SWの屈託 [fragment] | Shudder Log

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* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

Hanchul前提Sichul。
SWの後ろ暗さの無さについて。
パラレルではないけど、イメージソースは清水玲子の「秘密 ―トップ・シークレット―」の1999年回。
想い人はHCじゃなくてもよかったかも。
続きは無い。
 
* 信仰を傷付ける意図はありませんが、そう取れる内容を含んでいます。ご注意ください。
 
 
 ***
 
 
――― When the Lord closes a door, I will open a window for you.
 
 
膝の上に跨って見下ろしたシウォンは、俺の影の中に居た。
頭を傾けて光が当たるようにしてやると、眩しそうに目を細めた。
 
「で、俺にどうしろって?」
 
シウォンは真顔のまま、いつものように言った。
 
「祈りましょう」
「言うと思った」
 
予想通りの言葉に笑ってしまう。
笑った自分に苛立って俺が唇を噛むと、嗜めるように長い指が触れた。
 
「傷になりますよ」
「わざとやってんだよ」
 
それでも血が出る前に力を緩めて、代わりにキスをした。
噛み付くように乱暴に口付ければ、シウォンもそれに応える。
思う存分に舌で侵しあって、息をつくように離れた。
目の前の整った顔は、少しも動揺していない。
 
「俺のことが好きなクセに」
 
腹立たしくなって、挑発するつもりで言えば。
 
「もちろん愛してます。だから言ってるんです」
 
笑みさえ浮かべて応える。
 
「次の日曜は、教会でデートしましょうよ」
「笑える」
「オレは本気です」
 
俺は大げさにため息をつく。
 
「祈って、この現実が変わるか?」
「ヒョンが望まないなら変わりません。変わらないことを受け入れられるように祈るんです」
 
変わらないこと?
あいつが居なくなったこと?
それなのに俺はまだ生きてて、また誰かを好きになりそうなこと?
 
声が震えているのが自分でも分かった。
 
「――― 俺が、どれだけ」
「分かってますよ、でも」
 
シウォンの顔が僅かに険しくなる。
 
「どれだけ思っても手に入らないものがある」
 
言葉を搾り出すようにゆっくりと言う。
聞き分けのない子供に言い含めるように。
俺に向かって。
自分に向かって?
 
「だからオレは、自分にできることは何でもしたいんです」
 
愛する相手に触れることを。
手を繋いで、口付けて、身体を重ねることを。
手に入れてはいけないものだと言うのか。
 
「ヒョンにも、手にできるものを諦めて欲しくない」
「手にできるものってなんだよ」
「心の平安です」
 
俺の顔は今、ひどく歪んだに違いない。
 
「手に入ったか?」
「ええ」
 
どれだけ、と言うほど望んだものと引き換えにして。
それでも生きていかなくてはいけない。
この男には何の落ち度もないのに。
ただ好きになるのが同性だというだけで。
 
「そんなの悲しいだろ」
「悲しくはないです」
 
俺はシウォンの言葉を無視して続けた。
 
「もしお前が悲しむようなことがあったら」
 
俺みたいな奴じゃない。
この男を悲しませるようなことがあったら。
 
「それは、世界の方が間違ってるんだ」
 
冒涜的なことを言ってる、と思っただろうか。
お前は、そんな俺のために祈るだろうか。
そしたら俺は祈るお前の代わりに。
お前を悲しませる世界を罵倒してやる。
 
「許されなくていい」
 
額を押し付けて、目を伏せる。
頬に伝う水滴を、シウォンのキスが舐め取った。
 
「俺は赦されなくていい」
 
俺はまた下唇を噛んだが、涙は止まらなかった。
ギリ、と歯に力を込めると、やがて血の味が広がる。
 
「ヒョン」
 
シウォンが低くした声で言う。
 
「傷になります」
「だからわざとだって」
 
俺は口角を上げた。
 
「思い出せよ。この傷跡を見る度に」
 
首を引き寄せて、視線をまっすぐに合わせる。
 
「俺を抱いたこと」
 
そう言って、俺はシウォンの身体を押し倒した。