後ろから抱きついて、肩に頭を乗せた。
「ケビン?」
キソプは僕の髪をなでる。
「制作発表、僕の分までよろしくね」
僕が言うと、微笑む気配がした。
そう、いつものように。
「分かった。大丈夫、スヒョン兄もフンミンも一緒だから」
頭を上げて、僕はキソプに向かい合う。
「ユルはキソプだけだよ」
「そうだけど」
きょとんとした顔で、少しだけ口を尖らせる。
「僕はユルは初めてだから、教えてよね」
そう言って笑みを作ると、キソプは僕の手を取って握った。
「もちろん」
去年の夏、キソプはユルをやって。
歌が上手くなって。
度胸がついて。
自信が出てきたみたいだった。
前に比べれば、ずっと。
「あーあ、僕、キソプと比べられることになるのか」
大きく伸びをして、僕はわざとらしく言う。
「それは僕のセリフだよ、ケビン」
今度はキソプが背中からハグしてきて、僕は前に回された腕に手をかける。
「演技もケビンの方がいいって言われちゃうかも」
演技も、ということは、歌では負けていると思っているのだろう。
シンと違って、ユルはダンスをするシーンはないから。
「そんなこと、あるわけないよ」
「分からないよ」
こんなことを言えるようになったのは、余裕ができたから。
以前なら、真剣に考えてナーバスになっていただろう。
「だって、キソプはユルにならなくたって完璧な王子様だから」
照れたらしいキソプは、僕を抱く腕に力を込める。
「ありがとう。ケビンもね」
その言葉には答えずに、僕はキソプに寄りかかる。
「ケビン?」
やわらかな声が、怪訝そうに尋ねる。
「どうかした?」
「なんでもないよ」
目を閉じて、背中に体重を預けると、心地よい重みが押し返す。
「ただ、こうしたくなっただけ」
僕の顔を少しだけ覗いて、キソプはけれど、何も言わなかった。
キソプはいつだって完璧な王子で。
その裏には優しすぎる心を隠していて。
努力家なのに不器用で、何かしら割を食っていて。
それが、彼の落とす影が他の人より薄い理由だったかもしれない。
だから、明るくなったことを。
人並みに、とまではいかないまでも、自信をつけたことを。
僕らは、僕は、喜ぶべきなんだ。
あの憂いに揺れる瞳や、不安げに肩を抱える姿が見られなくなることを。
その側に寄り添わなくてもよくなることを。
僕は寂しくではなく、嬉しく思わなくてはいけないのだ。
今までひとつひとつキソプが撒いてきた種を、育てた実りを、刈り取るときがきたのだから。
「キソプ」
「うん?」
腕を緩ませて振り返り、僕は再びキソプと向かい合う。
「ありがとう」
そういってキスをすると、王子は顔を赤くして僕の胸に沈んだ。