「ただいまー。」

いつものように、稽古から帰って玄関のドアをあける。
鍵はかかっていない。まおが、来ている。

そのドアノブに手をかけたときの軽さに、ついつい口元がゆるむ。
玄関には、きちんとそろえられた、まおの靴。

・・・・なのに、今日は「おかえりなさ~~い。」の抱きつき、がない・・・・??

奥から、なんだかぶつぶつとまおの声が聞こえる。

怪訝に思いながら、リビングに入ると・・・・・。

ソファにうつ伏せに寝転んだまおが、一心不乱に台本を読んでいる。
・・・・・ああ。今度の撮影の・・・・・・。相変わらず、仕事熱心だな・・・・・・。

ストイックに仕事に熱中しているまおは、正直同性で、コイビト、の俺が言うのもおかしいけれど、カッコイイ。
いつもの、キラキラ、ふあんとした瞳が、一気に強い意志を帯びた大人の表情に変わって。

そっと、まおの邪魔をしないように、ソファに腰掛ける。


「・・・・・あ。大ちゃん。おかえりい。・・・ごめんね。気がつかなくて。」

一気に、瞳の光が柔らかくなり、ふあんとした雰囲気になるまお。

「いいよ。今度の撮影、だろ??」

台本を覗き込むと、ちゅっと、頬にキスをくれる。

「うん・・・。ちょっと、長い撮影になりそう。」
「ロケ地とか、決まってんの??」

「それがね。ちょっと遠くて。・・・・一週間以上、離れ離れ。になるかも・・・・・。」
「そっか・・・・。俺も稽古も大詰めって感じだしなあ・・・・。お互い、忙しくなるな。」

ぽんぽん、とまおの頭を撫でる。

「でも、お互い忙しい時期でよかったな。どっちかがオフだと、待ってるほうはツライもんなあ。」
「あ。ほんとだねえ。」

「まおも、そうやって大きな仕事が入るようになってきた。ってことだよな。舞台も、映画も。」
「うん。そうだね。がんばらなくっちゃ。・・・・ヒトツ、成長してくるから。待っててね。」

もう一度、今度は唇に、ちゅっとキスをくれる。
・・・・・そんなふうにオトナになってゆくまおが、頼もしいような、寂しいような、複雑な気持ち・・・・。

「大ちゃんも・・・・。ドラキュラ、がんばってね。うんと、うんとカッコイイジャック、期待してるからね。」
「おう。まおには負けらんねーからな。」

ぱちん、とハイタッチして。そのままがしっと握手して。

「あ~あ。でも、一週間以上も離れ離れかあ・・・・。初めて、じゃね~?そんなに長いとこ会わないの。」
「んん~~。そうだよねえ。」

「ああ。なんか俺、不安だなあ。稽古疲れて帰ってきて、まおがいるのが当たり前だったから。まおの顔みたら、どんなハードな稽古でも、一気に疲れがふっとんでたのに。どんなプレッシャーでも、和らいだのに。」
「ふふ。うれしい。そんなふうに思っていてくれて。・・・でも、大ちゃんなら、きっと大丈夫だよ。」

ふあん。とまおの胸に抱きしめられる。
まおの柔らかい香り。
まおのトクトクとなる鼓動。

「そうだな・・・・。まおも一人でがんばるんだもんな・・・・。」

このあたたかい腕に抱かれていると、安心する・・・・・。
でも、、まおだって、そんなに長い間、遠方にロケに行くのは初めてなのだ。

身体をおこすと、今度はまおをしっかりと自分の胸に抱き締める。

「まおも・・・。がんばってこいよ。帰ってきたら、また報告会、な??」
「うん。寂しくなったら、大ちゃんもお稽古がんばってると思って、がんばるね。」

ぎゅううっと力を込めて、背中に回されるまおの腕。
よしよし、とまおの頭をなでて、その髪に口接けた。