Dear K.N.
2003年、夏。
あなたと出逢った頃、私は解離症状が悪化していて、自傷行為を繰り返していた。
私の知らない私が、自分を殺そうとしていた。
それを心から恥じて、自分の心の小ささに気付かせてくれたのがあなたでした。
バイト先であなたに出逢えたことは奇跡だった。
私は一人暮らしをしていて、ストーカーに合ってた。
バイト帰り、毎日家まで送ってくれて、不安なときはドアの前で寝てまで守ってくれたね。
出逢ってまもなくあなたに告白されて断った私は、あなたに何もしてあげられない。
だけど、あなたはそれでいいと言った。
私を守り続けると約束してくれた。
私の傷だらけの腕を初めて見た日、あなたは何も言わないで私の手を引いて歩き出した。
そして路地裏で、シャツを脱いで見せた。
息を呑んだ。言葉を失った。そして大粒の涙が溢れた。
あなたの上半身は、ナイフで斬りつけられた傷跡でいっぱいだった。
縫って手術したもの、放置して閉じたもの、100本はあった気がした。
傷のない部分がもう残っていないくらい、皮膚が真っ赤に腫れていた。
「自分でやった。見せたのは君が初めてだ」と言った。
「オレには親がいない。親戚も友達もいない。一カ所にとどまって生きたこともがないから、住所も帰る場所もないんだ。だけど君には愛してくれる人がいるんだから、キレイな体を傷つけるようなことしないで。君はやっちゃだめだ。」
当時27歳だったあなたは、私から見ればとっくに独立した大人の男性。そんな人が、そんな孤独の中で生きていることが理解できなかった。
仕事仲間は?昔の恋人は?本当に独りなの?
でもその答えは聞かなくてもすぐに分かった。
誰も信用せず、誰にも心を開かず、守るものもない。
あなたは本当に独りぼっちで生きてたんだね。
最後の恋人を目の前で亡くして、それ以来恋もしていないと言った。
私の「独りぼっち」なんてくずのように思えた。私には両親がいる。家もある。一緒に笑ってくれるだけの友達もいる。
私の孤独なんて比べものにもならないと知った。
「人間、なかなか死ねないもんなんだよ。こんな体になっても、どこかで死を恐れてるから、今もオレは生きてる。それが人間だ。でも君に出逢えて、オレは心を取り戻した気がする。」
今にも消えてしまいそうなあなたは、私を守り続けてくれた。
「誰かをまた好きになれて幸せだ」と言ってくれた。
でも私は、その頃人間を憎んでいた。だからどんなに感謝をしても、付き合うことはできなかった。
それなのに・・・見捨てないでくれたんだよね。何の見返りもなく優しさを与えてくれる男性なんて、どこにもいないと思ってたのに。
あなたは傷だらけの天使でした。
自傷は減ったものの、ほかの症状がひどくなって、2004年の春、私は病院に閉じ込められた。
ベッドに隠し持っていた携帯にあなたからの電話。声が震えていた。
「ごめんな。約束が守れなかったことだけ謝りたかった。」
とだけ言って、電話は切れた。
その夜、あなたは死んでしまった。
何度かけ直しても圏外だったことが気になって、数日後前のバイト先に電話をしたら、あなたはクビになっていて、そこで死を知らされた。
「あいつは親戚もいないから葬式もないんだよ。形だけの葬儀を、国がやったらしい」と店長が冷たく言い放った。
頭が真っ白になった。
意識が遠のいて、そこから3日間はベッドから出られなかった。
最後の最後まで、私のことを想ってくれてたんだね。
独りで生きていくのはそれほど辛かったんだね。
私が隣にいてあげられたら、何か変わっていたんだろうか。
あなたの優しい笑顔が忘れられません。
人間は脆いもの。
だけど、私はあなたから生きる強さを学びました。
あなたは私に生きる使命を託した。
だから私は、生きていきます。
あなたを忘れないように。
その死を無駄にしないように。
また会ったら、頑張ったねって言ってください。