僕を見下ろしていた大ちゃんの目が眇められる。
ほんの、一瞬のできごとで、至近距離で見つめ合っている僕にしかわからない程度のことだった。
・・・気が、ついた、よね?
ただただやわらかく愛おしいものをみつめる視線に包まれながら、緊張感のようなものを感じていた。
ギイに愛され、自分の居場所をみつけ、全てを預ける。
無防備なまでの信頼を演じなきゃいけないのに・・・。
僕の心の動揺に気がついているのかいないのか。
ギイはお前の心の揺れさえも全て包んでやると言わんばかりの優しさと、ほんのちょっぴりの強引さで僕をひっぱっていってくれる。
このまま流されたい気持ちと、軽蔑されたくない一心との間で揺れ動く僕の心は、僕しか知らない。
・・・いや、僕と、大ちゃんしか・・・。
「カット!」
監督の声がかかる。
ぼくをカメラから自然に隠すように離れ、そのままスタッフさんと談笑を始める大ちゃんの笑い声を背中で聞く。
すぐに起き上がらなくてもいいように、シーツを引き上げ時間を繋いでくれている。
さりげなく僕の肩に触れている大ちゃんの手のひらのあったかさに、確信した。
気が付いて、気が付かないふりをしてくれている。
僕のプライドを守るために、他の誰にも気がつかれないように守ってくれている。
「・・・恥ずかしい。」
「そりゃ、お前。ラブシーンとは恥ずかしいもんだろ?」
「良かったよ~。戸惑いが初々しくて!熱演だった!」
見当違いな誉め言葉をいただいて、余計に恥ずかしくなる。
自分でさえ知らなかった自分の中の熱をいきなり目の前に突きつけられて、しかも大ちゃんに知られてしまったという動揺が、初々しい戸惑いと映ったらしい。
だって、知らなかったんだ。
触れられることが、こんなに気持ちいいなんて。
あちこちをさまよう大ちゃんの手のひらが、熱を持って変化してしまった部分を掠めていった。
一瞬だけ揺らいだ大ちゃんの視線の原因。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
・・・ラブシーンを演じたことよりも何よりも。
演技なのに、本気で反応してしまったことが、いたたまれなかった。