父親が入院した時、一時出張も残業もできなくなり閑職に異動させられた。

 

 

 

その場で出会った老人会会長がどうも自分を好きなことに気が付いた。

5つの小地区のそれぞれの会長の中から、1名代表会長が選出されていた。

 

 

 

 

彼が80の時。

事務室に二人きりなったことがあった。

文書ファイリングの整理をしていたので、テーブルに沢山の文章を広げてあった。

 

 

 

「西住、大変だな」

入ってきた会長が労ってくれて、

戦争に行っていたという彼は力も強く、身のこなしもスムーズだった。

 

 

 

気が付くと自分はそのソファに押し倒されていた。

「西住、好きだ」

寝たきりの奥様がいらして、老人施設で60代の彼女もいるらしいことも知ってはいた。

 

 

「Sさんどしたの?」

 

扉1枚の向こうには大勢が歩き回っているのも知っていた。

 

 

 

ここで行為に及ぶわけにはゆかない。

 

「誰かに見られたら、会長どうしたのってなっちゃうよ」

 

 

多くの方に人望のある彼の評判を落としたくなかった。

 

誰でも相手するわけでもないですし。

 

 

 

 

 

その後自分は違う場所に異動し、

 

 

 

 

彼が90の時、あるイベントの、バスの添乗員を務めて再会した。

 

存命かどうかも判らないまま再会し

 

年齢のこともあるのでもう忘れているかもと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

再会した彼は「西住、相変わらずかわいいな」と覚えていてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

数日前、寝る前に夜空を見ていて、

Sさん、もう存命ではないかもしれません。

それでも今でも西住が好きですか?好きだったら星の光を見せてください、と祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

雲っていたのだ。少し前まで雨だった。

雲が急に晴れてきて、ちかり、と一筋の光が見えた。

自分勝手な願いだけれど。何だか胸が一杯になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

今でも西住の事好きでいてくれたのね。

何も起きなかった自分たちだったけど、だからこそこうして

清い思い出だからこそ、とこしえに自分の中に在る思い。

 

 

 

 

 

 

 

 ある意味元気ですよ。80歳になっても当時

40代だった自分を押し倒せる力があったんですもの。

 

 

 

こういう元気なご老人ならいいな、

時分勝手に行為には及ばなかったし、

分別があったんですね、

現代の高齢者の方がわからんちんかも。