「見るのもやるのも嫌だ」
震える声でケビンは言って、俺の首元に顔を埋めた。
ここが俺の部屋でよかった、と俺は思う。
誰かに聞かせられる言葉じゃない。
「分かってる」
俺はケビンの髪を撫でて、音だけのキスをする。
背中に回された腕に力がこもるのが分かる。
「分かってるから」
自分で考えていたよりも、俺自身は気にならなかった。
相手が誰であれ、所詮は演技だ。
『宮』を見て、チェギョンに嫉妬することもない。
「イライは平気なんだね」
不満よりも悲しみを滲ませた声で、ケビンが小さく呟く。
「これも仕事だから」
ケビンの背中を撫でながら、しかし俺の声も小さくなる。
選り好みなんてできる立場じゃない。
「ファンは喜ばない」
きっぱりとケビンは言う。
「分からないよ」
末っ子が更に若くなったとはいえ、一緒に走ってきたファンはもう大人だ。
こういうコンセプトがあってもいい。
「僕なら喜ばない」
「ケビンはファンじゃないだろ」
思わず苦笑して、身体を離す。
ケビンは顔を伏せたままで、尖らせた唇だけが見えた。
「気持ちは分かるけど」
別に俺が宥めなくても、そのうち気持ちを切り替えるのかもしれない。
何事にも手を抜かず、前向きに取り組むのはケビンの美点のひとつだ。
けれど、たまにはこうして吐き出してもらえると、俺としては安心でもあった。
何でも飲み込んでしまうばかりでは、パンクするんじゃないかと心配になるから。
ちゃんと言って。サインを出して。
心も身体も壊れる前に。
「うん」
大きく息を吐いて、ケビンはやっと顔を上げた。
真剣で強い視線が俺を捉える。
「これも仕事だね」
「そうだ」
しっかり頷いてやれば、ケビンはその瞼を閉じる。
自分を落ち着けるように、また深呼吸。
「分かった」
ケビンは今度は頷いて、目を開いた。
「いつもありがとう」
笑みを作り、俺が肩を竦めて答えれば。
「何もしてない」
ようやく緩んだケビンの表情は、いつになく綺麗で。
「今、までは」
付け加えるように言って、俺はケビンにキスをした。