「リカの名前ってそんな名前なんだー!」

「何か照れるなぁー。」


その日は久しぶりに彼とリカの3人で電話をしていた。

リカは私が彼に好きと伝えた時に居たしで色々と相談に乗ってくれたりしていた。

リカは私より3歳年上だから私にとってお姉さんみたいな存在だった。

私たちは自分たちの名前について話していた。

そしてリカは自分自身の本名を私たちに打ち明けた。


「でも何かその名前似合ってるよ。」

「ありがとう。ほんと照れるなー。」


リカの本名をただ彼が呼んでいるだけなのに私は嫉妬してしまった。

大切な友達なのに最低だ。

だけど私は電話中に彼にそっとメッセージを送った。


【何か、リカの名前を呼ぶの何か妬ける。】


一瞬、彼の言葉が詰まった気がした。

そしてしばらくしてこんな返事が返ってきた。


【今本気であいのこと可愛いと思った。】


私はそのメッセージを見た瞬間、死んでしまいそうになった。

彼が私のことを好きと言ってくれている。


【照れるからやめて。】


私は照れ隠しにそんなことを送っていた。

本当は素直にありがとうと言いたいのに。


【やめない!あい可愛いよ。】


彼はどうやらそんな私の態度がおもしろいらしく可愛いと何度も送ってきた。

私は軽い冗談のつもりで


【やめないと嫌いになるよ!】


と送った。

それまで順調に続いていたメッセージがぴたりと止んだ。

そしてしばらくして


【嫌いになってもいいよ。俺は好きだから。】


と返ってきた。


【あい、いっぱい戸惑ってるんでしょ?】


彼は私のことを全て見透かしている。

私が思ってることを全部当ててしまう。


【遠距離初めてっぽいし…】


最初私が彼に告白した時、私は彼を救いたいと思った。

だけど、実際に救われているのは私の方だった。


【それに、俺がこんなんだから余計に…さ。】


彼は時々とてもネガティブになる。

それは付き合う前から分かっていた。


【それは違う!】


私は即座に返事を返した。

いっぱい彼に救われているんだから、私も彼を救わなきゃ。


【私はどんなあなたも好きだよ。だから…】


感情が入ってしまって、メッセージを打ちながら涙が流れてしまう。


【本当のあなたをいっぱい教えて?】


それから少しして、リカが寝ると言って電話を切った。

そして彼は私に自分のことを教えてくれた。

両親が離婚していること。

母親とうまくいっていないこと。

学校に行っていないこと。

何となく分かっていたことだったけど、それはあまりにも悲しい事実だった。



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リュウさんとの一件があってから、私はリュウさんを距離を置いた。

