長年運用されてきたレガシーシステムでは、「設計書が残っていない」「ソースコードの処理内容を理解できる担当者が少ない」「システム間の依存関係が分からない」といった問題が少なくありません。
このような状態でシステム移行を進めると、重要な業務機能の見落としや、想定外の追加改修につながる可能性があります。
そこで注目されているのが、生成AIを活用したリバースエンジニアリング(AI-assisted Reverse Engineering)です。
AIは、既存コードの解析、処理内容の整理、依存関係の調査、仕様書の作成などを支援できます。
しかし、AIが生成した説明が必ずしも正しいとは限りません。特に、複雑な業務ロジックや例外処理については、ソースコード以外の情報と照合する必要があります。
AIリバースエンジニアリングの目的は、解析をすべてAIに任せることではなく、AIとエンジニアの専門性を組み合わせ、現行システムを正しく理解して移行判断につなげることです。
本記事では、AIリバースエンジニアリングの基本的な考え方、実務での進め方、判断基準、具体例を解説します。


1. AI リバースエンジニアリングとは?基本的な仕組みと活用範囲

1.1. AI-assisted Reverse Engineeringの定義

AIリバースエンジニアリングとは、生成AIなどを活用し、既存システムのソースコードや関連情報から、システム構造、処理内容、業務ロジック、依存関係などを明らかにする取り組みです。
従来のリバースエンジニアリングでは、エンジニアがソースコードや設計資料を読み解きながら、現在の仕様を整理していました。
AIを活用することで、コードの概要説明、関数の分類、ドキュメント作成などを支援できます。
ただし、AIによる解析はあくまで技術者の作業を補助するものです。
業務上の意味や仕様の妥当性については、人による確認が必要です。

1.2. AIが支援できる主な作業

重要なのは、生成された資料をそのまま確定仕様としないことです。
AIの説明とソースコード、実行結果、業務担当者の知識を照合する必要があります。


2. Legacy MigrationでAIリバースエンジニアリングが必要となる理由

2.1. 設計書と実装が一致していない

レガシーシステムでは、長期間の機能追加や修正によって、設計書と現在の実装が異なる場合があります。
AIはコードの構造や処理内容を整理する支援ができますが、設計書との差異を確定するには技術者による確認が必要です。
特に、業務上重要な機能は実行結果も含めて確認します。

2.2. 複雑な業務ロジックを理解する必要がある

例えば、販売管理システムには、顧客ごとの価格計算、割引条件、月末処理など、独自の業務ルールが存在する場合があります。
AIでコードを要約すれば処理の概要を把握しやすくなりますが、そのルールが現在も必要かどうかはコードだけでは判断できません。
開発担当者と業務担当者が協力し、「維持する機能」「変更する機能」「廃止する機能」を整理することが重要です。

2.3. システム間の依存関係が見えにくい

既存システムには、API、共有データベース、ファイル転送、バッチ処理などの依存関係が存在します。
AIでコード上の参照関係を分析しても、実行時だけ発生する連携をすべて把握できるとは限りません。
そのため、設定ファイル、ジョブ定義、実行ログなどを組み合わせて調査する必要があります。

基本的な分析方法については、リバースエンジニアリングとは?Migration前に必要な理由と判断基準も参考になります。


3. AI-assisted Reverse Engineeringの進め方:実務で使える5つのステップ

3.1. STEP 1:調査目的と対象範囲を定義する

最初に、何のためにリバースエンジニアリングを行うのかを明確にします。
例えば、移行費用の見積もり、仕様書の再作成、依存関係の調査、移行方式の選定などです。
目的によって必要な調査範囲は異なります。
システム全体を一度に解析するのではなく、重要な業務機能から対象を決めることが実務上有効です。

3.2. STEP 2:既存資料とコードを収集する

次に、ソースコード、設計書、データベース定義、設定ファイル、ジョブ定義、運用記録を整理します。
ここで重要なのは、AIへ投入する前に情報の機密性を確認することです。
コードに含まれる認証情報や顧客情報を保護し、利用するAI環境のデータ取扱条件を確認します。
すべてのコードを無条件に外部AIサービスへ入力するべきではありません。

