琥珀色の液体の入ったグラスが、ゆっくりと彼の瞳を遮る。
吸い込まれそうなほど深いブラウンの瞳に見詰められると、全てが暴かれてしまうようだ。
思わず見とれてしまい、自分のグラスを掲げるのを忘れていると、ぼくのグラスに
彼が催促するようにグラスを重ねた。

「僕はアルタイル。君は?」

耳を、疑った。
知的で静かな光をたたえた星そのもの、と言った彼が、ぼくの大好きな星の名を名乗っている。

「・・・ベガ。」

彦星に対して織姫星だなんて、ベタすぎただろうか?
また、誘ってるのか?なんて軽く見られないだろうか?

驚いたように沈黙する彼を見て、一秒前の出来事を後悔する。
ほら、いつも失敗ばかり。

でも、次に聞こえた言葉は、今まで誰からも聞いたことのない言葉だった。

「ふうん。星、好きなんだね。」

ふわり。と花が咲いたように、優しく綺麗に微笑む彼。
また、胸の奥がドキン、と鳴った。

「・・・ほら、アルタイルと聞いて、咄嗟にベガって出てくる人間ってそうそういないよ?」
「・・・・あ。・・・そう、ですか?」

今までの男は、ベガが星の名前だ。と判ればいいほうだった。
七夕の織姫星の名前です。と説明すれば、「じゃあ、ネコってわけだ。」と、すぐに体の関係を求められた。
鍛え上げた筋肉を見せつけながら、有無を言わさず組み敷かれ、巨根が好きなんだろう?
と、貫かれた。

違うのに。
ぼくは、ただ、静かに心の内を話せる相手が欲しいだけなのに。

筋肉ムキムキで巨根の持ち主にうっとりしないのは、この世界でも異端児なのだろうか?

サイトを開いても、マッチョな兄貴募集だとか、いかに立派なモノの持ち主で、満足させれる。とか。
うっとりどころか、がっかりする内容ばかりだった。
こういう場に来れば、穏やかに悩みが打ち明けられ、ゆっくりとキスから始めるメイクラブが体験できると信じていたけれど、現実というものは、そう甘くないのだと手荒く男に揺さぶられながら痛感した。

ボロボロと剥がれ落ちてゆく、夢や希望。

彼は、そのカケラを拾い上げてくれた。