リュウさんもさすがにまずいと思ったのか、リュウさんから話しかけてくることもなかった。

ケイさんにはちょくちょく相談したりしていた。

後ろめたさはちょっとあったけれど、それでもケイさんは私の1番の相談相手だった。


私はサチと友達になった。

知り合ったのはかなり前。

例のごとくチャットで知り合った。

でも1つ年上ということや近寄りがたいオーラを放っていたからなかなか2人で喋ったりということはなかった。

しかしいざ話してみるととても気が合ったり、住んでいるところも近かったしですぐに仲良くなったのだ。

サチは彼のことも知っていたので、私は仲良くなってから彼と付き合っていることを告げた。

彼女は一瞬驚いていたけど、応援してくれた。

ある日、私は彼との電話中に彼女を呼んだ。

3人で電話をするのは初めてだった。


「サチってもっと喋りにくいと思ってた。」

「よく言われるよ。」


彼はサチと初めてこんな風に喋ってみて驚いていた。

3人での空間が割と心地よかった。

いつしか3人で電話をすることも当たり前のようになっていた。


その日も、3人で電話をしていた。

すると


「今日はいい人連れてきてあげるよ。」


と、彼が言った。

そして彼が新しい人を電話に呼んだ。

それはレンさんという男の人だった。


「あのレンさんですか!?」


私は思わずそう言ってしまった。

レンさんはチャットの中でファンが居ると言っても過言ではないほど人気があった。

私も数回チャットの中で会ったことはあったが、こんな風に喋る機会があるとは思ってもいなかった。

レンさんは私たちより年はかなり上だったけれど、私たちの話にのってきてくれたりとてもいい人だった。

彼とはかなり前から知り合いだったようで、彼はレンさんのことをお兄ちゃんのように思っていたそうだ。

ただなんとなく。

私は女の勘みたいなもので思っていた。

サチはレンさんのこと好きなのかなって。

レンさんと交わす会話の端々に何となくそう感じるものがあった。

ただ確証はなかったから口にすることはなかったけれど。


レンさんと初めて電話をした日から、4人で電話をすることが多くなった。


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相変わらず私たちは毎晩の電話を欠かさなかった。

電話をすると必ずテレフォンセックスをした。

毎晩毎晩その繰り返しだった。


「あいちゃん、あいつとうまくやってるの?」


ある日、リュウさんから聞かれた。

リュウさんやケイさんはやっぱりネット恋愛の先輩でもあり、遠距離恋愛の先輩でもあったからしょっちゅう相談したりもしていた。

いつもなら同じ女だし、ケイさんに相談していたけれどその日はリュウさんがメッセージを送ってきてくれてそれからずっと私と彼の話になっていた。


「それなりに仲良くやってますよー。」


私は笑いながらそう言った。

するとリュウさんはいきなりこう言った。


「あいちゃん今度会おうよ。」


リュウさんはたまたま私の家の近くでバイトしていた。

田舎に住んでいる私だったから近くにリュウさんがバイトしていると知った時は本当に驚いた。


「あ、はい!他誰か呼びますか?」


私はオフ会の誘いだと思った。

だから割と近いメンバーを集めてオフ会をするんだと思っていた。


「…あ、いや。2人で会いたいな。」


私は戸惑った。

リュウさんはどんな意図があって私と2人で会おうとしているんだろう。

ケイさんには言うべきなんだろうか。

私はメッセージ上でも分かるくらいに戸惑っていた。


「ケイには、内緒にしてほしいな。あいつすぐに妬くから。」


そんな私の気持ちを知ってかリュウさんは言葉を続けた。

私には彼がいる。

リュウさんにはケイさんがいる。

だけど私はなぜか「はい」と返事をしていた。

何故なんだろう。

彼から昔の彼女の話を聞いたからだろうか。

リュウさんと2人で会ったと彼に言えば彼が妬いてくれるとでも思ったからなんだろうか。


リュウさんと会う日。

私たちは携帯のメアドを交換してちょくちょく連絡を取るようになっていた。


「あいちゃんに会えるの、楽しみだなー。」

「私もですよ」


そんな他愛もない話を続けていた。

そんな時、リュウさんからあるメールが届いた。


「あいつとはまだ会ってないんでしょ?寂しいんじゃない?」


そのメールを見たとき私は固まってしまった。

この人は何を言っているんだろう。


