「まお何飲むの~?アルコール駄目だもんなあ。」

「んー・・・。なんでもいい。」

 

ベッドに寝ころびながら、テキトーな返事をする。

今日は甘えさせてくれる居心地のよさについつい甘えてしまう、お兄ちゃん的存在のタッキーの部屋にお邪魔している。

本棚から目についた雑誌を抜きとり、見るともなしにパラパラと広げる。

 

二人で温泉に出かけ、洗いざらしの髪で帰ってきてしまってたせいか、少し寒い。

 

「まーおっ。髪乾かさなくていいのか?」

「んー・・。面倒くさい。」

 

こういう時、大ちゃんなら「仕方ないなあ。」なんて言いながら乾かしてくれるんだけど。

いくら甘えさせてくれるタッキーと言えども、それを期待するのは甘えが過ぎるというもの。

いつもの習慣でついつい甘えてしまったけれど、自分で乾かさなきゃ、とベッドを降りようとするとドライヤー片手にタッキーが戻ってきていた。

 

「甘え上手だよなあ、まおは。いやいや、俺が甘やかし上手なんだよな。多分。」

 

うんうん。などと勝手に納得しながら熱風が髪をくすぐる。

 

気持ちいい。

 

他人に髪を触ってもらうのって、相手が誰だろうと単純に気持ちいいものなんだと知った。

恋の対象として意識していない信頼できる相手だからこそ、なのかもしれないけど。

 

「タッキー上手だねえ。美容師さんなれるかも。」

「おっ、褒め上手でもあるな。まおは。」

 

ふんふんと機嫌よさげに鼻歌を歌っているタッキーはある意味世話好きなお母さんにも見える。・・・けど、これは誉め言葉じゃないような気もするから心のうちにしまっておこう。

 

「まおってさあ。綺麗な目してるよな。どうやったらこんな芸術的なラインを描けるんかね。」

「えーっ。普通だよ。タッキーのほうがまつ毛バシバシでお人形さんみたいじゃん。」

 

「まつ毛は育毛でどうにでもなるんだよ。」

「え?そうなの?育てることできるの?」

 

女の子のような豪奢なドレッサーこそないけれど、部屋の片隅には男の独り暮らしには似つかわしくない姿見が置いてある。これまた男の独り暮らしっぽくないコスメコーナーには、頭に使うのかと思っていた育毛剤が、まつ毛専用だと聞いて意識の高さに驚く。

 

「やっぱ、手間暇かけてるんだねえ。」

「当たり前だろ?1%のDNAと99%の努力で支えられてんだよ。この顔は。」

「あははっ!DNAの割合はもっと高そうだけどね。」

 

この顔は。とずいいっと至近距離に迫られて、一瞬くらりとめまいがする。

 

ん?めまい??

 

「この頬のラインとかさあ。ぷにぷにしてて、食べちゃいたいぐらいかわいいよな。」

「・・・ありがと。・・・親に感謝、なのかな?」

 

ぼくだってDNAが勝手にこの顔を作り上げただけで、褒めちぎられてもどう返事したらいいのかわかんない。ぼくを見るたびに、かわいい。と連呼し、連れ去ろうとして大ちゃんに睨まれる。そんな二人のやりとりが、嬉しい。好きな人にやきもちを焼いてもらいたくて、タッキーにかわいい、と言ってもらうことを放置している。

 

だから、二人きりで連呼されると、どうしていいのかわかんなくなる。

 

かわいい。と言ってもらうことが嬉しいんじゃなくて、大ちゃんにやきもちをやいてもらうのが嬉しかったから。

 

「あーっ。ほんと、家に帰っていたらまおが待ってたら毎日テンションあがんだろうなあ。

いっそ、このまま嫁に来ない?」

「やややや。それは、ない・・・」

「ないの?俺のこと、嫌い?傷つくなあ。」

 

冗談だとわかっているのに、真剣に返してしまう自分が情けない。

どうして大ちゃんみたいに、冗談にはひとひねりしたジョークで返せないんだろう。

 

しゅんと肩を落としたタッキーに、真剣に断ってしまったことを後悔する。

 

「・・・って、まおが落ち込んでどうするんだよ~?」

 

つられてしゅんとうつむいていると、タッキーがおどけたように覗き込んでくる。

 