3.3. STEP 3:AIでコードと構造を分析する

AIを利用して、プログラムの概要、主な処理、条件分岐、関数間の関係などを整理します。
ただし、AIが説明した内容には、対応するソースコードの位置や確認根拠を残すことが重要です。
例えば、売上計算処理をAIが説明した場合、実際の計算式と一致しているかを技術者が確認します。
分析結果を「確認済み」「要検証」「未確認」に分類すると、残っている不確実性を把握しやすくなります。

3.4. STEP 4:エンジニアと業務担当者が検証する

AIによる解析結果をもとに、技術者がコードの動作を確認します。
さらに、業務担当者が処理の必要性や例外条件を判断します。
特に、金額計算、在庫更新、承認処理などの重要機能では、実際の処理結果を利用して検証します。
AIの説明が自然であっても、業務上正しいとは限りません。

3.5. STEP 5:分析結果をMigration計画へ反映する

最後に、分析した情報を機能一覧、依存関係図、業務ロジック一覧、リスク一覧などに整理します。
そのうえで、移行方式、必要な改修、テスト範囲、移行順序を検討します。

AIを使ったコード変換については、AIによるコード変換とレガシーコードの解析・テストも参考になります。


4. AIリバースエンジニアリングの判断基準と具体例

4.1. AIを活用すべきか判断するポイント

AIを活用するかどうかは、コード量だけで判断するものではありません。
システムの重要度、設計資料の整備状況、コードの複雑性、機密性、検証に必要な工数を考慮します。

AIの活用を判断する際は、解析速度だけでなく、結果を検証できる体制があるかを確認することが重要です。

4.2. 具体例:仕様書が不足している販売管理システム

ここでは、説明用の仮想事例を紹介します。
ある企業が、長年運用してきた販売管理システムの刷新を計画しているとします。
設計書の一部が不足し、コードの処理内容を理解できる担当者も限られています。
そこで、AIを使って販売管理プログラムの構造を解析し、価格計算、受注処理、在庫更新などの機能を整理します。
その後、エンジニアがコードの内容を確認し、業務担当者と計算条件や例外処理を照合します。
さらに、在庫管理システムや会計システムへの連携を調査し、移行時に維持すべき機能を明確にします。
このように、AIによる解析と人による確認を組み合わせることで、移行判断に必要な情報を整理しやすくなります。
※本事例は説明用の仮想例であり、RIKAIの実際の顧客事例ではありません。

4.3. AIによる分析結果をMigration方式の判断につなげる

リバースエンジニアリングの目的は、既存コードを理解することだけではありません。
重要なのは、分析結果をもとに、何を維持し、何を変更し、どのような方法でシステムを移行するかを判断することです。
例えば、既存の業務ロジックを維持しながら実行環境を移す場合と、複雑な構造を見直して再構築する場合では、必要な調査とテストが異なります。
特に、設計書が不足しているシステムや外部連携が多いシステムでは、現状分析と移行方式の検討を一体的に進めることが重要です。

現行システムの調査から移行方式の選定まで、具体的な進め方については、RIKAIのシステムマイグレーションサービスをご覧ください。

また、AIによるシステム刷新の適用範囲については、AIでレガシーシステムをモダナイズできる?メリットと限界も参考になります。


まとめ

AIリバースエンジニアリングは、既存システムのコード解析、仕様整理、依存関係の把握などを支援する有効な手段です。
特に、設計書が不足しているシステムや、長期間の改修によって構造が複雑になったシステムでは、AI活用を検討する価値があります。
ただし、AIの出力には誤りや見落としが含まれる可能性があります。
そのため、次の5つのステップを重視する必要があります。

  1. 調査目的と対象範囲を定義する

  2. 既存資料とコードを安全に収集する

  3. AIでシステム構造と処理内容を分析する

  4. エンジニアと業務担当者が結果を検証する

  5. 分析結果をMigration計画へ反映する

AIリバースエンジニアリングで重要なのは、解析を自動化することではなく、現行システムを正しく理解し、根拠のある移行判断につなげることです。
AIの効率性とエンジニアの専門性を組み合わせることが、Legacy Migrationの不確実性を減らすための重要な考え方です。


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