僕に気付いて、フリーズしたのが遠目にも分かった。
細くて背の高いシルエット。
人のことは言えないけど、もっと背筋を伸ばしたらいいのに。
僕は近付いて、声をかけた。
「イ・ジュンヨンさん」
ジュンの答える声は、少しだけ上擦った。
「シン・ドンホ先輩」
固い表情。
当然のことだ。
今日ここにくることは、ジュンには知らせてなかった。
そのうちきちんと会う機会もあるだろうけど、できれば先に、ふたりきりで会っておきたかった。
「ジュニョンア」
親しく呼びかければ、すぐに返る言葉。
「はい」
僕は首を傾げて尋ねる。
「って呼んでいい?」
ジュンは伏せぎみだった顔を上げて、わずかに目を見開いた。
「はい」
僕は作り慣れた笑顔を向ける。
「大変だと思うけど、頑張ってね」
本当に、これから大変だと思うけど。
応援する気持ちは嘘じゃない。
「はい」
ジュンはまだ肩を強張らせている。
僕は視線を外して付け加える。
「ヒョンたちのこと、よろしく」
「はい」
ジュンはさっきより強く頷いて、僕は少しおかしくなってしまう。
一番頑張るべきはそこじゃないよ?
「じゃあ、またね」
「はい」
僕はジュンに背を向けて、廊下を歩き出す。
それからふと思いついて、足を止めた。
「あと」
振り返り、その場から動いていないジュンを見る。
「僕のことも、ヒョンでいいから」
ジュンはやっと肩の力を抜いて、笑顔を見せた。
「はい、ドンホヒョン」