「俺が慰めてあげるよ。あいつと電話でするだけじゃ物足りないでしょ?」


今までリュウさんのことを本当に尊敬していた。

たくさん相談もした。

リュウさんがケイさんのことを本当に好きなのも知っている。

なのにリュウさんは私に何を言っているんだろう。


「バイト先に来てくれたらいっぱいかわいがってあげる。だから待ってるね。」


そうメールが来て、私は何も返さなかった。

そして地下鉄でリュウさんのバイト先がある場所の最寄り駅まで向かった。

地上に出ると外は大雨が降っていた。

その日私は傘を持っていなかった。

とりあえず雨宿りと、近くの店に入って。

ただ何をするわけでもなくぼーっとしていた。


「何やってるんだろ…」


何故ここまで来てしまったのだろう。

私には彼がいるのだから。

リュウさんには何て言おう。

ケイさんには言うべきなんだろうか。

私は携帯を取り出して。


「ごめんなさい、やっぱり行けません。」


とリュウさんに送った。

リュウさんからは「残念だね」とだけ返ってきた。


私はずぶ濡れのまま家に帰り、パソコンを繋いだ。

メッセンジャーには彼の名前とケイさんの名前があった。

いつも幸せそうにリュウさんのことを話すケイさんのことを思うととてもじゃないけど言えなかった。

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付き合ったとはいえ、大して変わりはなかった。

変わったといえば毎晩2人で電話をするくらい。

周りの人たちにはぽつぽつと報告したけど、私には実感がなかった。

付き合ったけど、私は彼の本当の名前を知らなかった。


「本名、何ていうの?」


私はある夜、電話で彼にそう聞いた。

彼のことを少しでも知りたかった。


「俺、本名嫌いなんだ。」


彼から返ってきた答えに私は強く言い返すことができなかった。

もし「何で教えてくれないの?私たち付き合ってるんでしょ?」と聞いたら、教えてくれていたのかもしれない。

だけど、私にはそれができなかった。

変わりに私は体の繋がりを求めた。

住んでいるところが全然違うから、本当に体を繋げることはできない。

だから変わりにテレフォンセックスをした。

彼も最初は戸惑っていたけど、拒絶はしなかった。


「すきだよ」


私は最中に何度もそう言っていた。

彼も1度、好きだと言ってくれた。

とても幸せだった。

だけど、ふと我に返ってみると隣には誰もいない。

寂しい部屋にいるのは私1人だけだった。

涙が出た。

私は何をやっているんだろう。

名前も知らない人と、会ったこともない人とどうして私はこんなことをしているんだろう。

胸が苦しかった。


初めてテレフォンセックスをした日から、気づけば毎晩私たちはお互いを求め合っていた。

彼の口から何度も「好き」という言葉が出て、私は本当に嬉しかった。


ある夜、何となく「今まで何人と付き合ったことがある?」という話になった。

すると彼はこんなことを言った。


「前の彼女もネットからだった。今みたいに遠距離で。」


私は初めてのネット恋愛で初めての遠距離恋愛で。

色んな事が初めてですごく戸惑っていた。

だけど彼は違ったんだ。


「前の彼女とは実際に会ったりしたよ。彼女が会いにきたから。」


その言葉に私はとても嫉妬した。

私も会いたいと思った。

それが叶うことはなかったけれど。

それからは彼とは少しずつではあるけれど、大勢の場だけではなく個人的に話をしたりするようになった。

当時はネット友達たちとスカイプというネット電話でよく喋ったりしていたから彼ともよくスカイプで電話をした。

スカイプは一気に5人とかで喋ったりできたから私たちはそれをよく使っていた。

リュウさんは彼女のケイさんとうまくいっているようでパソコンや電話だけではなく実際にリュウさんがケイさんの家に遊びに来たりもしていた。

そんな2人の様子を見ていると単純だけどネットから始まる恋愛っていうのもあるのかなぁ、なんて思ってしまう自分もいた。


「何でそんなに俺に気にかけてくれんの?」


ある時、私と彼とリカとで電話をしていた時だった。

私があまりにも彼のことを気にかけているのが気になったのか、彼は私にそう質問してきた。

今思うと知り合って数日の人にそんなことを言うのは本当に馬鹿げているけど、私は


「好きだからじゃない?」


と口走ってしまっていた。

2人で喋っているならまだしもリカもいるというのに。

彼は少し黙ったあと


