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「今日のワインはドン・レゼルバでいいの?」

「ドンじゃなくってダンだよ。檀一雄のダンだよ」

「檀一雄?聞いたことあるけど、何する人だったっけ?」

「リツ子その愛その死、火宅の人を書いた人。俺の好きな作家だよ」

「火宅の人は聞いたことがあるよ。たしか映画にならなかった?」

「その檀一雄がこよなく愛したダンだよ。檀がポルトガルに住んでいたころ、俺と同じ名前のワインがあるじゃんと言っていつも飲んでいたワインだよ」

「あ、美味しい」

「そうだろ」

「私本当はビール党だけど、ワインもいいね」

数日後、段ボール箱に入ったワインが宅急便で届いた。

「龍ちゃんワインが届いたよ。あ、このワインの会社、横浜にあるのになにわ商事って言うだね」

「なにわ商事って、元はやっぱり大阪にあったんだよ。先代の社長と友達でね。今は娘さんが社長をしていて、娘さんが横浜に住んでいるから会社を移転したらしいよ」

「龍ちゃん大阪にも住んでいたことあるの?」

「大阪は住んだことないなあ」

「その社長さんも登山していたの?」

「登山はほとんどしたことがないと思うけど、ヒマラヤ遠征のスポンサーになってくれてた訳。そしてなにわ商事の社長は檀一雄の大のファンで、いっしょに福岡の柳川に檀一雄の墓参りに行ったことがあるんだよ」

「柳川か、うなぎしか頭に浮かばないですね」

「うん、うなぎも食ったなあ。あと、オノ・ヨーコの実家があったなあ」

「へえー、オノ・ヨーコって柳川の人なの?檀一雄の家とオノ・ヨーコの家って近所なの」

「近所かどうかまでは知らないけど。それに、正確にはオノ・ヨーコの実家ではなく、おじいちゃんの家らしい」