今月初め、8304あおぞら銀行が今期の純利益見通しを240億円→▲280億円と大幅赤転させ、併せて下期配当を78円→0円と無配にするという衝撃的な大下方修正&大減配を発表、これを受けて株価は2日間で約35%も急落しました。話題のネタとしてはちょっと旬を過ぎた感もありますが、今回はこのあおぞら銀行の件について書きたいと思います。

 

   今回の件は本当に酷い話ですが、何よりNISAの人気銘柄でこういうことが起きたという点において衝撃的です。巷に溢れる新NISA特集の記事等でもオススメ銘柄として本当によく名前が挙がっていましたし、何を隠そう私自身、「新NISAオススメ銘柄を考えてみました」での銘柄選定では、あおぞら銀行も候補の中にありました。私は銀行株が嫌いなので最終的には除外しましたが、もし私が例えば雑誌の特集等で「新NISAオススメ銘柄を20~30ほど選んで下さい」と依頼されていれば、特に深く考えずにあおぞら銀行を入れていた可能性は十分にあります。それ程あおぞら銀行というのは代表的な高配当バリュー株でした。

 

   何故あおぞら銀行が突然大幅赤字に転落する見込みとなってしまったのでしょうか。まずはそれを私なりに簡単に解説したいと思います。

 

   そもそも銀行には、大きく分けてメガバンクと地方銀行の2種類があります。メガバンクが主に大企業向けに大型融資を行っているのに対し、地方銀行は地域密着で中小・零細企業を主要顧客として事業を展開しています。メガバンクは規模こそ巨大ですがあらゆる面において地方銀行に勝るかと言うと決してそういう訳でもなく、地方銀行の方が地域の中小・零細企業との付き合いに対するノウハウがあったり、何かと小回りが利く面があったりします。何が言いたいかというと、要はメガバンクには大企業・地方銀行には地元の中小・零細企業という主要顧客(つまりは各々の強み)が存在するということです。

 

   ではあおぞら銀行はメガバンクか地方銀行のどちらなのかと言うと、実はどちらでもない「その他」に分類されます。あおぞら銀行はもともと日本債券信用銀行という政府主導の銀行が生まれ変わって誕生したもので、そのためメガバンクのような強固な支店網を持っている訳でもなければ地方銀行のように特定の地域に強固な地盤を持っている訳でもありません。それは即ち、経営上の強みを正直言ってあまり持っていないということを意味します。今回はそれがひとつ大きなポイントとなりました。

 

   銀行の主要な業務はお金の貸付けですが、メガバンクでもなく地方に地盤がある訳でもないあおぞら銀行は貸付け相手探しに苦労しており、仕方がないから頑張って投資で儲けようと考えました。それ自体はあおぞら銀行の置かれた立場を考えれば不思議ではない選択肢です。ただ今回は、その投資先を決定的に間違えてしまいました。あおぞら銀行は米国の不動産に大規模な投資を行ったのですが、米国ではコロナ以降リモートワークが完全に定着してしまいオフィスはガラガラになって不動産価格が暴落。回復の見込みは乏しく、さすがに無視できなくなったあおぞら銀行は多額の損失を計上し、一気に大幅赤字になってしまったのです。

 

 というのがあおぞら銀行大幅赤字の経緯ですが、まあここまでは正直言って前置きです(長い前置きでスミマセン…)。今回のブログで私が言いたいのはむしろここから。弱小個人投資家として、私たちは今回のあおぞら銀行の件からどのような教訓を得るべきかが重要です。

 

 先ほど私は「銀行株が嫌いだからあおぞら銀行を新NISAオススメ銘柄に選ばなかった」と述べました。ではなぜ銀行株が嫌いなのかと言うと…まあそれは色んな理由があるのですが…最も大きいのは「自分のふんどしで稼ぐ商売ではないから」です。ラーメン屋ならラーメンを作って売って稼ぐ、床屋なら髪を切るというサービスを提供して稼ぎますが、銀行の場合は基本的に「お金を右から左に動かして金利を頂戴する」というのが主要ビジネススタイルです。それが私はどうしても好きになれないのです。まあでもこの点に関しては、個人の好き嫌いに過ぎないのですが、しかし「自分のふんどしで稼ぐ商売でない」というのは言い換えれば「自分の目論見通りに利益を決定するのが難しい」ということでもあります。日本のように低金利が長引いてしまっては満足に稼げませんし、頑張って営業して沢山貸し付けても景気そのものが悪くなってしまっては融資が焦げついてあっという間に経営は悪化します。

 

