競馬の師匠の巻外伝      

 

 

マスターの意地と大井の騎手

 

 

 

地方競馬は月曜から金曜まであるのを良い事に

 

琴富士は東京場所の時は足繁く競馬場に通っていた

 

それも某ステーキハウスのマスターと毎日のように

 

その帰りいつもマスターは「帰るの?うち寄ってステーキ食べて行きなよ、ごちそうするから」

 

琴富士は図々しいと思いながら誘われるまま店に寄った

 

サラダにステーキ ライスと豚汁

 

どれも絶品である

 

メインのステーキは勿論和牛で香りが違う

 

 

醤油ベースのステーキソースが他にはないシロモノ

 

 

サラダはマスター自慢のゴマサラダ

 

いくら食べても飽きないさっぱりとしたドレッシング

 

ライスはコシヒカリ、いくら時間がたっても冷めない豚汁

 

 

 

手前の上がり座敷で食事を済ますとふと、店内に飾られた写真に目が行く

 

芸能人やら何やらに交じり大井競馬のジョッキー達の写真があった

 

西川の栄ちゃん、堀千亜樹、朝倉に鈴木啓之、荒山の勝っちゃん、山田勝等

 

「マスター、大井の乗り役さんくるの?」と尋ねたら

 

「うん、たまに来るよ、どした?」

 

「納谷って騎手がいるんだけど呼べないかな?」

 

マスターが「わかった、西川の栄ちゃんに聞いてみる」

 

琴富士は大井競馬に行った際たまたま納谷騎乗の馬から買って馬券を取った

 

だからという訳ではないがその時の勝ちっぷりが良かった

 

1ファンとして応援したかった

 

暫くして競馬場でマスターから「富士関、栄ちゃんから連絡あったよ」

 

「来週大井が終わったら本人が行くって」

 

「まだ、*あんちゃんこだよって」             *まだ子供の意

 

「マスター有り難う、マスターの店で良いね」

 

そんなこんなでファーストコンタクトは終わるが

 

まだ若いのに一人ではかわいそうと思い

 

「納谷ちゃん、今度は友達連れておいで」と誘った

 

納谷は「はいありがとうございます」と若者らしくきびきびと挨拶した

 

それから又月日は経ち大井開催終了の翌日

 

ステーキハウスに集まる面々

 

納谷が「先輩の内田騎手です、同期の小畑です」

 

続けて「僕と小畑はまだまだですが先輩の内田さんは乗れます」と紹介した

 

琴富士は紹介を受けて何か妙だな?と思った

 

「あっ横綱大関の苗字だ」と気づいた

 

納谷は大鵬親方、内田は時津風親方、小畑は北の湖親方

 

 

 

琴富士は恐れ多いと首をすくめて3人に競馬界の横綱目指して頑張ってと激励した

 

其ののち、小畑君は残念ながらやめてしまったが、納谷は現在大井競馬の調教師になっている

 

もう一人内田君は大井で何回もリーディングを取り中央へ移籍、瞬く間に全国区へと羽ばたいた

 

未だ現役を続けている 凄い限りである

 

食事が終わりマスターと3人を連れて錦糸町楽天地へ

 

マスターが3人に頑張れよと小遣いを渡した

 

随分と気前がいい親父である

 

内田君とも納谷ちゃんともそれ以来親しくさせて頂いたが

 

競馬の情報的な話は一切しなかった

 

納谷ちゃんについて競馬で分かった情報はインコースが好きで馬は逃げ馬が好き

 

本人は非常に目が悪いので馬ではなく本人がラチを頼る

 

内田君は真面目そのもので競馬の事を常に真剣に考えているタイプであった

 

琴富士が「的場さんはどうなの?」という問いに内田君は

 

「的場さんは馬のガソリンを全て使い切るのが上手いんです」と答えた

 

 

 

琴富士は違う意味で的場さんは?と聞いたつもりだったのだが

 

真面目さ故にこの答えであった

 

そんなある日大井競馬トゥインクルレース2日目

 

今日は火曜日なのでステーキハウスは休みでマスターが参戦

 

パドックで真剣に見るマスター

 

ピンクのお面のパチンコだとか蔵の色がどうとか騎手の装鞍の座る位置がどうとか

 

鞭を蔵差ししたとか右とか左とか忙しい

 

何時もの事ながら大変だなと思いつつマスターと馬を見る

 

「富士関、これは凄い穴になるからね」と意気込む

 

返し馬を見に本馬場へ

 

1頭の芦毛の馬を指さしマスターは「富士関、あれだよ」

 

琴富士は聞きなおす「マスター、どれです?」

 

「朝倉のキングデネポラだよ」

 

琴富士は「マスター脚質が後ろからだからきついんじゃないですか?」

 

と言うがマスターは「今日は逃げる!」という根拠のない事を言い出す

 

そしてレース

 

差し追い込みの馬がそんなに簡単に脚質転換できるはずもなく

 

キングデネポラはやっぱり中団やや後ろ、直線鋭く追い込むが着差がある4着

 

かなり勝負していたマスターの落胆の表情

 

それはそうであろう1着、2着、3着の馬も、持っていないので

 

キングデネポラが来ても当たりようがないのだ

 

最終のパドックへ行く

 

心なしか琴富士も塞ぎ気味である

 

大井競馬最終1700mゴール板前のスタンドでマスターが何か吹っ切れたように

 

「桑島さんだ!これは桑島さんだ」と喚く

 

 

 

「マスター、いくらインコース有利でも少し無理筋じゃないですか?」

 

マスターが譲らない「これは1枠引いた桑島さんだ!絶対桑島さんだ」

 

馬券を買うのは本人の責任なので異論はない

 

琴富士はマスターにわからないように、こっそり人気の馬から買う

 

レースが終わり琴富士はぶっ飛んだ!

 

1枠桑島さんが一番人気の馬に競り勝ったのであった

 

「どうだっ!」と大声を出すマスター

 

桑島さんが余りにも人気がなかったので一番人気との組み合わせでも

 

かなり配当がついた、恐るべしマスターの意地

 

帰りは行徳で朝まではしご酒であった

 

 

 

次回に続く

                           頑張れ!琴富士