第一志望の高校に合格して、私は新しい人生を始めようと心を踊らせていた。
だけど、女子校に入ることで、男の子と関わることはないかもしれないと思った。

実際はその正反対で、毎日のように合コンに誘われる日々。
あの頃、学校と女友達以上に大切なものはなかったから、10回に1度くらいは合コンに参加していたのも、そうすることが友達との関係をよくできると思ったから。

女子校ほど男の子と知り合う機会が多い場所はないように思う。
だけど、「出逢い」を求めて会う男の子たちと、「友達」になるのは難しかった。
仲良くなるのはどちらかが恋愛感情を持つから。
恋愛感情が生まれなければ、普通の友達になることはまずない。

性別を越えた友達には、到底なれなかった。

高校3年生になる頃には、携帯のメモリが400人を超えて、誰かを登録するために誰かを消去しなければいけないようになっていた。

アドレス帳の半分は男の子だったけど、
「女と男の友情を信じる?」という質問に、迷わず「信じない」と答えていたのは、その中の誰にも心を開いていなかったからだと思う。

大学生。3年ぶりの共学。

あなたに出逢い、初めて男の子の親友ができました。

毎朝待ち合わせて登校し、同じ授業を取り、休み時間もご飯も一緒。
帰り道カラオケやファミレスに寄り、一緒に帰る。

公園でよなかまで話し込んだり、非常階段で授業をさぼったり、一緒に課題をやりながら教室で寝泊まりしたり、あなたがいるだけでなんだって楽しかった。きっとあなたもそう感じてくれていたんだよね。体育会のラグビー部で長い合宿に行ったときも、残りの貴重な休みを私と過ごしてくれた。

夏は、お祭りに花火に海。
楽しそうなことを見つけては一緒にしたよね。

あなたと過ごした日々は奇跡のように、濃くて儚いものでした。

幸せだったはずなのに、どうしてもっと強くいられなかったのか、あの頃の自分に聞いてみたい。

確かに、私は崩壊した家族と過去の傷でボロボロだった。
そんな心を、あなたに知らせてしまった。

何もかも隠して笑ってこれたのに。
自分の気持ちなんて無視して、みんなに見えるものだけを見て、それを幸せと思うことができていたのに。

あのとき、心を押し殺すことができていればあなたを守れたのかもしれない。
それなのに、私は閉ざしてた口を割って、あなたに心をさらけだし、涙を見せた。

あなたならきっと分かってくれるだろうって。

そんな私といるのが、辛くなっちゃったんだね。
全身で寄りかかられて、重すぎたよね。

あなたは私から離れていきました。

もっとうまく嘘をつけていられれば。
隠し通すことができていれば。

あのときほど自分の行動を悔やんだことはありません。

「本当の自分を見せて離れていく人なんて友達じゃないよ」と励ましてくれる人々は、私の本当の姿を知らない。だから、そう言ったはずの人たちが私から去っていったとき、よけいに傷ついた。

あれから、私はたくさんの友達を失いました。
誰もいなくなるまで、失い続けました。

素直になれることが幸せじゃない。
無理してでも笑って、笑える私を好きでいてくれる人々を何より大切にしていたの。
分かってくれなくたっていい。
助けてくれなくたっていい。
みんな違う悩みを抱えて生きる中、うまくごまかしながら、「普通」を演じているはず。

私だけじゃない。

分かっていたはずのに。

私はあなたに弱くて格好悪い姿を散々見せて、疲れさせてしまった。

私が大学を辞めて消えたのには、いくつもの理由がある。
でも、楽しかった学校が寂しい場所になったのは、あなたを遠くから見るのが辛かったから。
隣にいたはずのあなたが、どんどん見えなくなっていくのが寂しすぎたから。

