今まで普通に吹いていた風が ピタリと止む。
それは まるで これから起きる事に 自然界までもが 固唾を飲んで見守っているかのようだ。

石竜子を伴い 鳥居の前まで来ると、我聞は

「天に まします神々よ、照覧あれ。これに居る 俗名 石竜子を 我が背とし、月輪山へ 迎え入れる事 承認されたい!」

我聞の叫びに 呼応するが如く 二人の頭上の雲が にわかに渦巻き始めた。
意を決し 石竜子を引き寄せる。

「少しばかり 苦しいかもしれねぇが、我慢してくれよ」

「何を言う……。白と共に生きてゆけるならば どんな苦しみも 厭わぬ」

「上等だ いくぜ……」


我が問いに答えろ 応答丸。石竜子の心の臓を貫け!

思い切り抱き締めると同時に 応答丸が 彼の身体を刺し貫いた。

「竜兄ぃっ!」

「石さん!?」

刃の切っ先が 彼の背から 突出し 思わず声を上げる レンと鴫原。

「器を大地へ返し、その御霊を天へ招き入れる!」

二、三度 痙攣をしたのち 我聞に ぐったり もたれかかる石竜子。

「先に 行っててくれ。じきに追い掛ける」

「ああ………待っている…白」

暫くして 目映い光が 石竜子の身体を包み込み やがて それは一条の光となって 頂きに飛び去って行った。

訪れる静寂を破り レンが我聞に 問い質す。

「兄貴っ、なぁ 竜兄ぃは?いったい どうなっちまったんだよ!」

「魂魄(こんぱく)を 神殿に飛ばした。大丈夫だ あらかじめ 用意した形代(かたしろ)に 乗り移れば じきに人形(じんけい)に戻る」

「………ご苦労様でした 白毫子(びゃくごうし)。私は 一足先に神殿へ戻り 無事 形代に融合出来るよう 手助けをして参りましょう」

シマエナガに姿を変え 桜姫は頂きに向かって 飛んでゆく。


「白様………終わりましたね」

雪之丞の言葉に 大仕事を成した我聞は、その場に へたり込み 大きく息を吐いた。

「もっと 簡単な方法は無かったのかよ、雪。魂魄を取り出すのも 骨が折れるんだぜ?」

「ですが、応答丸を御せるのは 白様しか おられぬではありませんか」

「ったく…人の身体を何だと思ってやがる」

一通り 愚痴ると、再び レンを手招きする我聞。
だが、当の本人は いぶかしげに睨み付け その場から動こうとしない。

「もう 殴ったりしねぇって。ホラ 痩せ我慢しねぇで 泣きたいだけ 泣けよ」

両手を広げる我聞の胸に 飛び込むなり 堰を切って 泣きじゃくるレン。

「あ……兄貴ぃ、会いたかった。俺、すっげぇ 寂しかったんだよう!」

「すまねぇな レン」

彼の着流しに 目を細め 我聞は応答丸を差し出す。

「これは お前が持っていろ」

「えっ!?」

「大丈夫だ。少々 じゃじゃ馬だが きっとお前を護ってくれる。手を出せ レン」

言われるがままに レンが右手を出すと、その指の腹を 応答丸の切っ先で 傷を付ける。

「いってぇ!」

「コイツを手なずける為だ。我慢しろ」

レンの血を 刃に吸わせると……

「これから 俺の言う言葉を 詠唱(えいしょう)しろ」

「えいしょう……って?」

「同じ言葉を 繰り返すって意味だよ」

鴫原が答えた。

「なるほど。ようは 応答丸の襲名って訳か?」

「そう言うこった。いくぜ、レン」


血の盟約の元 我に従い 我にかしずけ。
我が名は レン。

ぶぅん……と 羽虫の様な音を立て 淡い 燐光を帯びてゆく応答丸。
それを 鞘に収めると レンの帯に 落とし差す。

が、まだ 背丈と釣り合いが取れない為 やや 不恰好な形になってしまい、つい 我聞は 吹き出してしまう。

「笑うなよ!もぉ~。今に 兄貴より デッカくなって 立派な剣豪になってやるんだからな!」

「ぬかしたな?よぅし、だったら やってみせろ。見事 いっぱしの剣士になった時は 見に来てやるぜ  その勇士をな」

「おう!約束だぜ 兄貴っ!」

指切りの代わりに 互いの拳を合わせる二人。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
所 変わって 夜業 寄宿舎内の施療室(せりょうしつ)。
執務中の 早川 伊織(いおり)の元を 寿光(じゅこう)が 訪ねて来た。

「どうしたのです 寿光。何処かケガでもしましたか?」

「ううん……。あの~、ちょっと 伊織先生に相談したい事があって…」

「相談ですか?」

神妙な面持ちで 寿光は ここ 数日 陸之進の様子がおかしいのだ。と 切り出した

そんな彼に椅子をすすめ 伊織は どの様な具合なのか 更に問う。

「……実は、ため息ばかり ついてて、何か 食欲も無いみたいなんです。後 ボーッと していたと思ったら 時々 泣いているみたい……」

「その症状は いつから?」

すると、寿光は 腕組みし うーん うーん と考え込む。

「あっ! 思い出した。確か 石さん達が ここを出て行ってからだ!」

しばし、黙考し 何やら得心を得た風に 伊織は ニヤリ……。

「………ひょっとしたら 陸之進は 不治の病に なりかけているのかもしれないですね」

しかも その病は 有名な湯治場でも、名医の薬でも 治すのが難しいと言われているのです。

「えっ!?そんなぁ……」

伊織の言葉に がく然とする寿光。

「大丈夫です。直接 その病で死ぬ事はありません。ただ、少々 胸が苦しくなるのはありますが……」

それにしても……随分 罪作りな子ですね レンは…。

「………伊織先生?」



「ぶぇーっくしょい!」

月輪山からの帰路の途中、盛大なレンのくしゃみに 驚いた馬が 耳を左右に ひくつかせる。

「風邪でも引いたか?レン」

「うーん。ちょっと変な寒気がしたんだよなぁ~」

鼻水をすすり上げ レンが ぶつくさ文句を垂れた。

「でも………、何だか 急に気が抜けちゃったね…」

しんみりと鴫原が呟くと 鷲尾も

「そうだな………」

と、力無く 同意する。

馬上から 振り返ると 月輪山の頂に うっすら 雲がかかり始めていた。

「石さん………、絶対に 幸せになってよ?約束だからね…」

そう言うと 鴫原は 目尻に にじむ雫を 指で拭い 手綱を握る手に 力を込めた。









遂に、石さんも神々の仲間入り。

("⌒∇⌒")

レン 寂しいけど 立派な剣士になるのも そう遠くはなかったりして♪

つか ( *´艸`)

イケさんのコメントをヒントに ちょっと思わせ振りな~。


もっさり 続きまふ
(* ̄∇ ̄*)