先日、5976高周波熱錬を紹介した際の記事でDOEという単語が出てきましたが、今日はこのDOEというものについて解説したいと思います。

 企業は配当額を決定する際、「その年の利益」と「配当性向」を掛け算して決めるというのが一般的です。例えばその年の利益が100億円で配当性向が30%なら、100億円×30%=30億円が配当にまわされるといった具合です。しかし、企業の利益というのは年ごとに好不調の波が激しいため、このやり方だと配当額の変動も年ごとにとても大きくなってしまいます。例えば去年は利益100億円×配当性向30%=30億円の配当が出たのに、今年は一転赤字に陥ってしまっていきなり配当ゼロ、ということも無くはありません。

 一方、DOEとは「その年の利益」ではなく「自己資本」を基準として配当額を決定する指標です。自己資本の定義をどう見るかは色々あってちょっと難しいのですが、要はその会社が保有している純粋な資産のことです。単純な例で言うと、会社が1000億円の資産を持っているとして、でもその内の200億円は銀行から借りたお金だったとすると、自己資本は1000億円ー200億円=800億円ということになります。もし配当基準を仮にDOE2%とすると、この自己資本800億円×2%=16億円が配当原資となります。

 前述したように、その年の利益というのは毎年大きく変動しますが、自己資本は企業創立以来何十年と積み上げてきた資産の総額なので、多少のことでは変動しません。なのでDOEが採用されると、多少業績が落ちようが赤字になろうが配当額が大きく減配されることはまずありません。また、企業は毎年黒字となって自己資本を少しずつ積み上げていくのが普通なので、配当額も基本的には少しずつ増配されていくということになります。これが投資家の安心感に繋がるということで、最近は配当額決定にあたってDOE基準を採用する企業が増えているのです。


 という訳でここからは、5976高周波熱錬の今期配当を具体的に検証してみたいと思います。


 高周波熱錬は今期から配当をDOE3%とすることを発表しています。つまり自己資本の3%を毎年配当にまわすということです。では高周波熱錬の自己資本はいくらかというと、四季報によると593.94億円となっています。なので593.94億円×3%=17億8182万円が今年の配当にまわされるという計算になります。同社の3月末時点での発行済み株式数(自己株式除く)は3777万8700株なので、17億8182万円÷3777万8700円=47.16円がDOE3%基準で計算した今期の1株配当ということになります。高周波熱錬は今期1株配当48円と発表しているので、ぴったりの数字です。

 繰り返しになりますが、DOEで重要なことは基本的にこの配当額が保証されるということです。単年の利益に対する配当性向で配当額を決定している企業の場合は、理論上は赤字になった途端に配当はゼロになります。しかし高周波熱錬の場合は、もし今期赤字10億円となってしまったとしても、自己資本が593.94億円から583.94億円に減るだけなので、配当額はほとんど変わりません(計算上は、一株配当が47.16円→46.37円と0.79円の減配になるだけです)。また、高周波熱錬の場合は現在進行形で自社株買いを進めており、さらにPBRが1を大きく割れている状況を踏まえても、今後もまだまだ自社株買いを行っていくものと思われます。となると配当計算上の分母が小さくなるので、一株配当は増加することになります。

 DOEを採用している企業の配当は、余程の大赤字にでもならない限り減配は考えられません。高周波熱錬の現在の配当利回りは5%弱、1年以上の継続保有で貰える株主優待も含めれば利回り6%弱がまず間違いなく保証される計算となります。「株価2倍3倍と大儲けしたい訳じゃない、でも安定的にコツコツと資産を増やしたい」というにとっては、高周波熱錬のような「高配当+DOE」という組み合わせの銘柄を複数持っておけばまず間違いないと思います。他では6246テクノスマート(配当利回り4.8%・DOE5%)、9076セイノー(配当利回り4.4%+株主優待・DOE2.4%)、9837モリト(配当利回り4.8%・DOE4%)など似たような銘柄は沢山あるので、気になる方は是非探してみてはいかがでしょうか。

 最後まで読んで下さってありがとうございました。