あの一番星

 あの夏の夜から一年がたちました。今年も

花火大会はもり上がり、病院の屋上から、み

んなで見ました。

 今、ボノとヌウは二人きりでベンチにすわ

り、あの一番星を見上げています。

「ボノ、もうおそいけど、へいきか?」

「うん、今日は特別。あとで、お父さんがむ

かえにくるから、だいじょうぶ」

「そっか、うん」

 ヌウがにこっとします。

「明日、退院だね。おめでとう」

 ボノが晴れやかな笑顔を見せます。

「うん……」

 ヌウの顔は、くもりました。

「うれしくないの?」

 ボノは心配そうに見ます。

「おれ、ずっと入院してただろ。すごく、ひ

さしぶりに学校へ行くのがこわいんだ」

「ヌウならへいきだよ」

「変なこと言って、仲間外れにされたらどう

しようって思って」

「心配しすぎだよ。キゾやリネとも仲よしに

なれたじゃない」

「でも、それはボノのおかげだ。学校にボノ

はいない。おれを助けてくれる奴がいない」

 ヌウは目をふせました。

「だいじょうぶだよ、ヌウはいい奴だよ」

 ボノは顔いっぱいの笑みをうかべます。

「おれなんかダメな奴だよ。ボノがいなきゃ

何もできない」

 ヌウは顔を上げません。

「そんなことないよ」

 ボノがヌウのかたを、ぽんっとたたきます。

 ヌウがゆっくりと、一番星を見上げます。

「きれいだなあ。ボノはあの一番星みたいな

奴だよ。おれはいつもボノにあこがれて、見

上げてた」

「な、何言ってんだよ」

 とつぜんのことで、ボノはあせります。

「おれって時々、めんどうくさかっただろ。

あの一番星みたいに、おれを見下ろしてたん

じゃないか?」

 夜空を見上げたまま、ヌウがつぶやきます。

「ないよ、そんなこと絶対ないよ!ぼくは

いつも、ヌウって面白いなって思ってたよ」

 怒ったボノは立ち上がります。

 ヌウはすわったままボノを見ます。

「おれはこうして、ボノを見上げてた」

「……」

 ボノは何て言っていいのか、分かりません。

 ヌウはベンチの上に立って、ジャンプし始

めました。何度も、何度もとびます。

「おれは、あの一番星みたいになりたい!」

 ヌウは星をつかもうとするように、手をの

ばしながら、ぴょんぴょん、とびはねます。

「ヌウ、あぶないよ!」

 ボノはベンチの前を右に左に動いて、止め

ようとします。しかし、ヌウはとぶことをや

めません。それどころか、せもたれに片足を

かけて、さらに高くとぼうとします。ベンチ

がぐらりとかたむきます。

「ヌウ!やめて!」

 ボノは急いでベンチの後ろに回って、せも

たれをおさえます。

 それでもヌウは星に向かって、ジャンプし

ようとします。その時です。

「あっ!」

 ボノがさけびました。

 ヌウの動きが止まります。

「何だよ」

「……」

 ボノは答えずに、ベンチの上のヌウを見上

げました。ヌウの後ろの夜空には、一番星が、

かがやいています。

「ねえ、ぼくは今、ヌウを一番星のように見

上げてるよ」

 ボノがにこっと笑います。

 ヌウは後ろをふり向いて、かがやく一番星

を見ました。

「ちがう。おれはただ、ベンチに立ってるだ

けだ。やっぱり一番星はボノだよ」

 ヌウがボノを見つめます。

「ねえ、ぼくらはあの一番星を見上げてるけ

ど、あの一番星もぼくらの星を見上げてるん

じゃないか?」

 ボノはヌウをじっと見ます。

「……」

 ヌウはだまったまま、動きません。

「ねっ、そうだろ?」

 笑ってから、ボノは夜空をながめます。

 ヌウも一番星に目を向けました。

「そうだな。おたがい、夜空の星を見上げて

るな」

 ヌウはボノを見て笑いました。

「ぼくとヌウも同じだよ。どっちも見上げて

るんだ」

 ボノは、こぼれるような笑顔です。

「うん」

 ヌウはにこっとして、ベンチから下ります。

 二人はならんで、いつまでも、キラキラ光

る一番星を見上げていました。

                   完

 

☆ブログ童話”ボノとヌウ”はこれにて完結で

 す。アメーバブログに2023年2月20

 から2月26日まで書きました。

 未読の方は1から読んで下さい。面白かっ

 たら、大切な人におすすめ下さい。

 それでは、さよなら。お元気で。

    ほっこり小話・おいちゃん・廣瀬力