「おっ。もしかして、バレンタインのチョコか?」
「うーん。どうだろうねえ。できてからのお楽しみね。」

キッチンで明日のためにチョコを作っていると、大ちゃんがのぞきにくる。

「チョコか?」
「まあ、バレンタインなんだから、そうだろうね。」

内緒にしてサプライズプレゼントにしたいけど、難しい。
さっきから、べたーっとカウンターキッチンの向かいにへばりついている。

「もうっ!大ちゃんも台本読むとか、お菓子食べるとかしててよ。」
「台本は完ぺきだし、今はお腹いっぱいだよ。」

「じゃあ、何かしたいこととかないの?
ほら、映画みたいの溜まってるとか言ってたじゃない。」
「あー・・・。今はそんな気分じゃない、ってゆーか、まおを見ていたい。」

「・・・あっそ。」

どうにかして追い払おうと思うんだけど、
追い払うどころか赤面もののセリフを吐かれて反論できない。

「あっ。卵を泡立てるってことはクッキーじゃないな。
ケーキか?」
「・・・だから、内緒って言ってるでしょ!」

「いやあ、俺もさ。勘が働くようになったよな~。
ずっとまおが作るの見てるうちになんとなく覚えちゃったよ。」

あ。先に小麦粉の分量測るの忘れてた。
どうしようかなあ?と、卵を泡立てながら視線をさまよわせていると、
目ざとい恋人が横に立っている。

「手伝おうか?泡立てるの。」
「うー・・・。大ちゃんのために作りたいんだから、手伝ったら意味がないのっ!」

「だって、お前、あれもこれもしようとするから泡まみれじゃん。」
「・・・うー・・・。」

確かに、チョコは溶けかけのまま放置され。
卵た中途半端に泡立てられたまま。
小麦粉は袋のままテーブルに出番を待っている。

「ま、そんなとこがかわいいんだけどな。」

ぺろり。と鼻についたクリームを舐められ、くすぐったい。

「俺にとっちゃーまおのエプロン姿だけで十分だよ。」
「そんなのいつものことじゃん。」

「あ。じゃあ。バレンタイン特別バージョンってことで、裸に・・・。」
「大ちゃん!」

舞台上と同一人物と思えないぐらい目尻がふにゃあ、と下がった恋人をばしっと叩く。

「そんなことしたら、風邪ひくでしょ?今、二月だよ?」
「じゃあ、風邪ひいたときの看病込みってことで。」

ぎゅ、と後ろから抱き着いてくる大ちゃんは、もはやバレンタインという本題を忘れている。
しかも、俺が看病してもらうって、プレゼントの趣旨さえも逆になっている。

「あのねえ。風邪うつるよ?」
「まおの風邪なら大歓迎だ。」

「いいの?その間ボイストレーニングもできないし、体力も落ちるよ?
自慢の胸筋だって落ちちゃうかもね~。」
「う・・・。それは、困る・・・。」

かくして、裸にエプロンは諦めたのでした。





「お前、いつも甘い匂いがするよな~。」
「ん?そう?」

「こうやってお菓子を作ってくれるときだけじゃなくさ。」
「え~?そんな甘ったるい香水つけてないよお?」

くんくんと自分の肌をかぐ。

「そういう意味じゃなくてさ。俺を甘い気分にさせる匂いだよ。」
「・・・大ちゃんってば///」

歯の浮くようなセリフ。
素面で聞いたらドン引きそうなセリフ。
少女漫画の中だけで成立する夢。

なのに、大ちゃんが言うとかっこよく聞こえてしまう。
たぶん、ドラマか漫画からそのまま抜け出たような完ぺきな恋人だからだ。

「うん。やっぱり。」

ボウルを持ったまま壁に押し付けられ、首筋をかぐように鼻をこすりつけられる。
俺を囲うように壁についた腕の血管が、目の端に入る。

確かに生身の人間で。
毎日抱きしめてくれる血の通った腕で。

なのに初めて感じるようなトキメキを覚えてしまうのはなぜだろう。

「あのね。大ちゃん。のいてくれる?」

ボウルを握りしめたまま、小さく言うのがやっとで。

「ダメ。まおが食べたいから。甘い匂いさせて誘惑しただろ?」
「えっ。えっ?そんなのしてな・・・。」

い。

という文字は、大ちゃんの唇に飲み込まれた。





「まおってさあ。いっつも甘い匂いさせてたよね。」
「え?そうかなあ。」

「そうそう。いつもお菓子食べてたもんね。」
「大ちゃんのスペースまで侵略してさあ。」

「侵略って地球襲ってるみたいじゃん。」
「そうだよお。俺は地球を守ってた天使なんだよ!」

ぷん。と頬を膨らませてまおが某特撮の変身ポーズを披露する。

「まお?まお?過去形になってるよ?」
「あっ!ほんとだ。」

「まあ、今は大ちゃん専任だもんね~。」
「ねーっ!?」

「甘い香りも大ちゃんにしかふりまかないもんねー?」
「ねーっ?」

じゃあ、楽しい夜を!
今からその専任の恋人とデートらしい。

雑食の俺たちは、独り身同士楽しく酒でも飲みますか。
どこかから甘い香りがしてくるかもしれないしね。




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いや~。
最初はひとつのお話しだったんだけど、書いているうちにどんどんずれていってしまってまとめれなくなしました・・・。

3本目なんて、大ちゃん以外の3人で話している雰囲気だし。
どの3人かはご想像におまかせしますW

ちゃんと3つにわければいいのですが、管理も3倍で面倒くさい、ってことでW
繋がってるようで繋がっていないお話でごめんなさい。