ホテルの部屋に戻ると、ジヨンはベッドに直行した。
倒れこむ音を背中で聞きながら、俺はドアにガードをかける。
廊下を進めば、サングラスも外さずにうつ伏せになったジヨン。
「ジヨン、靴」
うまく飛び乗ったのか、足先までベッドに上にある。
「寝るなら脱げ」
ついでに化粧も落とさないと、肌によくないと思う。
「脱がせて」
くぐもった声で、ジヨンが答える。
俺は上着を脱いで、ソファに投げる。
それからベッドに座って、言われた通りに靴を脱がせた。
「ありがと」
頭の方を見ると、サングラスを外したジヨンがどうにか枕を引き寄せようとしている。
「顔だけでも洗えよ」
手を止めて俺を見る目は、少し虚ろなくらいで。
それでもその視線は強くて。
疲れた、と何も言わずに訴えてくる。
「ジヨン」
無言の相手の名前を呼ぶと、顔を背けて再び枕を引き寄せる。
「ちょっとだけ。すぐ起きるから」
「ジヨン」
一度寝たら、こいつが起きるわけがない。
俺は立ち上がって、目の前の両足を掴み、思いっきり引いた。
「うわあっ」
俺が手を離せば、体半分が浮いていたジヨンは、床に膝をつく格好になる。
上半身だけベッドに横たえて、しかしこの男はまだ寝るつもりらしい。
「おい」
肩をゆすると、ジヨンは体を捻って仰向けになる。
そのまま床に座り込み、限りなく眠そうな目で、俺に腕を伸ばす。
「ヨンベ」
その手を取って引っ張ると、やっとジヨンは立ち上がった。
ふらふら揺れる身体を、腰に腕を回して支える。
「疲れた」
「分かってるよ」
「眠い」
「知ってるけど、手と顔くらいは洗ってから寝ろよ」
瞼は今にも閉じそうで、気を紛らわせるためかジヨンは俺の髪を手で梳いた。
「ヨンベ」
「うん?」
ジヨンは微笑んで、視線を上げる。
「この髪型いいな。色もすごく好き」
「ありがとう」
「だから」
再び視線が合う。
「笑って?」
予想外の言葉に少し驚いてから、俺は笑顔を作った。
「そうそう、それ。その顔で」
ジヨンは満足げに言って、更に注文を重ねる。
「キスして」
寝ぼけているんだろうか。
いや、起きていてもこういうことをいう奴だけど。
俺がジヨンの口を啄むと、噛み付くようなキスを返ってくる。
さっきまでのぼんやりした様子が嘘みたいに。
そんな奴に負けてられないと思えば、舌と唇の応酬になる。
存分にお互いの口腔を味わって、俺たちは息を整えながら顔を離す。
「目え覚めた」
悪戯小僧はニヤリと笑って、俺の頬に口付ける。
「顔洗ってくる」
そう言うとするりと俺の腕から抜け、ジヨンはバスルームへと向かった。