最大の所以です。オバマは大統領時代、選挙直前にビンラディンを暗殺しました。

 また、金融当局(要はFRBパウエル議長)がおそらくはトランプ政権を望んでいないというのも、バイデンにとっては追い風となり得る点です。トランプは大統領時代、要職者を次々に罷免しては独裁のような政権運営を行いましたが、その矛先にはFRBにも向いており、それこそFRBの政策にかなり口出しをしました。トランプが大統領に返り咲けばまた当時の再来となる(つまりは金融政策に過剰に口出ししてくる)のは確実なので、それを望まないパウエル議長としては、トランプ返り咲き阻止のためにも必死になって景気を上向かせる金融政策を執るでしょう。聞いた噂では、パウエル議長は「トランプ政権ではFRBの独立は望めない。だからトランプが大統領に返り咲けば自分は議長を辞めたい」と言ってるとか言ってないとか。とにかく、選挙結果を左右する最大の要因は何だかんだ言って経済です。経済(景気)が良ければ現職が勝ち、悪ければ現職が負けるというのが選挙の「基本」。FRBがトランプ返り咲きを望んでいないのはバイデンにとっては何とも心強い事でしょう。

 現状は全米世論調査でトランプがバイデンをリードしているのは紛れもない事実です。やはりこの1~2年間米国を襲ったインフレは強烈なもので、物価高に対するバイデン政権への不満は相当なものです。また、バイデンが81際の高齢なのも国民からかなり懸念を持たれている点です。特に民主党を支持するようなアメリカ人は何かにつけて「多様性の時代!」「高齢者批判は年齢差別だ!」というような主張をしますが、そう言いながら80代の爺さんが大統領になるのは勘弁して欲しいというのが本音です(まあこの点に関しては、バイデンが度重なる意味不明発言を繰り返している事に問題があるのですが…)。とはいえ上記の「共和党員以外のトランプ嫌い」「景気」「今後はバイデンのターン」といった点を踏まえると、「ほぼトラ」はさすがに言い過ぎではないでしょうか。来年の今頃誰がアメリカの大統領になっているか、私ならトランプ55%・バイデン45%ぐらいだと答えます。確かに米国は強烈なインフレに苦しみましたが、それに負けないぐらい経済が強く、依然として雇用が強いのも厳然たる事実です。だから「もしトラ」以上「ほぼトラ」未満が実際の所だと私は見ます。「もし」と「ほぼ」の中間ぐらいの日本語がなかなか思いつかないのが悔しい所ですが…

 現段階ではどちらかというとトランプが有利だとは思いますが選挙までまだ8か月もあり、今後の政権運営(特に経済)次第でどう転ぶかは全く分かりません。ただしここで言っておきたいのは、今後仮にトランプの優勢が強まったとしても、いわゆる「トランプ銘柄」なるものに手を出すのは私は賛成しかねるという事です。具体的に何がトランプ銘柄に該当するのかはよく分かりませんが、おそらくは今後各種記事などで「トランプの大統領再選で上がる銘柄はこれだ!」といったような特集が多数組まれる事が容易に想像されます。が、そんなもの所詮は一時のブームであり、仮にトランプが大統領になったとしても「トランプ銘柄」の業績が本当に良くなるのかというと非常に怪しいと感じます。一時的なブームに乗っかっても得てして高値掴みを食らうだけというのがオチです。少し前に岸田が「異次元の少子化対策」や「リスキリング」とほざいていた頃は子育て関連銘柄や資格取得関連銘柄などが物色された時もありましたが、そんな事はもう誰も覚えていません。来年の今頃アメリカ大統領が誰になっていようが、私が探す銘柄は常に同じです。