旅立ちの日に、親子3人の時間 | 「前頭側頭葉変性症の夫と私」ひまわり日記

「前頭側頭葉変性症の夫と私」ひまわり日記

野球大好き。MLB、欧州サッカーをはじめ、スポーツ全部好きです!夫の難病(前頭側頭葉変性症)に悩み苦しみつつ、息子の心配事にヤキモキしつつも、明るく楽しく暮らしていきたいと思っています。

夫は、この夜を越えて朝を迎えることができました。目をぱっちりと大きく開けて驚いたような表情をしていました。暖房が止まってしまったせいもあり、体が冷えていました。看護師さんが、電気毛布を持ってきて、体を温めてくれました。体温を測ろうとしても、体温計をうまく挟めるところがなく苦労されていました。

 

看護師長さんが来て、あいさつしてくれました。

「よく眠れましたか?何か食べてくださいね。(簡易ベッドに)昼間でも疲れたら横になっていいんですよ」優しい言葉をかけてくれました。

 

当直の先生が来て、診てくれました。「時々こんなふうに、半目になって眠ってしまうことがあるのですが、大丈夫ですか?」と私が聞くと、「ちょっとこちらへ」と言われて廊下に出て話をしました。

 

先生「本人の前では話しにくいので。ときどき呼吸が止まっています。呼吸が弱く、とても危ない状態です。もしかしたら今日深く眠ってしまい、そのままということもあるかもしれません。これを乗り越える可能性はゼロではありませんが、今の状態はよくないです」

 

息子にラインでなるべく早く来るように伝え、10時ごろには病室に来てくれました。

 

主治医の先生が診に来てくれました。

「顔色がいいですね。明日いろいろ検査をしようと思います」

さっきの先生の感じと違うなぁと思いながらも、明日もあるのかなと希望を持っていました。

 

息子は疲れたのか、時々簡易ベッドに横になったりしてましたが、私とかわるがわる夫の寝ているベッドの横で話しかけたり、様子を見たりしていました。

 

午後1時過ぎのことです。私が少し席をはずして戻ってくると、息子が心配そうに夫を覗き込んでいました。心電図のモニターの波形が弱くなっていました。

 

「寝ちゃダメだよ!目を開けて!息吸って!がんばって!」

髪やおでこ、手をさすりながら、息子と一緒に励まし続けました。

 

ナースコールを押すと、先生や看護師さんが来てくれましたが、

「モニターを見ています。ご家族で言葉をかけてあげて見守ってあげてください」と部屋から退出され、親子3人だけにしてくれました。

 

「今まで本当にありがとう。幸せだったよ。楽しかったよ。愛しているよ。大好きだよ」

「結婚してすぐ、スイスで暮らしたね。ストイブリーさんや猫のベンツェル懐かしいね。色々旅行したね」

「息子も生まれて幸せだった。家族でもたくさん旅行したね」

「病気してても、私達は何の不自由なく暮らせたよ。その準備をちゃんとしてくれていたね。ありがとう。とてもすごい人だね」

「がんばったね。頑張りすぎたね」

たくさん語りかけました。

 

普段あまり父と話さない息子も

「いままで本当にありがとうございました」

涙をこらえながら大きな声をかけていました。

 

夫は時々薄目を開けながら聴いてくれているようでした。

 

徐々にモニターの数字も低くなって、ついにゼロになってしまいました。

 

「寝ちゃだめだよ!まだがんばれるよ!起きて!」

私は夫のおでことほおにキスをしました。

「愛しているよ。大好きだよ」

「がんばったね」

 

私達の叫びを聞きながら、夫は静かに眠るように息を引き取りました。

 

その後、私の母と兄も到着して、声をかけてくれました。

 

先生が来て、瞳孔の拡大、呼吸の停止、脈拍の停止を確認し、死亡と判定されました。

 

午後2時55分でした。