 なので銀行の経営に関しては、自らの努力よりも景気動向やお上の金融政策の行方がかなり重要になってきます。その点「銀行は金利が上がると儲かる、今年の日本は金利が上がるから買い!」と考えている人は多いようです。ですが本当にそうなのでしょうか?確かに金利上昇によって多くの銀行が儲けやすい状態になるのは事実です。が、全ての銀行に等しく当て嵌まるかと言われると話は別です。銀行にとっても金利上昇のデメリットが無い訳ではありません。その例として「金利上昇は債券価格の下落を招く」というものがありますが、今回のあおぞら銀行のケースでは不動産の損失と併せて、含み損を抱えた大量の債券を売却しています。そしてこの売却損こそが今回の大減配の決定的要因になりました。昨年の春には似たようなケースで(つまりは利上げに苦しんで)米国の地銀がいくつか経営破綻しました。また、債券は満期まで持てば元本が保証されるので理論上は損をしないという面がありますが、しかし満期保有は急激な利上げ等で調達コストが上昇しそれが運用利回りを超えてしまえば、逆ザヤ状態が長期化してしまうというリスクもあります。

 

 そしてこれも極めて重要なのですが、私が銀行株を嫌いな理由として「銀行は自己資本規制があるので積極的な株主還元が難しい」という点も挙げられます。自己資本規制とは単純に言うと「銀行は万が一の場合にも預金者を保護できるように、ある程度は内部留保を確保しておきましょう」という決まりです。このルールがあるので銀行は積極的な株主還元が難しく、従ってPBRの向上も難しいという面があるのです。あおぞら銀行の下期無配は本当に酷い話ですが、しかし今回の損失計上で同社の自己資本比率は目標値を僅かに下回るとのことです。自己資本規制の点では、残念ながら容易に配当を出せる状態ではありません。

 

 一部では「無配なのは今期だけで、またすぐに高配当に戻る!」という意見も見られますが、私から言わせれば「本当に?何を根拠に言ってるの?」というのが正直な思いです。未来のことは誰にも分かりませんが、少なくとも私には米国の不動産市況がすぐに好転するようには見えません。社長のコメントでも11月の決算時点では「米国不動産について今後の追加引当て(損失拡大)はほぼ無いだろう」と言っていたのに、僅か3か月で「今後も個別の案件ごとに若干の損失があるかもしれない」と明らかに弱気化しています。何よりあおぞら銀行は、今回の処理で既に自己資本比率は目標値を下回る水準です。これまでたっぷりと内部留保を蓄えてきた他業種のPBR1割れ企業とは状況が違います。

 

 ただ、今回はあおぞら銀行のことを悪く書き過ぎたような内容になってしまいましたが、私は今年の1月に新NISAであおぞら銀行を買ったという人は、今回はたまたま不運な目が出てしまっただけで投資スタイルとしては決して間違ったものではないと思いますし、むしろ今の投資スタイルを貫けばいずれ株で資産を築ける筈だとさえ思います。あおぞら銀行の置かれた立場や資産状況をつぶさに観察していれば今回の危険を察知できていたかもしれませんが、大口投資家ならともかく余剰資金で投資しているような一般人でそこまで綿密に投資先を調査している人なんてほとんどいません。正直私もそうですし、もっと言えばそこまで綿密に調査しなければならないというのなら個別株投資なんてやってられません。繰り返しになりますが今回の件は余程しっかりと調べていなければ事前察知は難しく、あおぞら銀行は下方修正の発表までは間違いなく「高配当バリュー株」に見えて当然の株でした。「ロクに調べもせずにあおぞら銀行を買った奴は馬鹿だ」としたり顔で口にするような輩がいますが、私から言わせれば「お前もどうせそこまで調べず適当に株買ってるやろ。何を偉そうに言うとんねん!」です。結局の所、私たちはまずは見えている好業績・高配当を信じるしかありません。

 ただ、そういう意味でもあおぞら銀行は今回の下方修正&無配を、新NISAが始まる前(つまり昨年中)に発表しておくべきだったと強く思います。確定している事項を隠して一定の株を買わせてからいきなり無配にするのはいくら何でも悪質過ぎます。

 

 長くなりましたが、今回の件で私の述べたいことを端的に要約すると以下の2点になります。

 

① 金利が上がれば銀行が儲けやすくなるのは確かだが、それが全ての銀行に等しく当て嵌まるとは限らない

② 銀行には自己資本規制があるので、積極的な株主還元は期待しづらい。

 

 この2点は今回初めて出てきた話ではなく、これまでも繰り返し述べてきたことです。個人投資家の中には銀行株絶対神話のようなものが蔓延している雰囲気がありますが、本当に貴方の持っている銀行株は金利上昇の恩恵を素直に受けられるのか、PBR1割れ解消を目指していけるのか。それを今一度真剣に検証してみるのも良いかもしれません。

 

 

 

 

あおぞら銀行 3年チャート

築城3年、落城1日…