09
「じゅ・・・まんえん 僕のじゅうまんえん。」
登校中にずっと10万円のことを考えていた。
そりゃ、考えるさ。 当たり前だ。 でもその
当たり前を通りすぎるくらい という 通りすぎるなんて
甘い言葉っていうくらいのレベルくらいに
僕は10万円のことを考えていた。 影を失って手に入れた10万円。
影を失って登校するのは嫌なのに。 だけどそれを踏まえた上での
10万円なのに・・・・。 あーもう。 いいやー。 って正直逸らそうと
馬鹿みたいな笑いをしようとしたけど、無理だった。
10万円程度でこうなるか?と疑問に持つ人もいるかもしれないけど。
影を失っての10万円失ってのは絶対に同情できるレベルじゃないよ。
影って案外大きい存在ってのが・・・ 分かった・・・。
よくあるセリフ、失ってから気づくものってのが良く分かった気がする。
誰よりもそれが理解できた気がします。
ゆっくりと、登校した。 少し遅れた。
もうみんなの声は届かなかった。
授業中の先生の声。 楽しくおしゃべりするみんなの声。
そして、僕に話しかける友達達。
これは謝らなくちゃいけないのに。 謝れないというより
なんでこんなことに謝らなくちゃいけないのとっ
怒ってもいいくらい僕にはダメージが大きすぎた。
ゲームで言えば、ダメージ99999かな?
「ははは・・・。」
そしてまた最悪の事件が起きた。
それが起きたのは中休みのことだった。
中休み。
「ねぇねぇ、今日何して遊ぶ?」
中休み、今日遊ぶの、何にするか考えている会話。
「ドッジボールしないか?」
「えー、鬼ごっこがいい!」
「鬼ごっこはできるが、ドッジボールはなぜかサッカーで使ってるらしい」
「えー?なんで?」
「知らん。」
当然だが、この会話も僕の耳には入っちゃいない。
「ねぇ、暑いから影踏みしない?」
「あー、それいいね!」
「僕も賛成!」
「えーボール的なのかがいいー。」
「文句言うなら遊ばない!」
「はい!すみません!」
「はいはい(笑)。」
「影踏みに反対の人ー、はいいなーい。」
「ねぇねぇ、芹沢くんもやらない?」
なんて言ってるのか分からなかった。
僕に話しかけてるのかな?と思った。
適当に僕は
「うん」
と返事を返した。
「やらないの?」
また何か言っている。
うるさいな・・・と正直思った。
うん。と言っておこう
そう思い、うんと返した。
「じゃあ来てよ!」
「うん」
「早く!」
「うん」
「行くよー」
「うん」
どんな事にもうんと返した。
僕はなぜか走っていた。
そして僕は校庭に来た。わけはわからんが。
ようやくみんなの声がちゃんと聞こえるようになった。
鬼ごっこでもしているのだろうか。
あー、隠れんぼ鬼ごっこか。
僕は影踏みとは知らず、鬼ごっこと思っていた。
「よーいスタート!」
10
鬼ごっこが始まった。
僕は体育倉庫の裏に隠れている。
少し見張っていた。
影のことなんて忘れて、楽しく遊ぼうと頑張った。
僕は、体育倉庫の裏が出ると
鬼がいた。
「やば・・・。」
僕に気づかれたようだ。
なぜか鬼は叫んだ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ、芹沢君・・・影がない。」
「え・・・?」
一体全体どうなっているのだろう。
「どうしたの?」
「どうったの?」
「え・・・?」
みんなが口を揃えて言っていた。
「えっと・・・これは・・・」
「化物よ!化物よおおおおお!」
なんで・・・・なんで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
頭が真っ黒だった。真っ白だった。
もう全身最悪の一色で塗れていた。
「もう・・・嫌だよ・・・人生めちゃくちゃだよ・・・。」
この数日を僕は人生と言ってしまうくらい大きな事だった。
「あーもう!」
大声で叫び、走った。
他の学年の子も、見ていた。
先生も・・・・。
「もう嫌だ。」
頑張って涙を堪えてもう、今までに経験したことのないような
苦しみ、屈辱・・・ 涙が止まらない。 めちゃくちゃにしか説明ができないような
クッションカバーを捌いてやりたくなるくらいな気分になっていた。
僕は目をつむって走った。 そしてずっと走っていた
約1時間程 1時間程適当に走っていると 全然知らない景色があった。
でも、情景がものすごく現実に出ていた。
「こんなによく走れたな。」
本当だ。本当によく走っていた。
僕は、おばあさんを恨んだけど・・・
おばあさんを恨んでも意味はない。 おばあさんは
ただのきっかけにしか過ぎないことだ・・・。
悪いのは全部僕だ。 僕があんなことを言ったから・・・
やり直したい。 でもやり直せない。
「化物か・・・」
化物扱いされちゃったよ。
これからもう学校行けないね。
「もう嫌だよ・・・」
大好きな友達にも大好きな先生にも会えない・・・
それに・・・お母さんにも顔を合わせられない。
それが一番嫌だった・・・最悪だった。
そしてふと思ったんだ。
影で取り戻せるかなって?
もし、影を取り戻せたら、友達にも先生にもお母さんにも
ちゃんとやっていけるのだろうか・・・
もしその希望が1%でもあるのなら・・・。
僕は影を取り戻す。
影を売った。あのおばあさん。
あのトラックの運転手を・・・。
「取り戻してやる・・・。」
そう決めたんだ。
みんなは影を売りますか?
何万円なら売りますか?
僕はもう売りません。 絶対に・・・。
