思わず目を開けて、唇を離した。
「どうして」
尋ねた声が掠れる。
ヒチョルはまっすぐ俺を見た。
「どっちにしたって行くしかないんだ。オレが先だっていいだろ」
「そりゃ、そうだけど」
俺が一番上だといっても、数日しか違わない。
同時にグループを離れるわけにはいかないのも、もちろん分かってはいる。
でも。
「ギリギリまで働けよ、仕事中毒者」
余裕の笑みを浮かべて、再び口付けが始まる。
目を閉じたヒチョルの顔に、違和感を覚える。
どうして。
「ちゃんと答えて」
身体を離して、頬に触れる。
その瞬間、ヒチョルの肩が震えた。
「冷てぇ手」
顔をしかめて、ため息を吐く。
「どうして?」
時間が許す限り仕事をしていたい。
やり残すことがないように。
余裕を持って入隊すれば、あれもできた、これもできた、時間はあったのに、なんて思い返すのは目に見えている。
それにしたって。
全部やって行ったところで、思い悩むのも目に見えているのに。
「だって、見送りたくねえから」
うんざりしたように言って、ヒチョルは唇を近付ける。
「俺を残してくのはいいわけ?」
キスの合間を縫って尋ねる。
「オレは出てくわけじゃない」
じゃあ、結局見送ることになるんじゃないか。
俺と。
イェソンを。
カンインを見送ったように。
「変な気、回すなよ」
「変な気って何の気だよ」
答えの代わりに、舌が絡められて。
分かってるよ。
すぐ戻ってくる、なんて言わない。
そんな、分りきったこと。
「回すなって言ってんのに」
口に出さなくても、お見通しらしい。
思わず口角を上げると、ヒチョルの声が尖った。
「何笑ってんだ」
「感心したんだよ」
今度は自分から舌を舐めた。
願わくは。
応えるヒチョルの腕を掴み、引き寄せる。
願わくは、この部屋で彼が孤独にならないように。
取り残された仔猫のように、独り啼くことがないように。
うん、弟達がいるし、大丈夫だね?
きっと。
今は、もう。