UVカットガラスの外は、夏の日差しだった。
向かいのビルに反射した空は、見事なまでに青く輝いている。
僕は腕を枕代わりに、ソファに横になった。
「外見てるだけで暑くなる」
フン兄は僕を見て、少しだけ笑った。
「窓際だからだよ」
そう言いながら、ソファに近付く。
僕が上半身を起こすと、空いたスペースに腰を下ろした。
その膝に頭を乗せ、僕はまた横になる。
ヒョンは僕を見下ろして、髪を撫でた。
「眩しくない?」
直射日光は入らなくても、部屋は充分すぎるほど明るい。
「大丈夫。ヒョンが影になってくれたから」
僕は目を閉じて、ヒョンの掌を感じる。
髪に触れる手と、胸に乗せられた手。
それから、頭の下の体温。
「演技って難しいね」
発せられた言葉の先は、聞かなくても分かった。
だから遮るために、僕は尋ねる。
「でも楽しいでしょ?」
「うん」
即答されて、思わず笑ってしまう。
「ミュージカルは楽しいのが何より」
歌えて、演技もできて。
劇中にはしっかりダンスするシーンもある。
僕にはできそうにない、と思うと、見透かしたように言葉が降ってきた。
「ドンホはミュージカルより映画やドラマの方が似合うかもね」
僕は目を開けて、ヒョンを見上げた。
「僕、歌えないし」
歌うのも踊るのも得意ではない。
逆光の中のヒョンは、どうやら笑っているようで。
「じゃあ、ラップミュージカルで」
お見通しだぞ、とは言われなかった。
だから僕も、ラップもすごく好きなわけじゃない、と返すのはやめる。
「そんなの聞いたことない」
顔をしかめてみても、ヒョンは微笑んだまま。
その表情に安心して、再び目を閉じる。
「作ってもらおう、ジェソプに」
ヒョンらしい提案に、結局僕も笑うことになる。
「あとで聞いてみてよ。絶対それ面白い」
「分かった」
いくらHIP-HOPが好きで、作曲ができても、ミュージカルをまるごと1本作ってと言われたら驚くだろう。
その後できっと、フン兄とAJ兄のコントが見られるに違いない。
「ちゃんと僕がいるときに聞いてよね」
念を押すと、返事がさっきまでより近くで聞こえた。
「そうする」
続いて降ってきたのは、言葉ではなく唇だった。
僕は目を開けられずに、その口付けを味わった。