昔、友人が、

「決められた社会の枠組みの中で
 生きていくのが正しいことだと
 僕は思わない」

と言った

「大学を出て、就職をして
 結婚して、子ども育ててって
 そういう流れとは別のところで
 僕は生きていきたい」
 
そう言った

単純だった私は、そんな考え方も
あるんだな、と思ったけれど
彼はきっとその時点でもう
社会の枠組みの中で生きることが
自分には出来ないことを
知っていたのだろう、と思う

今、彼は無職で、
同じく無職の奥さんと
子どもと一緒に暮らしている
新しいことに挑戦したり、
好きなことをして生活している
苦しいこともあるだろうけど、
望んだ人生を送っているようだ

私は彼とはもう4年ほど会って
いないけど、たまに連絡はしている
メールの文章は相変わらず
落ち着いていて、静かだ

私は彼のことも、
彼の書く文章も当時から
本当に好きだった
だから今、彼が幸せなら
嬉しいと心から思う

だけど社会の中で、彼の感じるのとは
また違う苦しいことや辛いことを
掻き分けて進んできて
今、やっと私は私の形を
手に入れたと思っていて、
たくさんの努力と周りの人たちに
支えられて、泣きながら
進んできたこの今を、
彼のところへ届けても、
多分彼は気づかないのだろうと思う

彼がどんな道のりを歩んでも
私は彼が幸せであれば
それでいいと思うけど
もう違う場所へ行ってしまった彼と
再び会って会話を交わしても
齟齬を感じるだけになるんじゃないかと
思って、どうしても会うことが出来ない

いつか、また会えることが
できたら、そんな気持ちになれたら
その時は笑顔でお互いいれたら
いいな、と思うよ