息苦しさを感じて眠りから覚めた。
目を開くと、飛び込んできたのはジヨン兄の顔だった。
「おはよう」
「おはようございます」
ヒョンはオレの鼻をつまんでいた手を離し、今度は頬をつねった。
「あの、痛いんですけど」
起きた早々、どうしてこんな目に遭わなくてはならないのか。
きっと本人は、愛情表現だと思っているのだろうけど。
ヒョンは表情を変えずに言った。
「痛いの好きだろ」
「好きじゃないですよ」
答えると、ニヤリと口角が上がる。
「Mのクセに」
オレは一瞬止まって、なんとか答えた。
「Mだけど、痛いのは別に好きじゃないです」
ヒョンは頬を離し、その手を組んで顎を乗せた。
「痛いの好きだろ」
「何を言わせたいんですか」
そう問うと、シュラグして目を逸らす。
「タトゥー、入れたらいいのに」
その言葉に嫌なものを感じて、オレは飛び起きる。
自分の胸から腹に広がる、キレイなグラフィティ。
剥いだケットから、油性ペンが転がって床に落ちた。
「あーっ!!」
跳ね飛ばされたヒョンは、腕を組みなおしながら呟く。
「こういうタトゥー。すごく似合ってる」
自画自賛して、満足げに頷く。
オレは肩を丸めて、大きくため息を吐いた。
落とすことを考えると頭が痛い。
これだけのものを描くには、それなりに時間がかかっただろう。
その間に目を覚まさなかった自分が憎らしい。
「あーもう。こういうことは、脱がずに済む人にやってもらえませんか」
「それ、お前と同じ名前のヤツのこと」
「そうそう、そういう人です」
線を擦っても、当然ながらびくともしない。
油性ペンを落とすのはやっぱりアルコールか何かが要る。
ヒョンはオレの様子をきょとんと見てから、笑顔になった。
「次から、そうする」
オレはやっと自分の言葉が何を意味したのか気付く。
「あ、ヒョン、今の撤回」
「ダメ。次はタプ兄にやる。タプ兄と寝た後」
「別にタプ兄と寝ることを推奨したわけじゃないです」
止めてみても、今更遅い。
「そう聞こえた。だからそうする」
その笑みは悪ガキそのもの。
しかも、この人なら実践しかねない。
「お願いです。それはやめてください」
「自分で言ったクセに」
「オレが間違ってました。スミマセン」
頭を下げると、ヒョンは目を細めて、顔を近付けた。
「そこまで言うならやめといてやる」
啄むようなキスをくれて、それから、オレのキスを受ける。
オレはその腰を引き寄せて、膝に乗せた。
唇が離れると、悪ガキから美しい恋人に変わったヒョンがいた。
「愛するジヨン兄、ひとつ聞いてもいいですか」
「うん?」
その顔に魅入られながら、オレは尋ねる。
「除光液、ありましたっけ」
弾けるように笑い出したヒョンは、 枕で思いっきりオレを叩いた。