【SH36小説】もうひとりはイヤ20240516


私は、真っ白な壁紙、どこかの施設のような

雰囲気が漂う部屋の入り口付近に設置されて

いるステンレスバイプのラックに寝かされていた

生後二ヶ月か三ヶ月になる女の子の

あかちゃんをそっと手に抱いた。


すると、親戚のおばさんに似た女性が

私の赤ちゃんよ。と言わんばかりに

腕を伸ばしてきた。


あかちゃんを抱っこされたくないんだな。

と思った私は、あかちゃんをそのまま、

おばさんの腕に渡したのだった。


「おばちゃんに似てかわいいね。」


私はおばさんに、そう言うと、


『おとうさんみたいにカラオケうまいかな?

…もう、ひとりでいるのは嫌なの…。』


そう、おばさんが悲しそうな声で呟いた。


そうして、少し間があってから、

私の耳に微かに聞き慣れた声を聞いた。


『俺に似てるか?(笑)さぁ、行くか…。』


おじさんだった。


おばさんが抱いていたのは、つぶらな二重の

白のサテン生地でできていたあかちゃんの

等身大人形であった。

淡いクリームイエローのレース仕立ての

ベビードレスを着た女の子のあかちゃん。


私の知っているおばさんは、おじさんを

とても愛していた。

先に旅立ったおじさんの火葬する時のことだ。

おじさんの眠るその棺に「おとうさんっ!!」

と泣き崩れて、すがりつき、

棺から離れようとはしなかった。


近年、おばさんは老人ホームに入ったと

聞いてはいたが。

寂しさから、まだ、おじさんが生きていた頃、

孫の世話を世話をしながら、

年金生活を送るおじさんとふたりで

かわいいねぇ、おとうさん!といった会話を

あかちゃんの等身大人形を抱きながら、

おばさんは、思いだしていたのかもしれない。


さっき、おじさんがいたよ?

おばさん、おじさんが亡くなったあとに

孫のところへ幽霊になって、孫の家の

ベランダで話をしに来て、話していたと

教えてくれたでしょ。

おじさんがおばさんのところに来て、

姿を現してくれないと寂しい顔をして

つぶやいていたこと覚えているよ。


おじさん、おばさんが天寿を全うする

ためにお墓から出てきてくれていたみたいだね。


そして、おばさんを探し続けていた

んじゃないかな。


おじさんは、そんなに多くは語らない。

でも、勉学した知識と毎日読み続けていた

新聞。新聞を片手にたばこをふかし、

おばさんがつくる料理を待つ。

夜寝る前、おじいちゃんとおばあちゃんが

眠るお仏壇の前で、日本酒をコップに半分ほど

入れたものを片手にお堅い文学史を読みふけり

ながら、おばさんが隣で寝息をたてて

眠る布団に入る。


おばさん、思い出した?

おじさんが生きていた頃のことを…。

おじさん、ようやくおばさんを見つけ出して

くれたんだよ。

おじさんは、おばさんを探し続けて

さ迷っていたみたいだよ。

おじさんを感じてくれているといいなぁ。


私も私の弟も、おじさんのあぐらをかく

足の上に座るのが大好きで、盆正月に

おじさんの家に行く度におじさんの取り合い

していたな。


おばさん、思い出して!

おじさん、側にいるんだよ!

姿は見えなくても。


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おばちゃま、開花しちゃいました?

~りかおばちゃまの日記~


 rikachima0925


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