今日はお友達の大ちゃんの家に泊まりにきている。

小さい頃から、兄弟のように育てられた僕達。
ずっと昔から、大ちゃんが夏休みや冬休みに入るたびにお泊りにきていた。

一緒にごはんを食べて、お風呂に入って、一緒の布団で寝て。
夏は花火をしたり、冬はコタツにもぐりこんでかくれんぼをしたり。
いつまでも、いつまでも他愛の話をして、盛り上がって「早く寝なさいっ!!」ってよく怒られたっけ。


そんな僕達も、いつの間にか大きくなって、大ちゃんは大学生になってしまい、夏休みとか冬休みぐらいしかゆっくり会えなくなっていた。

なんだか、急に大ちゃんがオトナになって、遠い存在になってしまったような寂しさを抱えていた日々。

久しぶりのお泊りで、僕の心もうきうきしていた。


「さあ。そろそろ寝るか。」

当たり前のように、二組の布団を並べて敷いてくれる。
去年までは、当たり前のように大ちゃんのお布団にもぐりこんでいたのに。

「大ちゃん・・・。一緒に寝ちゃ、ダメなの?」
「ダメってことはないけど・・・。ほら。お互いにカラダも大きくなったし、風邪引いたらだめだからさ。」
「じゃあ、掛け布団だけ、2枚使ったら大丈夫でしょ?」

ちょっと困ったようにはにかむ大ちゃん。

「・・わかったよ。でも、狭いから、くっつけて・・・。これでいいだろ?」
「うんっ。大ちゃん、大好きっ!!」

布団にもぐりこむと、パチンと電気を消してくれる。

「わわっ!!」

真っ暗中、僕にけつまづいた大ちゃんが、バランスを崩して僕の上に落ちてくる。
目の前には、ずいぶんと大人びた大ちゃんの顔。

「わあっ!!びっくりしたあ~~。」
「ごめんっ!!まお。大丈夫だった?」

「うん。大丈夫だよ。びっくりしただけ。」

本当は、あまりにも至近距離にあった大ちゃんの顔にドキンとして、のしかかられた肩の痛みなんて忘れてしまっていたんだけど。

「じゃあ、おやすみ。」
「うん。おやすみ。」

隣の布団にもぐりこむ気配を感じる。
すぐ隣で寝ているのに、なんだかとっても遠くにいるみたいだ。

そっと布団の中から手を伸ばして、大ちゃんの指先に触れる。
ピク、と反応した気がするけれど、寝てしまったのか握り返してくれない。

「大ちゃん・・・。寝ちゃったの?」

そっと聞いてみるけれど、返事がない。

「なんだあ。せっかく久しぶりのお泊りだったのに・・・・。つまんないの。」

自分の掛け布団ごと、ずりずりと大ちゃんのお布団に移動する。

「会いたかったよ・・・。大ちゃん・・・・。」

大ちゃんの布団にもぐるこんで、ぎゅっと久しぶりの抱き心地に安心する。
大学で、僕の知らない人と、僕の知らない時間を過ごしている大ちゃん。
でも、今はこうやって側にいる。

そう思うと、なんだか急にほっとして。

「あれ?なんで泣くんだろう・・・。」

涙がポロリとこぼれた。

「おやすみ。大ちゃん。」

ふいにこぼれた涙の意味はよくわからなかったけれど、大好きな大ちゃんの腕を両手で抱えて頬をくっつけるとなんだか落ち着いて、とろとろと眠りに落ちた。

真夜中。

トイレに行きたくなって、目が覚めると隣にいるはずの大ちゃんがいない。
布団をさぐるけれど、眠る前には確かにあったはずのぬくもりがなくて。

急に不安になって、大ちゃんの枕を抱える。
僕の大好きな大ちゃんの匂いがする。

「大丈夫。落ち着け。まお。」

自分にそう言い聞かせて廊下に出る。
勝って知ったる他人の家、だけれど、冷たい空気と足元から伝わる床の冷たさが不安を膨らませる。

「大ちゃ~~ん。どこにいるの?」

ペタ。ペタ。
自分の足音が静まり返った廊下に響き、なんだか知らない人の家に来たみたいで怖くなってくる。

「だいちゃっ・・・!!」

ぞくっと背筋を悪寒が走って、枕ごと膝を抱えて丸まる。
怖い。大好きな大ちゃんの家だけど、一人ぼっちは怖い。
今日に限って、おじさんもおばさんも留守なんて・・・。

がちゃ。とドアの開く音がして、顔を上げると探していた大ちゃんが、びっくりしたような顔でこっちをみている。

「どうした?まお。」
「ふえっ・・・・。」

大ちゃんの姿を見た瞬間に安心して、涙がこぼれる。

「だって・・・。急にいなくなるんだもん。びっくりしたよ・・・。」
「ああ、ごめん。ごめん。寝付けなかったから、大学のレポート仕上げてた。」

寝付けなかったって・・・・?
大ちゃん、僕より先に寝てたんじゃないの??

ぎゅと枕を抱えて、膝を抱く腕に力を込める。

「なあに?まお。怖くてトイレに行けなかったとか?」
「・・・ちがうもん。」

そうやって、すぐこども扱いする。
どんなに頑張って牛乳を飲んで瀬が高くなっても、9歳の年齢の差は埋められない。

「お化けは10月にしかでてこないんだろ?」
「・・なあに?それ。」

にや。と唇の端を片方だけ上げて笑う大ちゃん。

「まお、いつも夜中にトイレに行くたびに、俺を起こして10月しかお化けでないんだよね?って俺のパジャマつかみながら、言ってた。」
「なんで、10月なの?」

「最初は俺もわかんなくて、適当に話し合わせてたんだけど。いつもハロウィンパーティーした後にそう言ってたから、そういうことかあ、って納得したんだよなあ。」
「・・・そうなんだ。」

さっきとは違う意味で、膝を抱える。
今更、そんな子供のときの話を聞かされると、恥ずかしい。

「ほら。そんなところで座り込んでると、風邪ひくぞ。」
「あ。うん・・。」

今まで部屋着で着ていたニットを脱いで、僕に着せてくれる。
脱ぎたての大ちゃんのぬくもり。
大ちゃんの匂い・・・。
それだけでさっきまであんなに怖かった廊下が、やっぱり、勝ってたる他人の家に思えてくるから不思議だ。

「先、帰ってるぞ?それとも・・・。トイレについていこうか?」
「もうっ。一人で行けるよお。」

「そっか。残念。お化け怖い~~。ってしがみつてたまお、可愛かったのになあ。」
「11月だから、お化けはでないんです~~。」

べーっと舌を出して、やりかえす。

「泣いても、知らないからな。」

なんて言いながら、ひらひらと手を振って寝室に戻っていく大ちゃん。

「泣かないもん。・・・大ちゃんに追いつけるけるように、オトナになるって決めたんだから・・・・。」

ポソリとつぶやいた独り言。
いつか貴方のその背中を追いかけるのではなく、隣に並べる日がくるのだろうか・・・。