「まお君のこと、好き?」

ゆんに言われた一言が、頭から離れない。
自分の出演した作品のひとつとして飾ってあるだけの写真が、トクベツなものに感じられる。

すがりつくようなまおの瞳。
ふわ。とやわらかに微笑む瞬間に胸に広がったあたたかい感情。
触れられることに慣れていなくて、緊張に強張らせていた身体。

まおの仕草や表情を思いだすたびに、浮き足立つような不安定さに足元をすくわれる。
わけもわからず泣きたくなるような感情に、振り回される。

・・・好き?好きに決まってるだろう?
そう、開き直れたらどんなに楽だったろう。

タッキーのように素直に好き。と言えたら・・・。

だけど、言葉にできないのは本気だから?

いや。
精神的距離というものは、物理的距離に比例するもんだからな。
撮影のためにあれだけ蜜に同じ時間を過ごして、裸同然で抱き合ったのだから意識して当然だろう。

核心の部分に迫ろうとすると、否定して本当のことを見ようとしない自分がいる。

------例えこれが恋だとして。

どうしようというのか??

ゆんのように告白して、前にすすむ勇気や情熱があるのか?
まおのことをそういう対象で見る。なんて信頼に対する裏切りじゃないのか??

まおの唇の感触も、肌の滑らかさも、ぬくもりも、知ってしまった。

ゆんのように純粋な友情の延長の好き。という精神論だけで語れない感情がある。

「駄目だろう・・・。俺。」

駅に向かうまおの腕を摑んで引き戻したいと思った。
この腕に抱き締めて、離したくないと思った。

・・・抱き締めて、キスしたい。と思った・・・・。

よな?

本当は。


キスも知らなかった純粋無垢なまお。


「好きだ。」と強引に抱き締めてキスするなんて、犯罪のように感じられた。

あの綺麗な瞳が裏切られた、と傷ついて、悲しみに濁ってしまったらどうすうんだ?


・・・怖い。

そっちに行きたくない。


二人で笑っているフォトフレームをパタンと倒して、思考を閉じた。