くらり。

ああ、また眩暈がする。

 

やっぱり年上に甘やかされるのに弱いのかも・・・。

 

「大丈夫か?」

 

のぞき込むだけじゃなく、頬を手のひらが包む。

本気で照れてしまっているのか。タッキーの手が冷たく感じる。

 

「気持ちいい・・・。」

「おい?まお??」

 

胸もきゅんと痛む。

関節も痛くて、ドキドキ・・・じゃなくて、ゾクゾクも・・・。

 

わ。ゾクゾクするぐらいタッキーにくらくらしちゃってるのかな。ぼく。

大ちゃんごめんなさい~~。

 

心の中で手を合わせたところで、記憶が途絶えた。

 

 

「まーおっ。大丈夫か?家に連絡しておこうか?今晩は泊まれ。」

 

夢心地で遠くで声が聞こえる。大ちゃん・・・の声じゃない。

汗びっちゃりでタッキーのベッドを占領していることに気が付いて、起き上がろうとするけど、身体が動かない。

 

「うう・・・。泊まりはまずいよ・・・。これ以上タッキーと一緒にいたら・・・。」

 

真剣に恋に落ちてしまったら、困る。

 

「心配すんな。ワクチンだってばっちり打ってるし、空気清浄機だってまわってる。」

 

わくちん?せいじょーき?

犬の名前かなんかだろうか。星条旗??あめりか??

あり。タッキーの家にいたんじゃなかったっけ・・・。

 

回らない頭で一生懸命考えるけど、思考はぼんやりとぼやけるばかりだ。

 

「とにかく、帰る・・・。」

 

理由はわかんないんだけど、とにかくここにいちゃいけない。

本能だけで、動かない体を引きずっているとベッドから落ちた。

 

「・・・いたい・・・。」

 

どうして痛いんだろう。

 

「もー。頑固ものだなあ。顔に似合わず。」

 

タッキーが苦笑しながら、誰かと話している気配を感じる。

 

<そう。回収しに来てよね。俺じゃダメだってさ。とにかく帰るの一点張りで。>

 

 

「・・・まおっ!大丈夫か?」

 

朦朧とする意識の中で声を聞いた。

やっと帰れる。安心して眠れる。とジタバタともどかしく動かしていた手足から力を抜く。

 

「ほんとにお前は・・・。手をかけるな。」

 

おでこをぴんと撥ねられた気がするけど、大ちゃんの顔は笑っていた。きっと。

 

 

「ほんとにね~。この状態で帰るほうがしんどいだろうに。

大ちゃんも移されなうように気をつけてよ。」

「大丈夫だよ。まおがそんなことするわけがない。」

 

「・・・いやいやいや。インフルエンザが人を選ぶわけないでしょ?

って、意識もうろうとしてても大ちゃんを呼ぶところが、インフルさえも大ちゃんは特別なのかねえ。まおにとっては。」

 

「手間、かせさせたな。」

「いえいえ。ごちそーさま。」

 

 

ふわり。と宙に浮く感覚に、全身のだるさとは裏腹に、ふんわりとした幸せに包まれるのだった。

 

 

 

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伏線が長かったですねWW

要は、胸キュンゾクゾクを恋心と勘違いして、大ちゃんごめん!!ってギャグ?にしたかったんだけど。

 

予定通りに動いてくれないのが、私の中の大まおさん・・・だけじゃなくてタッキーもでした。

いやいや、タッキーはほぼ予定通りの動きかな?

 

インフルエンザ猛威をふるっております。

職場では、二人ダウンして、利用者さまも毎日誰かがダウンしますWW

 

仕事柄濃厚接触するのですが、私よりもほかのスタッフのほうが倒れてゆく・・・。

やっぱ、20年間毎年ワクチンを打ち続け、インフルと戦い続けているから免疫力が違うのかしら??

スタッフ不足で毎日とっても忙しくクタクタで普通の風邪はひいてしまいましたがね。

 

私がインフルに強いのは、妄想力で勝手にハッピーを作り上げ、幸福感に浸ることができるからでしょうか////

妄想体質でよかった!!

 

入試まであと2週間!!!!

 

家庭に持ち込まないようにだけしなければ。

インフルさん、あと2週間だけ来ないでね~~。