執筆:ドアン・ハイ・バン(RIKAI Technology CEO)


序論:同時に進行する、2つの相反する潮流


テクノロジー業界のニュースに目を向けると、一見矛盾しているように見える2つの大きな流れに気づくはずです。


一つは、Meta、Amazon、Microsoft、Googleといったテック巨人が、数万人規模の人員削減を相次いで発表しているというニュースです。2023年から続くこの「レイオフの波」は現在も加速しており、AIの台頭がその直接的な要因の一つとなっています。


その一方で、世界全体のアウトソーシングおよびITサービス契約は過去最高を更新し続けています。ISG Indexの2025年第2四半期のデータによると、アウトソーシングの年間契約額(ACV)は四半期だけで292億ドルに達し、前年同期比で17%増加しました。

 

特に米州地域では155億ドルと過去最高を記録し、前年比で26%もの成長を見せています。
この相反する状況の裏では、一体何が起きているのでしょうか。


二極化する影響:すべての企業が同じではない


その答えは、「誰がAIの影響を受け、誰がAIの恩恵を享受しているのか」という点にあります。
ビッグテック企業から業務を受託しているオフショア企業は、現在、非常に強い圧力にさらされています。顧客であるビッグテック自身がAIを導入してコード生成、ドキュメント作成、テスト自動化を行い、運用コストを削減しているからです。AIで代替可能な業務の外注需要が減少するのは、当然の結果といえます。


しかし、銀行、保険、製造、小売、医療といった「レガシー産業(非IT業界)」では、状況は全く異なります。これらの分野では、アウトソーシング需要は減るどころか、むしろ急増しています。


なぜなら、これらの企業にとってAIは「IT人材を置き換えるためのツール」ではなく、「デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるための競争圧力」だからです。顧客はすでに、競合他社が提供するスマートでパーソナライズされたサービスを体験しています。例えば、ある銀行がリアルタイム不正検知AIを導入していなければ、顧客はより安全で便利な他行へと流れてしまうでしょう。自社内に十分なAIエンジニアを抱えていないこれらの企業は、必然的に外部のITサービス企業やオフショア企業を頼ることになるのです。


数字が示す、レガシー産業によるAI投資の加速


この潮流の規模を理解するために、いくつかのデータを見てみましょう。

  • 市場予測: IDCによると、世界のAI支出は2028年に6,320億ドルに達し、2024年の2,350億ドルから約3倍に増加すると予測されています(年平均成長率 CAGR:約29%)。
  • 生成AIの台頭: 特に生成AIへの支出は、現在はAI全体の17.2%ですが、2028年には32%に達し、5年間のCAGRは60%に及ぶ見込みです。
  • IT支出全体: Gartnerは、2025年の世界IT支出が2024年比で9.8%増の5.61兆ドルに達すると予測しています。
  • コンサル需要: AIのコンサルティングおよびサポートサービス市場は、2030年にかけて31.6%のCAGRで拡大すると予測されています(Yahoo Finance)。

これらの巨額の資金は、シリコンバレーから出ているわけではありません。銀行、工場、保険会社などが、AIエージェントによる自動審査や業務効率化を求めて投資しているのです。


なぜ今、オフショアが必要なのか?――「人材不足」と「高コスト」の二重苦

 


あまり公には語られませんが、AIの専門チームを内製化することは極めて困難であり、莫大なコストがかかります。


米国や日本市場において、経験豊富なAIエンジニアの給与は、オフショアの同等レベルの人材と比較して5〜10倍に達することもあります。また、Gartnerは、2030年までに企業の半数が、急速な自動化と人材マネジメントの欠如により、重要な職種において「回復不能なスキル不足」に直面すると警告しています。2026年の調査では、世界のAI人材の需給バランスは3.2対1(3.2件の求人に対して候補者は1人)に達するとされています。


その結果、多くの企業はリスクの高い内製化に固執する代わりに、ITサービス企業へ委託し、AIのPoC(概念実証)を迅速に進める道を選んでいます。これは、確かな技術力を持つオフショア企業にとって、かつてないビジネスチャンスです。


「AIエージェント」の波:チャットボットの先へ

 


私たちが顧客から直接感じ取っているもう一つの大きなトレンドは、単なる「チャットボット」から、自ら行動する「AIエージェント」への移行です。


もはや「質問に答えるだけ」では不十分です。企業は今、保険申請の自動審査、会計証憑の自動照合、サポートチケットの自動分類・処理など、実務を完遂できるエージェントを求めています。


Salesforceの調査(2025年)によれば、ITリーダーの93%が今後2年以内にAIエージェントの導入を計画しています。また、McKinseyは、生成AIが世界経済にもたらす価値の75%が、カスタマーサービス、マーケティング、ソフトウェア開発、R&Dの4分野に集中すると試算しています。


AIが解消する「オフショアの壁」:新たな優位性


AIは、オフショア開発が数十年にわたり抱えてきた本質的な課題――「コミュニケーションの齟齬」を解決しつつあります。


これまで、委託側(顧客)と受託側(開発チーム)の間にズレが生じる最大の原因は、技術力不足ではなく、仕様の不備や言語・文化の壁による「解釈のズレ」でした。


LLM(大規模言語モデル)の登場により、要件定義書や設計書といった中間ドキュメントの作成は劇的に迅速かつ正確になりました。かつてプロジェクトコストの約12%を占めていた翻訳や解釈に伴う工数は、現在ではAIの結果を確認するだけで済むようになり、1%未満にまで削減されています。