たった半年間の友情。
いつ思い出しても、幸せな時間でした。

「絶対」のないこの世で、「何があっても」離れていかない誰かに出逢える日はくるのだろうか。

そのために、私はどうやってうまく嘘をついていけばいいのかな。

もし、もう一度あなたに出逢い直せるのなら、
私は、何があってもあなたを守ることを誓います。



「あなたにとって人生とは何?」と聞かれた。
5年前に同じ質問をされたときのことを思い出した。

あのとき私は「心臓が動いてること。」と答えた。

小さい頃、私は存在するべきじゃない人間だと思ってた。
「あんたのせいで」という母の言葉は幼い私の心には重すぎて、いるだけで迷惑な自分が悲しかった。

「あたしの人生を返せ」と言われて、心から返してあげたいと思った。
私さえいなければ、お母さんは幸せになれたんだ。

今私が消えれば、お母さんは幸せになれますか?
もう遅いのですか?

産まれてしまった私は、どうしたらいいのと、一人で泣いていた。

そんな子供だったことを覚えてる。

まわりと自分を比べられる歳になると、私の人生は悪魔に取り憑かれてるんだと思うようになって、この世を憎んだ。ノストラダムスの大予言を私ほど心待ちにしていた子供はいるだろうか。地球ごとなくなればこんなに苦しまなくてすむのにと。

だけど、その後も不幸が続き、またしても気付いた。

可哀想なのは私じゃない。

悪魔が取り付いてるんじゃなくて、悪魔は私自身だ。

私がいるから周りに不幸が広がって、その中で勝手に苦しんでるんだ。

子供の自分を悪魔と思い続けて生きるのは、世界で独ぼっちで生きるようなものだった。
全てに怯えて、全てを疑っていたから。

変わりたかった。
与えられた命に感謝できない自分が最低だと分かっていたから。


「生きたい」と思って生きてみたかった。


だけど、他人のせいにして自分をなだめてみても、ちっとも楽になんてならなくて、何度も後戻りを繰り返した。

人を嫌うなら、自分を嫌うほうがよっぽどいい。
環境を責めるなら、自分を責めるほうがよっぽどいい。

私が不幸にしてしまった人がいるなら、私はその人たちのために生きるんだ。
救えないまま失ってしまった人の数だけ、あたしは幸せを生み出さなければいけない。
私が産まれたことに理由があるのなら、それは、生きて一人でも多くの人を幸せにすることしかない。

心臓が動いているだけの人生は、生きているとはいえない。
存在しているだけの私では、自分を好きになれないまま、何度も同じ答えに行き着いてしまう。
変わらなくちゃ。もう悪魔ではいられない。

私の目標は「生きること」。
そして最大の夢はその想いが「生きたい」に変わること。

「あなたにとって人生とは何?」

「一つでも多くの笑顔を見ること。」

大切な誰かを幸せにしたいという気持ちが大きな強さに変わるまで、私はどんなことがあっても生き続ける。

だから、こんな弱い私をどうか許してください。




私は、今も昔も自分を責めるのが大得意で、
大学に入る頃まで、親を憎んだことも与えられた環境を恨んだこともなかった。

あなたは、私が初めて家族を責めて、家に帰れなくなった頃、いきなり目の前に現れ、私を闇に連れ込んだ人でした。法を犯していることを知っていた。善悪を見失っていることに気付いていた。