「リカ、ちょっと2人で話させてくれない?」


とリカに告げた。

リカは間も開けずにわかった、と言い電話を切った。

2人になって、しばらく無言。

何か言いたいけど私にはできなかった。

自分でも彼に好きと伝えたことが信じられなかったからだ。


「あいのこと…多分好きだと思う。…でも」


返ってきた返事は意外な答えだった。

しかし彼は言葉を続けた。


「俺、多分あいが思ってるような男じゃないと思う。」


私には彼の言葉の意味がよく分からなかった。


「あいが思ってるより、ずっと駄目な男だよ。俺は今の俺を演じてるだけなんだよ。」


頭を強く殴られた気がした。

何が彼をそうさせているのだろう。

その時の彼の声がとても切なくて、私は泣いてしまった。


「私の前では、演じなくてもいいから。」


まだ付き合ってもいないのに、おかしな話だ。

泣きながら途切れ途切れに私は言葉を続けた。


「どんなあなたも受け止めるから、付き合ってください。」


ボロボロの告白に、彼はため息をひとつ吐いて。


「わかった。」


と優しい声で言った。

その時、やっぱり彼のことが好きだなと思った。


私たちはお互い、自分の気持ちがよく分からないまま付き合いだした。

出会ってわずか数日。

それまで経験したことのない恋愛に私は戸惑いながらも彼と幸せな日を送れることを望んでいた。




※関係者の名前を昨日まではイニシャルで書いていましたがあまりにもイニシャルが被ったりしてややこしくなってしまうので仮名にしておきました。

アナログだった我が家にもついにネットというものが開通して少し経った頃、私はあるチャットの存在を知った。

チャット自体はそれまでもよく使っていたけれど、そのチャットでは声を相手に届けることもできた。

まだまだ知らないことだらけの私にとってはそれはもう新鮮だった。

以前からチャットで仲良くなっていたネット友達のリカと一緒にボイスチャットに潜入したのが全ての始まりだった。

そのボイスチャットは更に普通のチャットとは違うことがあった、

それはそのチャットの場が声劇といういわゆる劇をする場だったのだ。

声劇は演じ手がネットで公開されている声劇用の台本を使い役を演じ掛け合いをする、というものだ。

そんなことも知らずに潜入した私とリカだったのだが、その時声劇の魅力にハマってしまった。

元々は声優が好きだった私とリカだったので、いつしか私たち自身も声劇の聞き手ではなく演じ手に回っていたのだった。


…ここまでの話についてこれたかな;


声劇に参加するようになって私はネットでの交友が一気に広がった。

それは声劇を聴きにくる人だったり、もちろん演じる人だったり。

あの人も、演じる人だった。


あの日は私にとって馴染みの人が一気に集まった日だった。

みんなが集まる事なんて滅多になかったから、私はいつにも増してハイテンションだった。

そんな時だった。


「今日は新しい子連れて来たよー!」


その中の1人のリュウさんが言い出した。

リュウさんは20代の男の人。

私も知っているケイさんとネット上ではあるけれど付き合っていた。

そんなリュウさんの紹介で入室してきたのは私より1つ年上の男の子。

それが彼との出会いだった。

馴染みのメンバーが集まった中に新しい顔がいきなり入ってきて、嫌だなと単純に思った。

それが第一印象。

だけどなぜか、パソコンのスピーカーから流れてくる彼の声やその明るい性格に惹かれてしまった。

今でも忘れない、あの時の感覚。


「あの人は、どこに住んでるんですか!?」


みんな解散してから、気がつけばリュウさんに彼のことを色々と聞いていた。

よく考えたら本人に聞けばいいのに。


「また、連れてきてくれますよね?」


顔を合わせない文字だけの世界だから1度会ってもう2度と会わないことだってある。

私はリュウさんにまた彼を連れてきてもらうことを望んだ。


「あいちゃんはあいつのこと好きみたいだねー。」


リュウさんにそう言われて、私はあり得ないですよと笑った。

リュウさんには悪いけど、顔も知らないのに恋愛なんて。

その時の私はまだそう思っていた。

これから書くことは私が以前経験したことをそのまま書いています。

色々と考えられないことも出てくるかもしれません。

実際に今の私では考えられないこともあります。

ですが暖かく見守っていただけると嬉しいです。

お見苦しい点などございましたらコメントでもメールでも受け付けます。

話は少しずつ書いていきます。