これは構造的な変化です。「人員の数」はもはや絶対的な優位性ではありません。少人数でもAIを使いこなすチームが、AIを活用しない大規模なチームを凌駕する時代になったのです。


開発プロセスの変革:V字モデルから「即時検証」へ

 


長年、オフショア開発は「V字モデル」に基づき、各工程(要件定義、設計、実装、テスト)を厳格に切り分けて管理してきました。これは、人間によるミスを防ぐための多層的なチェック機能でした。


しかしAIの登場により、これらの工程は一体化しつつあります。要件が提示された瞬間に、AIと開発者の連携によってプロトタイプが生成され、即座にテストが可能になります。中間工程の承認を待つのではなく、成果物を直接見て検証することで、開発期間とコストを大幅に圧縮できるのです。


本質的なリスク:AI依存によるガバナンスの喪失


私が最も懸念しているのは、AIへの過度な依存です。


AI、特にLLMが生成するアウトプットは、一見すると非常に整合性が取れているように見えます。しかし、「形式的に正しい」ことは「業務ロジックとして正しい」ことを保証しません。ソフトウェア開発において、コードが動くことと、業務上の例外ケースを正しく処理できることは別問題です。


開発者がAIを過信し、アウトプットを精査する能力や習慣を失えば、潜在的なバグが製品に紛れ込み、気づかれないままリリースされてしまいます。金融や製造といったミッションクリティカルなシステムにおいて、これは致命的な事態を招きかねません。
「アウトプットの大半がAIによって生成される中で、いかに品質を担保し、評価するのか」。これこそが、ITサービス企業が直面している最大の課題です。


RIKAIの挑戦:生産ではなく「評価」に投資する


RIKAIでは、この変化に即座に対応しています。

 

  1. AI活用と研究: 1年前にAI専門チーム「X-Team」を立ち上げ、eKYC、画像診断、自動販売AIチャットボット、自動採点システムなど、多くの実用的なAIソリューションを提供しています。
  2. 内部統制の自動化: すべてのコードコミットをAIが自動レビューし、潜在的な不具合を検出するシステムを構築しました。プロジェクトの状況を10分ごとに更新し、異常があれば即座にマネージャーへ通知されます。
  3. QC(品質管理)チームへの重点投資: 私たちが現在、最も力を入れているのはQCチームの強化です。彼らの役割は「手動テスト」ではなく、AIが生成した成果物を多角的に「監視・検証・評価」することです。AIの関与が増えるほど、最終的な判断を下す「人間」としてのQCチームの重要性は高まります。

ビジョン:「生産型」から「監督・評価型」への転換


今後、ソフトウェア業界のアウトプットの多くはAIが担うようになるでしょう。その結果、「生産能力」そのものの価値は相対的に低下していきます。


どの企業もAIでコードを書けるようになる世界では、競争の軸は「いかに速く、多く作るか」ではなく、「そのアウトプットが正しいかを、いかに高い精度で評価できるか」に移ります。


企業は「生産型」から「監督・評価型」へとビジネスモデルを転換しなければなりません。

  • AIが見逃した微細な業務ロジックの誤りを誰が発見できるか。
  • ハルシネーション(AIの嘘)を見抜くための高度な品質管理プロセスを、誰が構築できるか。
  • AIの回答を鵜呑みにせず、深いドメイン知識(業務知識)を持って審査できるか。

これらの問いに答えられる企業こそが、今後3〜5年のオフショア業界で生き残る勝者になると確信しています。


結論:ゲームのルールは変わった


AIはオフショア業界の脅威ではありません。むしろ、DXを加速させたいレガシー産業にとって、これまでにない巨大な需要を生み出すエンジンです。


しかし、この波に乗るためには、「たくさん作る」ことではなく「正しくコントロールする」ことが付加価値の源泉であることを理解しなければなりません。


AIによる生産スピードは、いずれ誰もが手に入れられるコモディティ(一般化された技術)になります。しかし、その品質の完全性を担保する能力こそが、これからの希少価値となります。そして、それこそがお客様が対価を支払うべき本質的な価値なのです。


だからこそ、RIKAIは今、QCチームへの投資を最優先しています。


本記事は、オフショア開発およびAI活用分野における実務経験に基づく個人的な見解をまとめたものです。


参考資料:

 

  • IDC - Global AI & GenAI Spending Forecast 2024-2028
  • ISG Index Q2 2025 - Global & Americas Outsourcing ACV
  • Gartner - Worldwide IT Spending Forecast 2025 / AI Lock-In and Skill Shortage Risk
  • McKinsey - The Economic Potential of Generative AI
  • Salesforce/MuleSoft - Connectivity Benchmark Report 2025
  • Yahoo Finance - AI Consulting & Support Services Market 2024-2030

 

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RIKAIはソフトウェア開発を軸に、「人と技術を中心としたビジネス」を展開しています。お客様に寄り添うことで、お客様の「真のニーズ」を把握し、本当に価値のあるサービスを提供します。私たちは、お客様と長期的かつ信頼できるパートナーになることを目指しています。

🏢 商号:RIKAI株式会社
📅 設立:2017年11月15日
👤 代表者:代表取締役 ドアン・ハイ・バン
📍 所在地:〒160‐0023 東京都新宿区西新宿6-12-1 パークウエスト5階
👥 従業員数:300名

🛠️ 業務内容
・システム開発(業務システム、モバイルアプリ、インターネットサービスサイト、IoT・AIアプリ)
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