だけど、自分を責めるのをやめてしまった私には、守るものがなかったのだと思います。

「何もかもどうでもいい」が、あの日の私にぴったりの言葉でした。

あのときの私でなければ、あなたとは話すこともなかったと思う。

毎日学校では強がって笑い、帰りに新宿駅を彷徨った。終電まで人混みに紛れてふらふらして。
そしてとうとう家出を試みた。

駅の隅っこで泣き続ける毎日。
笑えない私には電話する相手もいない。
助けてくれる人はどこにもいない。

ホームレスのおじちゃんに「これ敷きな」って新聞紙をもらって感動していたら、

「嬢ちゃん、一人でどうした。」
とあなたが現れた。

「行く場所がないだけ。」と私。

「そうか。俺にもここ以外行く場所はねーな。」とあなたは遠くを見つめた。

「仕事してないの?」と聞くと、

「何してるように見えるよ?」って。

「職人さんじゃないかい?」とホームレスのおじいちゃん。

すると、「じいちゃん、この手で職人は無理だろう」
と、あなたは無表情で両手を見せた。両方とも子指がなかった。

「ヤクザさんか。」と、つるつるの小指の部分を見ながら言った。
あなたは私の感情のない言葉にしばらく笑っていたね。

駅構内のさびれたカフェでコーヒーを買ってくれて、名前も知らないあなたに、私は泣きしながら弱音を吐いたよね。

そして、学校帰り、あなたに会いにいくのを心の支えにするようになりました。

指を詰められるくらいだから、たいして偉い人ではなかっただろう。
でも当時、夜の新宿駅を仕切っていたあなたと歩くのは面白かった。

いつも偉そうなキャッチがみんなして頭を下げる。
「オレの女かわいいだろう」とあなたが言うと、みんな揃って「はい!かわいいっす!」って。
面白い。どこを歩いても目の前がザザっと散る。お姫様みたい。

でも笑わない私。

あなたは、私の前ではいつも寂しそうな目をしている人でした。
あなたの前で、無理に笑わないでいられたのは、あなたが笑っていなかったからなのかもしれません。

ある日、いつもの場所で待っていたあなたはスーツ姿だった。

「プリクラ撮りにいくぞ。」
拍子抜けの言葉に、引っ張られるがままになってゲーセンに入ったよね。

「今日は初めて俺の話をするからな。記念にプリクラだ。俺はプリクラなんて触ったこともねーから教えてくれ。」

あの日のプリクラ、あれから何度も引っ越したけど、ちゃんとしまってあるよ。
あなたが残した、たった一つの宝物です。

その日、あなたは生まれつき左耳が聞こえないと話してくれた。
左だけでなく、右も聴力を失い始めてると。

「もうすぐ何も聞こえなくなるんだ」って補聴器をポケットから出して見せた。
「この世界では弱みは見せらんねーからこんなもんはつけないけどな」って。

あなたは幼い頃に親に捨てられ、施設で育った。補聴器をつけていることで学校でいじめられ、中学で道をはずしたという。施設から出て、悪いことを重ねた。路頭に迷っていたとき、道端で見つけて、お屋敷で大事に育ててくれたのが組の人だったのだと言った。

「俺はその人のためならどんな罪だって犯す。だけどあそこは俺の居場所じゃない」と話すあなたの心は、どれだけ傷だらけだっただろう。

あなたの寂しそうな目の奥には、いつも優しさがありました。
どんなに法を犯しても、あなたは人を傷つけるような人じゃない。
私は一瞬だって、恐怖を感じたことはなかったよ。

私たちは、孤独を分け合いました。
体を重ねるわけでも、話を合わせるわけでもなく、心で繋がっていた。

あなたは危ない道を歩んでいたから、そんな世界から私を守るために専用の携帯電話も買ってくれた。いつでも会いに来れるようにって。

誰もが怯える強いあなたが、私には涙さえ見せたよね。

だけど、出逢って数ヶ月後の学校帰り、いつもの場所からあなたがいなくなって、電話が繋がらなくなった。呆然としながらも、いつかそんな日が来ることを知っていた気がした。

聴力を完全になくしたら、プライドの高いあなたは私には会いたくないだろう。
あなたは誰かに寄っかかって生きるような人じゃない。
私じゃあなたの支えにはなれない。

あなたは二度と私の前に現れませんでした。

その後新宿で面倒くさい目に合って、親も巻き込んで、散々けなされたけど、あなたは何も悪くない。

世界で独りぼっちだったあの頃の私を見つけてくれたのはあなただから。
「笑えなくたっていーんだよ」って言ってくれたのはあなただけだったから。

だけどね、後悔してる。
「何も聞こえなくたっていいんだよ」って
「強くなくたってあなたが生きてることが嬉しいよ」って
そう言えてたらって思う。

何度もこうして思い出して、感謝するのが私の最後の償いです。

あの日、私を見つけてくれて本当にありがとう。

あなたのこと、いつまでも忘れません。