瞼を開くと、天井が見えた。
僕は何度か瞬き、ソファから身体を起こす。
テレビは消されていて、イライは隣のダイニングテーブルに座っていた。
「ごめん、寝ちゃった」
かけられたブランケットには覚えがある。
わざわざベッドルームから持ってきたらしい。
「起きたか?」
イライは読んでいた本を閉じてテーブルに置き、ソファに近付く。
それから僕の髪を梳いて、顔をしかめる。
寝癖を直そうとしているらしい。
それが上手くいかないと分かると、啄むようなキスをくれた。
「おはよう、ケビン」
おはよう、という時間ではない。
笑顔のイライとは裏腹に、僕は眠ってしまった自分に腹を立てた。
「僕、どれくらい寝てた?」
イライは隣に座り、僕と同時に時計に目をやる。
今何時なのはか分かるが、起きていた時刻の記憶が無かった。
「2時間くらいかな」
「そんなに」
僕が思わずため息をつくと、イライの声が優しく耳をくすぐる。
「ゆっくり休めたろ?」
そう、充分すぎるほど。
せっかく二人きりで過ごせる貴重な時間なのに。
寝てしまっては満喫できない。
「起こしてくれてもよかったのに」
声が尖るのが自分でも分かって、イライの顔から笑みが消える。
起きて、やりたいことがいくらでもあった。
話したいこともたくさんあった。
そう思って、僕はため息を飲み込む。
どうして一緒にいるときは、僕ばかり眠ってしまうんだろう。
また髪に手が触れて、僕はイライを見る。
「ケビンの寝顔、嫌いじゃないんだ」
少しだけ照れているような、でも真剣な表情でイライは言った。
「僕もイライの寝顔は好きだよ」
一緒にベッドにいるときも、待ち時間に仮眠を取っているときも。
だけど、こうして二人でいるときに寝られたら、怒らずにいる自信はない。
「誰かがいるときはケビンはいつも――」
言い淀むイライに、思わず先を促す。
「いつも、何?」
髪をかきあげて、イライはゆっくりと言葉を続けた。
「うまく言えないけど、俺の前だけでも安心して眠れるなら」
それからまた笑って、僕を見る。
「嬉しいよ」
たった一言で。
たった一度の笑顔で。
胸に差す影を吹き飛ばしてしまう。
ああ、だから。
僕は。
「イライ」
「うん?」
名前を呼んだ僕は、きっといつになく真剣な顔をしていたと思う。
「ありがとう。大好き」
抱きしめると、力強い腕が抱き返してくれる。
苦しくなるほど強いハグの後、僕らは苦しくなるほど深いキスをした。