雨降りの肌寒い日
ケイくんと再会した
駅まで迎えに来てくれた
ケイくんの車に乗り込み
「ひさしぶりだね」と
ありきたりな挨拶をした
2人とも少し緊張している
少しバツ悪そうなケイくん
9ヶ月前のあの日と
何も変わってないように見えた
ただ懐かしいという言葉だけでは
あらわせない複雑な空気
お互いの近況をポツリポツリ話しながら車を走らせ
2人で何度か行ったお店でランチをすることになった
一見 あの頃と何も変わってないようなシチュエーション
会話のテンポもあの頃のまま
ただ なにかが違う気がした
かすかな距離を感じていた
その距離の正体がなんなのか
その後すぐにわかった
ケイくんには彼女ができていて
一緒に住んでいると話してくれた
その事実を聞いた瞬間
胸の奥がチクリと刺された
そしてその痛みは瞬時に広がり
傷が深く深くなっていくのを
感じていた
昼間に会おうと言われた時に感じた
小さな違和感は
やはりそういうことだったんだ
ケイくんの気持ちが
再び自分に向かっているのではないかと
少し変な期待をしていた事が
恥ずかしくなった
復縁てことになったら
どうやって断ろうかなんて
考えてた自分はなんてバカだ
表面的には
全く動じていないフリをしていた
完璧なポーカーフェイスで
彼の話を聞いていたと思う
本当はとても動揺していたのに
ノーダメージを装う
彼女はケイくんより10歳も歳下だと教えてくれた
私より30歳も若い女の子
敗北感しかなかった
彼女との同棲生活のことを
平気なフリをして
あれこれ質問していた
なんて自虐的なんだろう私
食べていた料理が途中からすすまなくなり
少し残してしまった
ケイくんと元に戻りたいとは
思っていないのに
なんでこんなに心が痛むのか
自分でもわからなくて
ただただ平気なフリをすることだけに
集中していた
あの日 なぜ急に離れていったのか
聞く余裕なんか無かった
もはやただの愚問でしかなかった
可愛い彼女ができているなら
祝福してあげればいいのに
胸の奥の傷から
どんどん出血している気がした
もうケイくんとは終わっている
お互い恋愛感情も薄れている
ケイくんが前に進んでいても
なにも不思議じゃない
ケイくんは当たり前の選択をしただけ
これで良かったのだと
自分をたてなおすのに必死だった
だけど
ケイくんは
なんで私に会いに来たのだろう
若くて可愛い彼女と一緒に暮らし
幸せなはずでしょう
ケイくんが望んでいた夢が
叶っているじゃないの
表面的には幸せを手に入れたケイくん
でもなにかが足りないと感じているのも解った
生活習慣の違い
年齢ゆえの彼女の未熟さ
自分を心から理解してくれる相手としては
彼女は幼すぎるようだった
満たされないなにかがあったとして
私に何を求めているのだろう
話を聞いてほしかっただけなのか
懐かしく思い出して会いたくなったのか
ただ2人とも もとには戻れないと解っているのは
間違いなかった
そして ケイくんは
軽率な気持ちで会いに来たのではないことも
食事のあと
ケイくんの車に乗り込んだ
いつもこの助手席に
彼女が座っているのだと思うと
なんともいえない気持ち
「どうしようか?」とケイくん
「彼女が家で待ってるでしょ?」
「うん でもまだ帰らなくて平気だよ」
ケイくんはすぐ帰るつもりはなさそうだった
でも咄嗟に
「もう帰ろうか?」と口にしてしまった
ケイくんは少し戸惑っているように見えた
私がもう少し一緒にいたいと言うと予想していただろう
でもさすがにそれはできなかった
何も知らない彼女が家で待っている
のを知ってて
なにができるというのだろう
ケイくんを悪い男にしたくなかった
そして何より
自分のプライドを守りたかった
もうあの頃の2人じゃない
彼にすがりたくない
少し複雑なケイくんの表情
でもこうするしかなかった
駅までの道
ケイくんはいつもよりゆっくり走ってくれた
サヨナラが近づいてくる
不覚にも涙が溢れそうだったけど
泣かないと決めた
最後の強がりをみせる
思ったより早く駅に着いてしまった
2人とも言葉が出てこなかった
沈黙のあと私は言った
「今日は会えてよかったよ」
精一杯の作り笑いをしながら
「またいつかどこかで」と
ケイくん
(ああ きっと最後なんだね…)
「うん そうだね またどこかで」
「気を付けて帰ってね」
車を降りる時がきた
最後の瞬間になるかもしれない
なにか言わなきゃと思った
「お幸せにね」
またギリギリの作り笑顔で言った
彼のなんともいえず淋しそうな表情を
見逃さなかった
車から降りて
小さく手を振った
傘をさして振り返らずに
駅の階段を登った
こんな冷たい雨の日が
今まであっただろうか
駅のベンチで涙をこらえながら
しばらく座っていた
ケイくんには
帰る場所がある
彼女が待っている
私には待つ人はいない
自分にはなにもない気がした
「ケイくんはもう違う世界にいるんだ」
あの頃の2人はもういない
ひとり取り残された気がして
動けなくなってしまった
彼を失ったことへの未練ではなく
「かつて特別だった人が他の誰かに心を向けている」
という淋しさに押しつぶされていた
しばらくベンチから動けなかった
もうそんなに好きじゃないと思っていたけど
やっぱりこんなに胸が痛むのは
ケイくんを本気で思っていた証
あの時間は2人にとって
特別だったのは間違いない
ケイくんも私と同じ胸の痛みを感じていると思った
別れ際のケイくんの淋しそうな顔
忘れない
2人の想いは本物だった証
一緒に過ごした時間
刻まれた思い出
愛された記憶
この先離れても
カタチは変わってしまったとしても
永遠に消えることなく
2人を支え続けると思う
冷たい雨の午後のこと
ずっと忘れない
悲しかったのは
サヨナラが苦手なだけ
きっと大丈夫
いつかどこかで偶然会えた時は
「元気だった?」って
心から笑顔で言える私でいたい
゛出会えてよかったあなたに
また逢う日まで゛