クーラーの効いた映画館から出ると、むっとした熱気に包まれた。

「うっ、外はまだあっちーなぁ。」

ぱたぱたと顔を仰ぎながら、頬を火照らせているまおに一瞬ドキリとする。

「だよね。こんなに残暑厳しいのに、来週から衣替えだよ。」

衣替え。
久しく忘れていた単語に、自分とまおの年齢差を再認識して、ドキリ。としてしまった感情をえいっ!と払いのける。

「そっかあ。まおってまだ現役高校生だもんなあ。タクミのブレザー着るのも、違和感ないよな。」
「え~。大ちゃんだって、似合ってたよ。」

「無理しなくていいよ。」
「してないよ。」

してないよ。と言いながらも、ぷぷっと噴出すまおに、失礼だなあ。と小突きながらも、笑顔が見れて嬉しい、などと思ってしまう。

照れ隠しに反らした視線の先に、涼しげなジェラード屋さんがあった。
そういえば、喉渇いたな。

「あ。アイス食う?まお。」
「・・・うん。」

まおのアイスと、自分のカプチーノを持ち帰ると、まおが植え込みにちょんと腰掛けて待っている。

・・・どうしてコイツはこう・・・。

無自覚に自分が一番可愛く見える仕草、というものを知っているのだろう。

誰もがメロメロになってしまう愛くるしさ。
まおを好きになったヤツは苦労するんだろうな・・・。

自分のことは棚に上げて、そんなことを思ったりする。

「あ~あ~。そんなもたもた食ってると、垂れてくるぞ?」
「だって、急いで食べると頭がキーンってなるんだもん。」

おそる、おそる。といった風に舌先を突き出してジェラードを舐め取る舌が、白く染まる。
溶け出したアイスがまおの手を伝ってゆく。

思わず視線が釘付けになってしまい、ぽとん。と落ちてしまう直前で我に返った。
ぺろん。と舐め取った舌先に、微かにまおの気配を感じる。

「ほら。手伝ってやるから。」

己の心理を封じ込めるように、アイスの垂れた腕ごとぎゅっと握り締める。
喉を通り過ぎてゆく冷たさとは対象的に、握りしめた腕が熱い。

街の雑踏も、残暑の熱気も。
意識の上を滑ってゆく。

さわり。と風が吹いて、額に張り付いた前髪をかきあげてゆく。

秋の気配を含んだ風が、一年前の記憶を呼び覚ましてゆく。

一年前。

おさなくて、あやうげで。

触れた肌が滑らか過ぎて。

愛おしい。と感じじずにはいられなかったのに、本気になってはいけないと踏みとどまる自分がいた。